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蛭子能収のうきうきギャンブラー人生

初めての海外へ

 一番最初の海外旅行は香港である。私が38才の頃。香港といえばマカオである。船で一時間くらいのマカオへ行けばカジノができる。生まれて初めてのカジノ行きを楽しみにして私は旅行に参加した。出版社の編集者やイラストレーター、マンガ家など、総勢6名の海外旅行。みうらじゅんもいた。皆はギャンブルに興味なく4日間香港で過ごすことになり、私は一日だけマカオツアーに参加した。私一人では心配と編集者の梨本さんが付いてきてくれることになり、私もホッとした。

 2日目、香港に残る4人を後にして私達2人は案内されるままジェット船に乗った。ジェットと名の付く船だけに速い速い。青い海と青い空、そして緑の島を見ながら一攫千金の夢に希望が膨らみ、喜びが絶頂のものとなっていた。

 マカオに到着。ツアー案内人の指示で入国書に名前を書いたり、なにかまた別の国に来たような感じである。

 観光バスに乗ってマカオの観光が始まった。いやいや観光なんていいですよ、と言いたかったが日本語しか喋れない私、どうすることもできない。あ、ツアーガイドの女性中国人は、ずっと日本語で喋っていたんだ。そうだよ、案内されてるのは全員日本人だもの。恥ずかしくて言えないだけだった……。

 寺院とか回った後、やっとカジノ観光になった。中国人ガイドは何回も口を酸っぱくして「スリが多いので気をつけて」と言った。ハイハイ分かりましたよ、てな感じで私達はバスを降りる。約一時間、自由にカジノで遊んでいいそうだ。

 リスボアカジノ、昼間からネオンがギラギラ輝いている。カジノの入口で梨本さんが写真撮りましょうよ、と言うので面倒臭いなーと思いつつも、ポケットから持ってきてた約30万円の金を両手に持ち、これから勝負!! の意思の強い笑顔でポーズを取った。カシャカシャ、写真を撮り終えて中へ入る。わーっ、すごい人だ。まず日本円を香港ドルに両替。5万円くらい替えたかな? 一番人の多い大小のコーナーへ。大か小へ賭け、当たると2倍の金が戻ってくる。外れりゃ没収される。すごく簡単なゲームだ。他にも賭け方はあるが、とりあえず簡単なこの賭けに、大へ2千円張った。そして当たった。4千円になった。しかし当たったのはこの初回だけで後は殆ど外れ、あっという間に5万円分無くなった。

 そして「あと5万円両替してくるよ」とポケットに手を入れた時、ゾーッとした。お金がない。後ろのポケット2つに分けて入れてあった一万円札が全てなくなっていたのだ。

「スラれた!!」。ガイドさんが口を酸っぱくして言ってた言葉「スリに気をつけて」。私は見事にバカな観光客になっていたのだった。
 ポケットに残っているのは百円玉や十円玉ばかり。人生で初めてスリにあった。入口でお金を見せて浮かれてたのが間違い。

 残り2日間、香港での私は金無しで土産も買えず、寂しかった。

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著者略歴

  1. 蛭子能収

    1947年長崎生まれ。漫画家、俳優。看板店、ちりがみ交換、ダスキン配達などの職業を経て33歳で漫画家に。その後TVにも出演。現在「蛭子コレクション」全21冊のうち7冊発売中。ギャンブル(特に競艇)大好き。カレーライス、ラーメンなど大好き。魚介類や納豆は苦手。現在、タレント、俳優、漫画家、エッセイストと多ジャンルで活躍中。

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