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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

ラドーのペアウォッチ

 今から、ちょうど40年前。
 その夏、オレは地元の不良仲間と伊豆諸島の新島に来ていた。その当時の新島には不良少年少女が集まり、昼夜関係なくナンパ合戦が繰り広げられており、中には宿泊先の 民宿では仲間がいるのでHが出来ないので、真夜中に海辺の小屋の影や山の中で青カンをやっている男女もいたのである。
 もちろん、オレ達も新島にはナンパ目的で行っており、当時はオレ達立川の不良少年も最大限に意気がっていたので、まず、昼間には町内で他の地区の不良とケンカをし、そして、夜になると海岸通りなどを歩いている不良女たちに、バンバン声を掛けていた。
 で、確か3日目の晩。5~6人でナンパしてても、女の不良は大抵2~3人で歩いているので引っ掛からないってことを学んだオレ達は、2人1組に分かれて海岸通りに繰り出したのだ。その時、オレと組んだのはアキラという奴で、ケンカはそれほど強くはなかったが、とにかく甘い顔をしており、女には、結構モテる奴だった。

「おい、板谷。あの前を歩いてる2人組の女、アレに声を掛けよっか?」
「お、おう。……じゃあアキラ、頼むよ」
「ったく、第一声はいつも俺じゃんよ」
「いいから早く声を掛けろよっ。じゃないと別の奴らに声を掛けられちまうぞ」
 で、アキラは速攻でその2人組に声を掛け、20分後にはその2人組の、まだ少女趣味が服装にも残ってるような女と堤防の縁に並んで腰掛けるオレ。
「名前は何っていうの?」
「名前? ……ラミタン」
「いやいや、あだ名じゃなくてさ(笑)」
「ラミタンはラミタンなの!」
(何だ、コイツ!?)
 そう思ったが、別にあだ名だろうが何だろうがSEXが出来ればいいと考えてたオレは、黙ってラミタンの肩に手を回したところ、
「いやいやいや、お母さんに怒られちゃうから」
 そう言ってオレの手を払いのけるラミタン。
「いいじゃん。だって、そのつもりで、新島に来たんだべ?」
「そのつもりって何よ?」
(うわっ、外れだな、この女……どうしよ、もう1回ナンパに戻るか?)
「じゃあ私、今から得意のモノマネをやってあげるよ、ね!」
「はぁ~?」

 が、呆れているオレを無視するかのように、夜中の堤防でモノマネをおっ始めるラミタン。
 『裸足の季節』を歌う松田聖子、『少女A』を歌う中森明菜、オチャラけたことを言うゴーデルデンハーフスペシャルのエバ……。冗談抜きで、どれも素人技とは思えないほど上手かった。そして……、
「じゃあ、最後に私の18番、大場久美子の『スプリング・サンバ』を歌いまぁ~す!」
 で、ラミタンがその曲を歌い切った途端、

   パチパチパチパチパチパチパチ!!
 いつの間にかオレ達の近くに集まっていたもの他のカップル、そいつらの拍手が辺りに響いた。
(おい、オレはHなことがしたいだけなんスけど………)
 その後、オレの名前と住所を訊いてくるラミタン。
「つーか、何でそんなこと知りたいんだよ?」
「あのね、もう少ししたら私、テレビの素人モノマネ大会に出るの。で、もし、それに優勝したら、ほら、副賞みたいなモノも貰えるでしょ。ラドーのペアウォッチみたいなヤツ」
「ああ、最近のテレビの素人大会の優勝者が大抵貰える、あのスイス製の高級腕時計か?」
「そうそう、その男用の方を送ってあげるよ、ね!」
 そう言って、ホントに楽しそうに笑うラミタン。その顔を見て、オレはラミタンとHなことをするのを諦めた。なぜなら、その顔にはあどけなさがあるだけで、女の持つ色気が1ミリも見当らなかったのである。

 で、それから1カ月後の日曜日。その日、オレは昨日徹夜で新宿のディスコで踊っていたので、家で昼過ぎまで寝続け、目が覚めてテレビをつけると素人のモノマネ大会が放映されていた。
「ああっ、ラミタン!!」
 思わずそんな声を上げていた。その時、中森明菜の「少女A」を歌っていたのは紛れもなくあのラミタンで、彼女はそれで勝ち上がり、最後の決勝では大場久美子の「スプリング・サンバ」を歌ったのである。しかも、それでホントに優勝してしまったのだ。
(おい、こんなマンガのような話ってホントにあるのかよ………)
 更にそれから約2カ月後、オレ宛てに何かが届いたので包みを開けてみるとナント、ホントに、ラドーのペアウォッチの男用が入っていたのである。


 あれから40年……。そのラドーの腕時計は送られてきてから4日後には無くなしちゃったけど、あの時の思い出は今でもオレの心の中に割とハッキリと残ってます。

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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