MENU

ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

さらば、巨大仏ブーム

 オレは、身長が40メートル以上ある巨大仏像が大好きだ。 

 見てるだけで今にも踏み殺されそうで怖くてドキドキし、やがてそのドキドキが途方もない興奮に変わってくるのだ。 

 2011年。そんなオレを大興奮させる情報が入ってきた。ナント、淡路島に世界平和大観音像という身長が80メートルもある巨大仏があるらしいのだが、持ち主が死んでしまった後、その巨大仏が傾いてきて周囲に住んでいる人をおびやかしているという。 

 

 そんな話を後輩から聞かされた瞬間、オレは何はともあれ、その巨大仏を生で見たいと思った。また、その頃のオレは、世界平和大観音像の近くにある香川県、その讃岐うどんのメッカにも凄い勢いで惹かれ始めていたので、2011年中に淡路島に向かったのである。 

 淡路島に入ってから2つ目の「東浦」という高速のインター、そこから下りて、カーナビ通りに一般道を走り始めた。が、既に1キロ以上走っているのに巨大仏はどこにも見当らない。おいおい、ホントにその巨大化は あるのかよっ!?と思い始めながら、途中から急に登り坂になった道に差し掛かってまもなくの時だった。 

 

(うおおおおお!!)

 

巨大仏は最初に発見した時が、その巨大仏の足元に立った時の次に興奮するよね。

 

しかし、この巨大仏は最初は仏の類には見えなかったよ。

 

 道路の向こうに突如現われる小さな立像。が、それは前方に進むにつれみるみる大きくなってきて、その時点でオレの心臓はバクバクという音を刻み始めていた。 

 勿論、その恐怖から来る興奮は、その巨大仏の一際デカい大きさから来るものだったが、この時のオレの横隔膜から迫り上がってくるような熱いトルネードを発生させているのはそれだけではなかった。そう、巨大仏にしては、あまりにも雑な出来だったのである。小学生の美術の工作、それを無理矢理大きくしたような外観だったのだ。

 その後、オレはその巨大仏のすぐ脇の場所に車を止め、改めてその真下から、その世界平和大観音像を見上げてみた。 

 

いゃあ~、この不格好さにオレは一発でやられちゃったんだよね。

 

 より大きな興奮で体がビリビリ濡れていた。「むち打ち観音」とも呼ばれる、首の部分に展望台が付けられており、が、その顔は何ごとも無かったかのように無表情なのである。 

 

 オレは、そのアンバランスさにやられた。それまで日本にあった、計15体の巨大仏。その造りは、中高校生の中ぐらいのレベルの美術部員が作ったようなレベルの見てくれだった。が、この世界平和大観音像は、そのどれとも比べても明らかに雑に造られていて、が、それがかえってこの巨大仏を途方も無いようなモノに見せていたのである。 

 

 ちなみに、この巨大仏を建立したのは大阪でいくつものビルやマンションを経営してる大金持ちだったらしく、その人が自分の出身地の淡路島に「平和観音寺」の名物として造ったという。が、1982年に完成後、その大金持ちが6年後に死去し、その後、妻が引き継ぐも、その妻も18年後に死去して、遂には平和観音寺は閉館。そして、その2006年から同寺は廃墟となったらしい。そして、肝心の世界平和大観音像の傾き具合だが、オレが初めて訪れた2011年の時点では、少なくとも今日や明日に倒れるほど傾いてるようには見えなかった。 

 

讃岐うどんと同時進行でオレがハマった世界平和大観音。自分でも思うよ、完全に頭がオカしいって。

 

その後、オレは讃岐うどんにすっかりハマリ、年に何度もその本場の香川県に通うようになった。と同時に、必ずその行き帰りに世界平和大観音像を観賞するようになったのである。 

 自分でも、なんでここまで昭和時代に次々と建立された巨大仏、その中でも特にこの世界平和大観音像に惹かれるか、きっちりとその理由を説明することは出来なかった。が、とにかくオレは、この巨大仏に相対すると最初は殺されるという恐怖心にズッポリと包まれ、そのうちソレに同巨大仏が発しているマヌケ感が混ざり込み、すると自分は今、相対しているモノに対して怖れを感じているのか、もしくは親近感を感じているのか全くわからなくなる。すると、やがてこの巨大仏を通して、自分が未だにこの世に存在している不思議さが、まるでサウナの“整う”と同じように全身にいき渡るのである。 

ところが、そんな世界平和大観音像との蜜月を築いていた2017年頃、突然の不幸が同巨大仏を襲った。 

 

遂に脆さを露失してしまった世界平和大観音。流石にヤバいと思った。

 

 世界平和大観音像の脇腹に穴が開いてしまったのである。で、これを皮切りに、再びこの像はいつ倒れるかわかったものじゃないというバッシングが湧き上がるようになった。しかし、持ち主が不在の現在、これを倒すとなると9億円近いお金がかかるらしく、そんな大金は地元の兵庫県は出せないということで、再びこの像は放置されていたのである。 

 

 ところが、2020年2月2日。この世界平和大観音像の首のところにある展望台から、男が飛び下り自殺。この事件を機に、この巨大仏は国の所有物となり、2021年6月から遂に 解体工事が始まってしまったのである。で、オレは悲しみつつも、その時期には仕事が忙しくなってきて、淡路島には行けなかったため、その隣県に住んでいるマイケル木村という読者に、その解体工事の写真を時々撮りに行ってくれないかと依頼。そして、以下がその写真である……。

 

足場の鉄骨で囲まれ始める大観音。てか、こんな鉄骨で囲うから9億円近くかかるんだよ!

 

あ〜あ〜、鉄骨から出てるのは顔と右手だけかい。可哀想で言葉も出てきゃしねえ。

 

ああ、この鉄骨を全て吹き飛ばして、暴れさせてやれれば……。

 

こうなると一巻の終わりですな。あとはこの鉄骨の中でボコられるのか……。精進してくれな。

 

 解体工事は2022年に終了。これにより日本全国に計15体あった、身長40メートル以上の巨大仏が1つ減って、残るは14体になった。そして、この巨大仏の数は今後増える可能性は低く、逆にこれから何年かに1体の割合で減っていくと思う。さらば、昭和の巨大仏ブーム……

 

喫茶店の向こうに立っていた世界平和大観音像。もうその姿は二度と見られない。

 

大観音像なき後に佇むオレ。さ、名物の玉ねぎでも買って帰ろう……。ケッ!

 

 

『ともだち~めんどくさい奴らとのこと~』

amazon

 

-----------------------------------------------------

『そっちのゲッツじゃないって!』

◇ガイドワークスオンラインショップ
(限定特典:西原理恵子先生表紙イラストのクリアファイル付)
『そっちのゲッツじゃないって!』

◇Amazon
https://www.amazon.co.jp/dp/4865356339

バックナンバー

著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

関連書籍

閉じる