まるや三バカ親父愚論会 調子に乗って第3夜
ゲッツ板谷
塚ポン
三村
今から10年前、埼玉県富士市で串カツ居酒屋『まるや商店』を始めた塚ポン(49)。その居酒屋があまりにも居心地が良く、離婚を機に第2の人生を送るために、そのまるや商店の近くに引っ越したオレ(60)。そして、元々そのまるや商店の近くに住んでいて、昼間は自営業で雑誌のデザインをやり、夜は必ずその息抜きにやってくる三村さん(66)。
まるやのカウンターでは、いつもこの3人が揃い、ポンコツなムダ話を交わしている。さてさて、今回は一体どんな会話が展開しているんでしょうか?
塚ポン「ちなみに、三村さんの夢って何ですか?」
ゲッツ板谷(以下、ゲッツ)「ぶぷぅ! ……おい、ウーロン茶吹いちゃったじゃねえかよっ。お前、なに60代も後半に差しかかったお年寄りにそんなこと訊いてんだよ?」
三村「おい、お年寄りはねえだろっ! てか、何かいっ、俺は夢を持っちゃいけねえのかよっ!?」
ゲッツ「じゃあ、改めて訊きますけど、三村さんの夢って何ですか?」
三村「えっ夢? そうだなぁ~。これから色々勉強して、単行本や文庫本の表紙のデザインをする日本でも有数の装丁家になることかな」
ゲッツ「ブハッハッハッハッハッハッハッ!! い、色々勉強するって、一体何を勉強するんですかぁ? もう半分ガン箱(棺桶)に片足突っ込んでんのに」
三村「ガン箱に片足って……おい、ゲッツ。表に出やがれっ、人のことをバカにしやがって!!」
ゲッツ「はい、後でね。ちなみに、塚ポンの夢って何だよ?」
三村「あ、後でねって………」
塚ポン「いや、ボクはこのまま、このまるや商店の売り上げを少しでも伸ばしてって、あと6~7年後に息子のアキトにこの店を譲ることですね」
ゲッツ「えっ、それだけ? つまんねえ夢だなぁ~、おい」
塚ポン「じ、じゃあ、ゲッツさんは、どんな夢を持ってるんスかっ? 教えて下さいよっ」
ゲッツ「え、オレ? 秘密」
三村・塚ポン「ふざけんじゃねえよおおおっ!!」
ゲッツ「ウソだよ、ウソ。いや、オレの夢は今、売り出している12年振りの小説『ともだち』が半年後にようやく話題になって、1年後には刷り部数が50万部を突破して、奇跡の小説って言われてさ。と同時に、ネットで連載している『スケルトン忠臣蔵』ってコラムも3冊ぐらいの単行本になって、それも大ヒット。すると紀行本業界からも“ゲッツさん、また世界各国の紀行本を是非書いて下さい”って話が次々と飛んできてよ。で、結局オレはアジアの紀行本を計20冊、ヨーロッパの紀行本を計15冊出した後、電撃的に熟年の余貴美子さんと結婚することになってさ。で、そうこうしてるうちに、この日本の新B級グルメガイド本を4~5冊出した後、今度はいよいよ俳優の世界に……」
三村「おい、貴様は300歳ぐらいまで生きるつもりなのかっ!?」
塚ポン「そうですよっ。図々しいにも程がありますよ!」
ゲッツ「あ~あ~、埼玉の田舎町に長く住んでると、人間っていうのは、こうまでスケールが小さくなっちまうのかねぇ~。ところで、三村さんと塚ポンは今まで本気のケンカってしたことありますか?」
三村「ほ、本気のケンカって何だよ?」
塚ポン「ボクだって年に1~2回は嫁と本気で……」
グッツ「いや、そういうんじゃなくてさ。相手のことをマジでブッ殺しちゃおうってんで、いきなり目潰しをやったり、相手の頭部を近くの家の外壁に何度も叩きつけて、そのまま後頭部の髪の毛をひっつかんだまま、その顔面を外壁に押しつけその家を一周しちゃうとかよ」
塚ポン「そ、そんなケンカをヤンキー時代にはやってたんですか⁉」
三村「酷いな、おい………」
ゲッツ「ま、そんなケンカはオレも1度もやったことはないんスけどね」
塚ポン・三村「ないんかいっ!!」
ゲッツ「逆にあったら嫌でしょ! じゃあ、2人は金縛りにあったことってありますか?」
三村「俺は無い」
ゲッツ「早っ。三村さんて早漏ですか?」
