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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

気絶するほど難しい奴(前編)

 さて、離婚したオレについてきて、大学2年の時から埼玉県富士見市にあるマンションに住むようになった息子。
 が、習性は殆ど変わらなかった。相変わらずモノ凄い勢いで、家のタオルを使い(バスタオルだと1日5枚ぐらい)、便器にはトイレットペーパーか浸かったままで、その上、洗面所に入る度にその洗面所の明かりは勿論のこと、風呂場とトイレの明かりもつけたままにするのである。 
 いや、勿論何度も注意した。が、全く治らない。おまけに、何かを食っても洗い物も7~8日に1回ぐらいしかしないし、風呂に入っても石鹸がついたままのスポンジを必ず湯舟のヘリに置いたままだし、夜になると1時間に3~4回の割合で冷蔵庫のドアを開けて中を見るのである。やっぱりそれらについても、何十回、いや、何百回と注意した。が、それでも全然治らない。 
 
 てか、前のオレだったら、とっくに息子をブン殴ってるはずである。が、数年前にオレ自身にも親父のケンちゃんの血を引いた発達障害を軽く患ってる可能性が濃いことがわかってきて、そうなると発達障害というのは遺伝しやすいので、オレの息子も生まれながらにソレを患ってる可能性が高いのだ。つまり、モノ凄い勢いでタオルを使ったり、洗面所・風呂場・トイレの明かりをつけっ放しにしたり、冷蔵庫の中身をしょっちゅう確認したりすることには息子なりのちゃんとした理由がある。それなのに身内のオレが頭ごなしに怒ってはいけないと思うようになったのだ。 
 例えば、これはオレの想像でしかないのだが、息子が自分の部屋の真横にある洗面所の明かりをつけっ放しにするのは、6畳もない自分の部屋を少しでも広く感じるために、その自分の部屋のドアを半分ぐらい開けっ放しにし、その先の洗面所や風呂場やトイレも自分の部屋と同じ明るさにすることによって、少しでも広い場所に住んでいるという感覚を味わいたいのではないのだろうか。 
 まぁ、いい。てか、オレは息子のことでは1つ満足していることがあるのだ。それは現在23歳の息子が女と経験済みだということである。数年前、オレはテレビのニュース番組で、現在の20代以下の男女で、まだSEXが未経験の者が4割もいるというのを聞いて、心の底からビックリした。20代以下というのは、言ってみれば29歳のほぼ中年も入るのだ。そんな年齢になるまで、人間にとってあんなに大切な、あんな気持ちいい、あんなに相手のことがわかるSEXをしたことが無い奴がそんなにいるというのである。 
 オレの息子は現在23歳だが、奴は21歳の時までは童貞だった。別にそのことを奴に直接聞いたことはないが、そういう経験があるかないかは、ソイツのことを見てればオレはほぼわかる。経験がある奴はある部分において落ち着きがあるのだ。で、21歳までのウチの息子には、それがなかった。そして、息子が22歳になってスグのある晩、夜遅くに家に戻ってきた奴の顔や態度を見て、その日に童貞を失ったことがハッキリわかった。 
 相手は多分、約1年前からネットを通じて頻繁に息子が会話をしてた女性だろう。オレは相手がどんな女だろうと、とりあえずはホッとした。これでコイツの人生が、イラストで描かれた女に対しての執着とか、アイドルをオカズにしてのオナニーだけで終わることはないことがわかったのだ。それはオレに言わせれば、勉強が出来ないとか、得意なものがないという特徴より、人間として生きる上では大切なことだと思う。 

 にしても、ウチの息子の難しさっていったら相当だと思う。オレは、現在でも人との付き合いはホントに大切なことだと思う。(あっ、コイツってイイ奴だなぁ)と思ったら、出来るだけ、が、無理なくソイツとの友達関係を続けていくと大抵良いことがポツポツとある。で、そのポツポツが自分に大きなチャンスやパワーを与えてくれることが多いのだ。したがって、まぁ、余計なお世話だとは思うが、オレは機会がある度に息子をサイバラの息子のガンジや、塚ポンの息子のアキトと交流させようとするのだが、そういう場がある時に限ってウチの息子は「眠い」とか「行けたら行く」とか言って、殆ど姿を現わさないのである。 
 ま、息子としたら、そんな自分の友達ぐらい自分で見つけるわ、てなもんなんだろう。だからそういうことを考えるのも一切止めた。ところが、である。どういう基準があるのかは知らないが、ウチの息子は普段オレが通ってる塚ポンの串カツ屋「まるや商店」には殆ど来ないのだが、あるイベント、例えば塚ポンの店で働いていた歴代のアルバイターたち、彼らを集めての内輪での飲み会にオレが呼ばれた時に、180%来ないとわかっているが、とりあえず息子に「これから塚ポンの店でアルバイトしてた奴を集めた飲み会があるんだけど、お前は来ないよなぁ?」と声を掛ける。すると「あ……俺も 行こうかなぁ」なんて答えが返ってくるのだ。 

 眥、冷静に考えてくれ。ウチのガキは塚ポンの店はウチから歩いて5分ぐらいにもかかわらず、殆ど来ないのだ。だから、塚ポンの店でアルバイトをしていた奴らも全くと言っていいほど知らないのである。にもかかわらず、そういうアルバイターたちが集まる、言ってみれば塚ポンが年に1回ぐらい開く御苦労さん会にウチの息子も参加するというのだ。そう、意味がわからない。 
 いや、もう何年も前になるが、過去にもこれと似たことがあった。ウチの息子は中3の時に、本格的な不登校児になった。その1年間に10日しか中学に行かなかったのである。にもかからず、その10日の内の3泊4日を占める修学旅行には参加しているのだ。てか、普通に絶対嫌だろ? そんな滅多に会うことはないクラスメイトたちと旅行に行くことなんて。でも、ウチの息子は行ったのである。そう、難し過ぎて何を考えてるのかがサッパリわからないのだ。 

 ちなみに、例の塚ポンの串カツ屋で働いてた奴らが集まった飲み会、そこに顔を出したウチの息子は塚ポンと10分ぐらい話した後、テーブルに並んでいる串カツを8本ほど肴にして、レモンチューハイを黙って2杯飲んだ。そして、誰にも何も言わず塚ポンの店を後にしたのである。後に塚ポンにウチの息子と何を話していたか尋ねたところ、映画『進撃の巨人』の前編は割と面白かったが、後編はクソだと言っていたらしい。何故その話を、そんな『進撃の巨人』なんて1ミリも興味の無い、ただの串カツ屋の気のいいオヤジに話したのかも、もちろん全くわからない。 
 さて、その後、オレはこの超難解の息子に車の免許を取らせ、そして、大学を卒業させた後で就職をさせることになるのだが、その時の一連の闘いについては次回で紹介していこうと思う。


 
 
 ホント、言葉が全く通じないケニア人と暮らしてた方が、まだ全然楽だよ……。

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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