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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

日本の嫌いなところ

 さて、前回は長かったから今回は短いよぉ~ん!

 先日、オレは後輩の塚ポンの車に乗り、グルメツアーを決行するため中央高速に乗って都内へと向かっていた。
「今日は、まず台東区の天丼屋に行くからな」
 オレは助手席に座りながら、運転している塚ポンにそんな声を掛けていた。と、次の瞬間……、

   スパアアアアア-----------------ンンン!!

 突然そんな強烈な音が弾け、オレは誰かにスナイプされたと思って慌てて自分の体中を触っていた。
「な、何なんですかねぇ、今の音は!?」
 塚ポンも車を運転し続けながらも、首をすくめてそんな言葉を漏らしていた。と、再び次の瞬間……、

   バタバタバタバタバタバタバタバタバタ……。

 突然、この車を追いかけるように近づいてくるヘリコプター。
「まだ追いかけてきますねぇ……」
 30秒以上が経過しているというのに、未だにオレたちが乗った車の上空を飛んでいるヘリコプター。
「どうする、塚ポン。今、この車の上を飛んでるのが警察のヘリで、オレたちが薬をやってると踏んでズーーッと追いかけてきたら? つーか、映画『グッドフェローズ』のレイ・リオッタがFBIのヘリに追いかけられてるシーンみたいだな」
 そう言ってオレが笑った数秒後、塚ポンの口から不思議な言葉が発せられた。
「はい、整いました!」

 はぁ?と思った。整いましたってサウナ風呂に来てるわけじゃあるめえし一体何なんだよっ? と、いきなり車の速度を落とし、遂には完全に路肩に車を止める塚ポン。
「えっ……ど、どうしたの?」
 そう言って塚ポンの顔を見たが、次の瞬間にはあることに気づいていた。そう、ヘリコプターが飛んでいる音がピタリと止まっていたのである。そして、オレは車の外に出て、後ろのタイヤを見てみると……、
(あちゃ~~~!)
 俺が座っていた車の左側、その後ろのタイヤが物の見事にペチャンコになっていたのである。何のことはない、ただ単に車のタイヤがパンクしていただけの話だったのだ。

「よしっ、塚ポン。タイヤを取り替えちゃおう。スペアはドコに入ってんの?」
「あ……いや、多分スペアタイヤは積んでないですよ」
「はぁ? ……何で?」
「いや、俺、1度も見たこともありませんし……」
 いやいや、塚ポンは知らないだけだと思った。オレも今から4年ぐらい前、香川県の高速を自分の車の日産「キューブ」で走っていたら今回と同じく、いきなりスパアアアアアーーーーンンン!!って音が弾けて左前のタイヤがパンクというか、もう走り過ぎでバーストしたのだ。とにかく路肩に止めた車のタイヤ交換をしようとしたのだが、後ろのトランクを開けて替えタイヤを探したのだが、ドコにも見当たらないのである。で、急にパニック状態に陥ったオレは、なんとか自分の気持ちを落ち着けて、車にあった日産自動車の各ディーラーの電話番号の中から香川県の番号を見てケータイで電話。そして今、キューブに乗ってるんだけど、替えのタイヤがドコに積まれているのか尋ねてみると、後部座席左側足元のシートをめくるとソコに替えのタイヤと工具が入っているとのこと。で、結局それでタイヤ交換を済ませ、無事に香川に住む友達の家に行けたのだ。
 つーことで、オレは態と余裕のある表情を作り、塚ポンの車の後部座席の足元のシートをめくってみた。が、そこには替えタイヤも工具も何も無かった……。

 その後、塚ポンが保険屋にケータイで電話を入れ、1時間以内にレッカー車が来ることになった。
「それにしても何で替えのタイヤが積んでねえんだよ。誰も来ないようなド田舎でパンクしたらどうすんだよっ?」
 パンクした車の助手席に座りながら、そんな愚痴をこぼすオレ。
「どうもすみません……」
「いや、塚ポンのことを責めてるわけじゃなくてさ。どうして車のメーカーは………ん?」
 ルームミラーに目をやると、50メートルぐらい背後の路肩に黄色いパトランプを回した車からも1人が降りてきて、コッチに向かってきた。
「どうしました?」
 その車は高速道路のパトロールカーで、その隊員がオレにそんな声を掛けてきた。オレは一連の状況を説明すると、その隊員は今、もう1人の隊員が向こうで“故障車有”の合図を出してて、あなた達は別の車に突っ込まれる可能性もあるから、車より何メートルか先の路肩に立ってレッカー車を待ってて下さいと言ってきた。で、オレは肯きながらも「何であの車は替えタイヤが乗ってないんですかねぇ~?」とその隊員に尋ねてみた。
「ちなみに、あの車の車種は?」
「え~とぉ……あ、ホンダのフィットです」
「あ、やっぱりねぇ……」
「え、どういうことですか?」

 その隊員は、あくまでも確証は無い話ですが、という前振りをしてから次のような説明をしてきた。
 低燃費をウリにしてる車というのは、少しでもその距離を伸ばすために極力車重を軽くしようとしてる。つまり、低燃費で有名なホンダのフィットは、すこしでも車重を軽くするために、あえて替えタイヤ1本と工具は積まないことにした可能性が高い、ということだった。
 その説明を聞いて、オレは改めて前記した自分のキューブが4年ぐらい前にパンクした時のことで完全に合点がいったのである。ちなみに、キューブはフィットには負けるが、でも、それなりには低燃費の車だ。そして、キューブには替えタイヤと工具は積まれていたが、タイヤを交換しようとしたら、なぜかその替えタイヤは通常のタイヤより少し小さく、また、その工具も非常にちゃちいというか、扱うのに怪力が要るぐらいの粗末なモノだったのだ。
 で、その時も路肩に止まりながら大汗をかいて、その粗末な工具でタイヤのボルトを締めていたら、高速パトロール隊の人が現れて、彼の持っていた立派なレンチでアッという間にボルトはキッチリと締まったのである。そう、つまりキューブですら、替えタイヤも小さく、工具の重量も極力軽くしているくらいなので、それよりズッと燃費がいいフィットにはそれらは積まれておらず、タイヤがパンクしたらとにかくレッカー車を呼べということらしいのだ。

 それがわかった上で言うが、オレは日本のこういうせせこましいところが大っ嫌いだ!!
 燃費がちょっとだけ悪くなろうが、ちゃんと誰でもイザという時のタイヤ交換が出来るよう、通常とまったく同じタイヤ1本とボルトを楽に締められるぐらいの工具を乗せとけっつーの!!

 ホントに頭に来たから、もう1度言う。オレは日本のこういうせせこましいところが死ぬほど大っ嫌いだっ!! ぺっ!! ぺっ!!

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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