三村「何で早漏と金縛りにあったか無かったかってことの判断が関係してんだよっ!!」
塚ポン「ボクは30代の頃は、年に3~4回は金縛りにあってましたねえ」
ゲッツ「じゃあ、何かい。夜中に目が覚めて起きようとしたら、全然体も動かないし声も出なくて。そんで顔の左の方から人の鼻息みたいのが当たるから、根性で自分の首を動かしてソッチの方を見たら、バイオリニストになることを挫折して14年前に死んだ小清水くんが微笑んだりしてたのかよ!?」
塚ポン「…………。まず、誰なんスか、そのバイオリニストになることを挫折して15年前に死んだ小清水くんって?」
ゲッツ「15年前じゃなくて14年前だよ」
塚ポン「そんなことはどうでもいいよっ。勝手に人の記憶を作ら……」
ゲッツ「いや、とにかくオレも三村さんと同じで、金縛りなんてものには1度もなったことはねえよっ。てか、そういう塚ポンみてえな奴が、金縛りと幽霊を無理矢理結びつけちゃってさ。で、真夏の夜か何かに、そういうホラー話を女にして、結局その女とヤッちゃうっていうさっ。汚ねえよっ、お前さんは!」
塚ポン「てか、今、ゲッツさんに何かドエラいものが乗り移ってる⁉」
ゲッツ「人のことを褒めて誤魔化そうとしてんじゃねえよっ」
塚ポン「褒めてなんかねえよっ!!」
ゲッツ「いや、とにかくオレは、そういう金縛りとか、人魂とか、ネッシーとか、幽霊とか、霊魂とか、狐火とかの忌まわしいモノは一切認めねえからっ!……ね、三村さん!」
三村「まっ……まぁな」
塚ポン「そう頭ごなしに否定されると……」
ゲッツ「あ、でも、幼稚園に入る前までは、頻繁に幽体離脱はしてたけどな」
塚ポン「えっ……今ごろになって、そんな明らかなウソをぶっこくんですかっ!?」
ゲッツ「と思うだろ? でも、これだけは本当のことなんだなぁ~」
塚ポン「なら、さっき告白したボクの金縛りだってホントのことですよっ!!」
ゲッツ「そんなに興奮するなよ、鯨のため息くん」
塚ポン「勝手に人の名前を変えるなよ!」
ゲッツ「いや、まぁ、聞けよ。幽体離脱って言っても、オレの場合、夜中に起きると、いきなり部屋の天井が目の前の10センチ先ぐらいに見えるんだよ」
三村「はぁ~、10センチ先ぃ~? それって完全にゲッちゃんの体が2メートルぐらい浮いてるってことじゃねえかよ」
ゲッツ「そうなんですよっ。そういうことが多分オレの3~4歳の頃に4~5回あったんスよ!」
塚ポン「何でそんな異常事態にいるのにお母さんに知らせなかったんですかっ? お母さんと一緒の部屋に寝てたんでしょ?」
ゲッツ「ああ、寝てたよ」
塚ポン「じゃあ、騒ぐなり泣くなどして、お母さんに知らせれば……」
ゲッツ「ところが、そういう時に限って声が出ねえんだよなぁ~」
塚ポン「なら、さっきのボクの金縛りだって、アンタに否定される筋合いは無いよ!」
ゲッツ「あっ、金魚に餌をやる時間だっ。オレ、家に帰るねぇ~」
塚ポン「飲み代払って下さいよっ!!」
ゲッツ「いくらぁ~?」
塚ポン「え~とぉ、ちょっと待って下さい。伝票を見たら……ウーロン茶2杯とナポリタンだから560円ですね」
三村「つーか、ゲッちゃん。ここは一応串カツ居酒屋なんだから、減量もいいけどタマには酒を飲めよ、な。喫茶店じゃないんだからさ」
ゲッツ「嫌ですよ。そうやって三村さんみたいに毎晩大酒を飲んでたら、体は痩せてんのに腹の回りにだけ浮輪みたいな脂肪がゴッテリ付いちゃって、客観的に見ると何だか地球ゴマみたいですよ」
三村「こっ、こっ、このゲッツうううううっ!!」
塚ポン「はい、今回はここで終了!!」
『ともだち~めんどくさい奴らとのこと~』
-----------------------------------------------------
『そっちのゲッツじゃないって!』
◇ガイドワークスオンラインショップ
(限定特典:西原理恵子先生表紙イラストのクリアファイル付)
『そっちのゲッツじゃないって!』