MENU

ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

少年になった輝貴(前編)

「あっ、板ちゃ~ん。久しぶりぃ~~~!!」
 先週の土曜の午後、ウチのチャイムが鳴ったので玄関の戸を開けてみると、久しぶりに久美ちゃんが立っていた。彼女の旦那はオレの専門学校時代の友だちで、その友だち抜きでも久美ちゃんは時々オレんちに遊びに来ていたが、ウチのオフクロが死んでからというもの、とんとウチには顔を出さなくなっていたのだ。

「ごめんねぇ~。板ちゃんのお母さんが亡くなってから、ウチの息子も受験やら何やらで、バタバタしてて全然顔を出せなくて」
「ああ、そう言えば息子の輝貴って、えっ……今、高校生!?」
「そうなのよぉ~。中学の時にそれなりには勉強したんだけど、近所のM高校にしか入れなくてさぁ~。ホントにがっかりしちゃったわよぉ~」

 ちなみに、そのM高校というのは、オレが高校生の頃はツッパリばっかが集まるバカ高校だった。
「しかし、輝貴とももう10年以上会ってないから、あの子もデカくなったんじゃない?」
「んふふふ。実は今来てんのよ。……ほらっ、輝貴。コッチにきて板ちゃんに挨拶なさいよ」
 そして数秒後、久しぶりに輝貴が玄関の戸の向こうから姿を現したのだが。

(デ、デカくなってる………)

 前回会ったのは多分、コイツが5歳の頃だから見た目はガキにしか映らなかったが、16歳になった輝貴は身長が180センチを楽に越えていた。
「ホント、体格だけは立派になっちゃってさ」
 そう言って輝貴に無理矢理頭を下げさせると、再び言葉を続ける久美ちゃん。
「中2と中3の時に、それぞれ1年間で10センチ近く伸びちゃってね。私は160ちょっとはあるけど、旦那の稔は170センチもないから、こんなに大きくなるとは思わなかったんだけどねぇ~」
 久美ちゃんがソコまで話した時点で、改めて輝貴の顔を見てみた。頭の両角の高さや角度が非対称で、いびつなハートマークのような輪郭なのは相変わらずだったが、それに加えて目がアメリカの田舎のバカな農夫のようにすっ呆けたような感じになっていて、子供時代の、あの小生意気で狡い感じは大分薄まっていた。

 その後、とりあえずオレは久美ちゃんと輝貴をウチの居間に上げ、ドリップ式のコーヒーを入れて出したのだが、
「俺、こういうの飲まねえし」
 目の前に出されたコーヒーカップを興味無さそうに見下しながら、そんな言葉を吐く輝貴。
「ああ……。じゃあ、オレンジジュースでいいかっ?」
「オレンジなんか、もっと無理だし」
 再びそんな言葉を飛ばしてくる輝貴。
「コラッ、輝貴。人の家に来て、我がままばっかり言ってんじゃないわよっ」
「来たくて来たんじゃねえし。つーか、ゲーム買ってやるって騙されて連れて来られただけだし」
 久美ちゃんにもそんな言葉を返す輝貴。
 つーかなっ、オレだって貴様みてえなバカ学生を家に上げたくて上げてんじゃねえんだよっ!! 久しぶりに久美ちゃんが遊びに来たからっ、そんで……。

「コーちゃん、いるぅ~? 勝手に上がるぜぇ~」
 突然、玄関の戸が開く音がした後、そんなキャームの声が聞こえた。つーか、キャームといえば前回、オレが輝貴と会った際に、あまりにも輝貴の行動に腹が立ち、久美ちゃんとウチのオフクロを外出させた隙に奴を呼び出し、輝貴に向かってメタメタ酷いことを言わせたのである。そして、結局は輝貴のことを大泣きさせたのだ。
「あれっ……誰? この少年は」
 すぐに居間に入ってきたキャームは、2秒も経たないうちにテーブルに座っている輝貴に視線を止めていた。そして、再び“カラス”と化したキャーム、奴のトラッシュトークが11年ぶりに炸裂することになった。

 以下、次号で。あらかじめ言っとく。今回もハンパじゃなかったよ……。

 

バックナンバー

著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

閉じる