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蛭子能収のうきうきギャンブラー人生

フィリピンでの恐怖

 フィリピンに行った時のことです。この頃は雑誌の企画で外国によく出掛けていました。目的はカジノです。「蛭子のカジノ旅行」いうタイトルだったかもしれません。韓国やマカオ、そしてラスベガスにも行きました。ネパールにも行った。

 フィリピンは現在、中国と領土問題で揉めています。いかにも横暴な中国にタジタジしているイメージがあります。しかし、20年くらい前のフィリピンは怖いイメージを持っていました。新婚旅行にフィリピンに出掛けた日本人の若い夫婦がタクシーの運転手にピストルを突きつけられ、お金を盗られた上に殺されたのです。
 運転手がピストルを持っているというのは怖くないですか?

 そのフィリピンのカジノに行ったんですよ。セブという島にカジノがあるんです。
 まずフィリピンの空港に着いて私は一人トイレに行きました。何か怖いというイメージでドキドキします。トイレは私一人でした。
 小便をするべく、ズボンのチャックを下ろしてイチモツをだしチョロっと小便を出し始めた時です。トイレのドアが空き、地元の若い男が私の所へツカツカと迷うことなく歩み寄ってくるではありませんか。私はドキッとして「これはやばい」と思いました。早く小便を終わらせて逃げなければ、と。
 ところがその男、私が小便をし終わると同時に小便器の上に付いていた水を流すボタンを押したのです。「ジャー」という音と共に水が上から流れ、私の小便はその水と共に流されたのです。な、なんでこんなことをするんだ?と無言でその若い男を見ると、私に手を差し出していました。チップをくれということのようでした。私は「ああ」とポケットに手を入れ、小銭(100円くらい)を彼に渡しました。するとニコッと笑って去って行ったのですがね。
 でも、本当に怖かった。ヒャッとした出来事でしたね。ホッとしましたけど。

 タクシーに乗ってセブへ行く空港まで行こうということになり、男4人で一台のタクシーに乗りました。ここもやはり怖かった。男が4人いたから平気だったんですが、私一人だととてもタクシーには乗れなかったと思います。うまく言えないけど、なんか怖いんですよ。
 そしてセブ島に着きました。ホテルにチェックインしてカジノまでは歩いていける距離です。10分くらい歩けば着くんですが、これまた歩くのが怖い。何で怖いのかうまく言えないけど一人ではとても歩いてゆけませんでした。それで夜、タクシーを呼んで4人の男でカジノに行きました。
 勝敗はどうだったか、って? それがまったく覚えてないんですよ。
 ただただフィリピンは怖かったとしか残ってないんです…。

 

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著者略歴

  1. 蛭子能収

    1947年長崎生まれ。漫画家、俳優。看板店、ちりがみ交換、ダスキン配達などの職業を経て33歳で漫画家に。その後TVにも出演。現在「蛭子コレクション」全21冊のうち7冊発売中。ギャンブル(特に競艇)大好き。カレーライス、ラーメンなど大好き。魚介類や納豆は苦手。現在、タレント、俳優、漫画家、エッセイストと多ジャンルで活躍中。

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