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蛭子能収のうきうきギャンブラー人生

バルセロナのカジノ

 最近テレビの仕事で忙しい。それもロケが多く、スタジオよりは長い時間を取られてしまうのである。効率は悪いがロケの良いところもある。それは知らない街へ行けると言うことだ。仕事でもなければ多分行かないだろうなというところへ行ける。日本でも冬の青森に行った時、道路が雪ですっぽり包まれ辺りの景色が真っ白になっていた。こんな光景は東京では見られないものだ。「すごいな~」と思いつつ、目は真っ白い景色に釘付けになっていた。

 海外へも時々行くことがある。3泊5日の日程で初めてのスペインへ。バルセロナである。日本からはかなり遠い。あのガウディのサグラダ・ファミリアは工事中だが建物の想像以上の大きさと設計図が書けるのか? と思わせる複雑な形にうっとり見とれてしまった。
 バルセロナでの仕事は? スリが多い町ということでスリの取材である。私もスリにスラれるかスラれやすい格好をして町を歩いた。一人の男が近づいて来たがカメラに気づいたか? 何も盗らずに去った。

 スリを捕まえる女性がいたので、その人について行くとスリを見つけ、「ピーッ!」と笛を吹き、「こらっ、そこのスリ、電車を降りろ!」と叫ぶ。もうスリの顔を知っているのだ。ほとんどが常習犯で、スリ達は地下鉄にも大体スル目的で乗る。笛を吹かれると「このクソババー!」と言って去る。クソババーは私の勝手な日本語訳であるが…。

 ところでバルセロナにカジノはあるのか? 私はそれがずっと気になっていた。ホテルの人に聞いてみると「ある」らしい…ホテルからタクシーで20分くらいで着くという。
 ロケが終わった夜、マネージャーを誘い、カジノへ行った。にぎやかなネオンで明らかに「ようこそカジノへ!」と私を歓迎してくれているようだ。まずは女性マネージャーが夕食を食べてないのでレストランへ。地下のレストランは広いが客は私達だけだった。

 マカオのカジノへ行った時、ブラックジャックが割と勝ちやすいと思った私はブラックジャックの台に座った。
 ディーラーの若い男が黙って立っている。カードが配られ、私は右手でトントンとテーブルを叩いた。これは、もう一枚カードをくれという合図である。ところが若い男はボタンを押せと言う。よく見るとテーブルの脇にボタンが2つあり、一つは「もう一枚カードを引く」、もう一つは「追加のカードは要らない」というストップボタン。これではまるでゲームセンターではないか。せっかくディーラーとして若い男がいるのにボタンを押してカードをもらうのに違和感がある。

 何回も手でチョンチョンとしてしまう。その都度「ボタンを押せ」と言われる。くそっ! こんなのカジノじゃない!! 腹が立ってきた。一番勝ちやすいブラックジャックだが、結局バルセロナでは負けた。なにか腑に落ちない負けだった………

 

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著者略歴

  1. 蛭子能収

    1947年長崎生まれ。漫画家、俳優。看板店、ちりがみ交換、ダスキン配達などの職業を経て33歳で漫画家に。その後TVにも出演。現在「蛭子コレクション」全21冊のうち7冊発売中。ギャンブル(特に競艇)大好き。カレーライス、ラーメンなど大好き。魚介類や納豆は苦手。現在、タレント、俳優、漫画家、エッセイストと多ジャンルで活躍中。

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