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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

セージの実力

 オレの弟のセージも令和3年8月の現在、52才になった。
 で、昔に比べれば今はそんなにバカなことも起こさなくなったが、やっぱりポイント、ポイントでは(えっ!?)と思うことをやる。

 今から1年半前。オレのところに兵庫県に住む読者の太郎ちゃんという男からDMがあり、自分は現在出張料理人をやっているのだが、今度用事があって東京に行くので、もし板谷さんにお時間があったら是非お会いしたいですと書いてあった。オレは少し考えてから、『悪いけど、その月は原稿の締め切りが重なってて忙しいんだよね』と断わった。すると、また半月後にDMがあり、6日後に東京に行く用事があるので、もしその時に板谷さんにお時間があったら是非お会いしたいですと書いてあった。
 てか、オレの大好きな熟女ならともかく、40代の男がオレに会いたいって一体、何が目的なんだよ?と思って断ろうと思ったが、その日は夕刻からは何も予定が入っておらず、まぁ、逆に同性だったら何かあった場合、ブン殴っちゃえばいいと思ったオレは、その太郎ちゃんという男と6日後の夕刻の5時に立川駅で待ち合わせをすることになった。

 で、当日。その太郎ちゃんと立川駅で会ってみると、なかなか清潔そうな、いかにもナイスガイで、オレはそのまま駅前の居酒屋で彼と酒を飲むことになった。
 話によると太郎ちゃんにオレの本を勧めたのは彼の姉らしく、その後、太郎ちゃんが大好きな元ブルーハーツの甲本ヒロトさんとマーシーさんにオレが何回かライブに呼んでもらっているということを知ってからは、とにかくオレと会って話がしたくなったという。が、オレと言えば、現在もこんな下らないコラムをチビチビ書いているだけの男である。だからあんまり変な期待だけはしないで欲しいと言ったのだが、とにかく板谷家のケンちゃんやセージの話が大好きで、それを本にしたオレと会っているのが未だに信じられないとのことだった。

 で、まぁ、オレもまだ本に書いてないケンちゃんやセージの話を太郎ちゃんにしているうちに時間はアッという間に流れ、時計を見ると既に23時10分になっていた。
「なぁ、太郎ちゃんは今日泊まるとこあんの?」
「いや、いざとなったら駅前にあるカプセルホテルにでも泊まりますから心配しないで下さい」
 オレは少し考えてから次のようなセリフを太郎ちゃんに言っていた。
「じゃあ、これからオレの家でもう少し飲もうぜ。で、今夜はオレの家に泊まってけよ、空いてる部屋もあるからさ」
「えっ、いいんですか!?」

 で、その後、オレの家の居間で酒を飲んでる最中、オレは太郎ちゃんに、図々しいことを頼んでいた。
「太郎ちゃんは、出張料理人だろ。ちなみに、あと1カ月後の12月の30日にウチに忘年会で40人ぐらいの人が集まってくるんだけど、もちろん新幹線代と食材費はコッチが全部出すから、あの……ギ、ギャラはタダで料理を作ってくれないかな? 1人が大変なら助手も2~3人は付けるから」
「あ……いいっスよ」
「えっ、ホントにいいの!?」

 つーことで、それから1カ月後。オレは再び太郎ちゃんと立川駅で待ち合わせ、みんなから後で徴収する分のお金を持って魚屋や肉屋を回った。そして、家に帰ってくると、名古屋からセージと奴の嫁も帰ってきており、セージに太郎ちゃんのことを紹介するとニコニコしながら次のような挨拶をした。
「うわっ、兵庫県からわざわざ来たの⁉ ウチの兄貴に捕まっちゃったんだ?」
「いや、ボクの方からゲッツさんにお会いしたいって言ったんですよ」
「とにかく気をつけてね。ウチの兄貴はキチ〇イだからさ」
「ちょっと待たんかいっ、セージ。何でオレがテメーにキチ〇イ呼ばわりされなきゃならねえんだよっ!? ウチのキチ〇イのエースって言ったら、誰が何と言おうとテメーじゃねえかよっ」
「なぁ、兄貴……。俺だって名古屋の会社では所長なんだよ。部下だって15人ぐらいはいるんだから、そんなね、もう人に笑われることなんてしないっつーの!」
「……………」

 で、その日は夕方5時に忘年会がスタートするので.とにかく太郎ちゃんはウチの台所で午前中からモノ凄い勢いで料理を開始し、助手のオバちゃん2人と手早く色々な作業を進ませていた。そして、昼の2時になったころだった。
「すいません、板谷さん。どこかにバーナーはありませんか?」
 いきなりオレにそんなことを訊いてくる太郎ちゃん。
「えっ、バーナーって?」
「魚を炙る時に使う、小さな缶にバーナーが付いてるヤツなんですけど」
「ああ、知ってる、知ってる! 寿司屋の板前なんかが炙りの寿司を作る時に使う、あの片手で持てるヤツでしょ?」
 いきなり太郎ちゃんとオレの間に入ってくるセージ。
「そうです、そうです!」
「ウチの親父が昔、よく使ってたんだけど今は無いなあ……。よし俺がホームセンターで買ってきてあげるよ!」
「それっていくらぐらいするの?」
 セージに質問するオレ。
「う~ん……まぁ、2千円もあれば余裕じゃないの」
「じゃあ、経費の中から出すから、コレ持ってけよ」
 そう言って自分の財布の中から2千円を出し、それをセージに渡すオレ。

 2時間後-----------------。
「何やってんだろ、セージは? 車で5分くらいのホームセンターでバーナー1本買うだけなのに、何でこんな時間がかかってんだろ?」
 未だに帰ってこないセージに、いつものようにイラつき始めるオレ。

 さらに30分後---------------------。
「ダメだ、もうすぐみんな、来ちゃうよ。オレ、ちょっとホームセンターに行ってくるわ」
 そう言ってオしが玄関に向かおうとした時だった。
「いや、参ったよ……」
 そう言いながら、その玄関から突然帰ってくるセージ。
「お前、何やってんだよっ!! バーナー1本買うのに何時間かかってんだっつーの!! 早く出せよっ」
「いや、バーナーは買えなかったよ」
「はぁ~!? 何だよ、それ……」
「いや、バーナーを持ってレジに行ったら、消費税も含めて2060円だって言うんだよ……」「………えっ、で?」
「だから2000円に負けてよって言ったんだけどダメだって言うから、じゃあ、ちょっと店長呼んできてって頼んだんだよね……」
「………で?」
「そしたら店長が来たんだけど、何度頼んでも60円負けてくれなくてさ……」
「………で?」
「だから帰ってきたよ」
「ふしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃ!!」
 突然爆発する太郎ちゃんの笑い声。その笑いは暫く止まらなかった。

 

 つーか、太郎ちゃん。こんなんで良ければ、セージは3日に1回は同じようなことを起こすよ。オレが疲れるのもわかるだろ……。

 

 

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