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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

ボキの還暦旅行計画

 はい。まぁ、そういうことでしてね。ボキも自分のことを未だにボキなんて呼んでるけど、あと半年も経てば還暦ですよ。 
いや、自分でも全然自覚ないし、とにかく信じられませんわ。ま、それはともかく、今回はその還暦を記念して、今年の夏に出掛ける旅行の計画を書くことにします。チェケナ!! 何だ、チェケナって? 


 飛行機で北海道の旭川空港に降り立つオレ。そして、迷わず空港付近にあるレンタカー屋に行き、軽自動車を借りる。その際、レンタカー屋の店員に「お客様はお体もガッシリしてますし、料金もそんなに変わらないので、普通車にしてはいかがでしょうか?」と言われるも「何だとぉ!?」と返す。そして、続け様に「あのなぁ~、オレは還暦なんだよ! そんなもん、これからは小さくまとめていかなくてどうするんだよ、ああっ!」という言葉を発射。相手が「あ、そっ……そうですね。すいません、余計なことを言いまして」と言ってきたら「まぁ、テメェも還暦になったらわかるさ」と答えて軽自動車で出発。ちなみに、その際に自分がこれから運転する軽自動車に“安倍は1000%”という名前を付ける。 
 その後、旭川市郊外にあるラーメン屋「ふるき」に向かうオレ。そこは友達の味噌ラーメン番長が唯一、“本物の味噌ラーメンを出す店”と言っていて、今回の旅行はそれを自分の舌で確かめることが最大の目的と言っても過言ではなかった。そして数時間、その味噌ラーメンを食べ、続いて次の目的地の夕張市に向かうオレ。肝心のラーメンの味については、今は一言も喋らない。理由は、オレが還暦だから。答えになってない? あのな、還暦って言うのはいわば、その歳まで長生き出来ておめでとうって意味もあるんだけど、さぁ、その歳からまた0歳児になったつもりでスタートしようよっていう意味もあるんだ。つまり、0歳児は ラーメンなんか食えないし、仮に食えたとしても、その味の感想なんか言えるわけねえだろ。つまり、そういうことだ。 
 さて、続いて「安倍は1000%」に乗って、次なる目的地の夕張市に向かうオレ。夕張市までは普通に走れば2時間ぐらいで到着するも、オレは4時間ぐらいかけて行く。理由は、その途中途中で路肩に車を止め、(ああ……、60って言ったら、オレのオフクロが肺がんにかかってるってわかった歳だ。あの時のオフクロと今のオレは同い歳かぁ……。何か感慨深いなぁ)てなことを考えて、ポンピングブレーキならぬポンピング涙を流しながら、自分は今、60歳の還暦なんだってことを全身に染み渡らせていく。
 夕張市に入ったら、またもや味噌ラーメンで有名な「大鵬」という店に行き、そこの券売機で券を買おうとする直前に、店の中央にある厨房の中にいる店主の方に振り向いて「あの、自分は還暦になっちゃったんですが、もちろん味噌ラーメンを注文してもいいですよね?」と質問。暫くの間、意味がわからず店主が固まっていたら「おいしいサンマを食べに来たら、そこにベーグルの複合施設が出来ちゃったようなもんだろうとは思いますが、別に構いませんよね」と言って笑いながらウインクを送り、ようやく券を買ってカウンターに着席。そして数分後、自分の前に出された味噌ラーメンを夢中で食べ始めるオレ。気になる味の感想は、やっぱり今回も一言も喋らない。答えは、もう言わんからな。 

 その後、「安倍は1000%」を夕張市内の一軒のビジネスホテルの前に止めたオレは、そのフロントに行って本日宿泊出来るかどうかを確認。 
ゲッツ「ということで、オレは還暦なんだけど空いてる部屋ありますか?」 
フロントマン「あ、あの……お客様が還暦かどうかってことは関係ないですが」 
ゲッツ「どうして!? 何でっ!?」
フロントマン「えっ……いや、別にお客様が還暦でも」 
ゲッツ「じゃあ、何かいっ。還暦の奴は鼻フックをやられながらの空気イスに耐えなきゃならないの!?」
フロントマン「いや………そ、そんなことは一言も」 
ゲッツ「その上での検便再提出かっ!?」 
フロントマン「はぁ? あ、あの。さっ……さっきから何をおっしゃってるのか……」 
ゲッツ「じゃあ、還暦ってことを一旦置いといて言います。部屋空いてますか? シングルで?」 
フロントマン「は、はい。空いてます」 
 2時間後。ホテルの部屋のベッドの上で、正座をしながら対峙しているオレとホテトル嬢。 
ゲッツ「だから、ホントにホテトル嬢を呼ぶなんてことも初めてなんだよ」 
ホテトル嬢「またまたぁ~」 
ゲッツ「いや、マジだよ。しかも、オレってもう還暦だしさ」 
ホテトル嬢「いや、還暦は関係ないですって。って言うか、還暦はおろか、この前なんかアタシ、80歳のお爺ちゃんにも呼ばれましたよぉ~」 
ゲッツ「そっ……そんな爺さんに………。不潔だよっ、キミは!!」 
ホテトル嬢「不潔って…………」 
ゲッツ「でも、オレがもっと不潔に……」 
 そして、ホテトル嬢をメチャメチャに抱き始めるオレ。その時、オレがいる部屋の窓枠の外には一羽のツグミが止まっており、夜の帳の中でまるでこちらの様子を観察でもしているような感じだった。 

 翌朝9時。「安倍は1000%」に乗り、旭川に向かうオレ。同市に着くと再びラーメン屋の「ふるき」でチャーシュー味噌ラーメンの味を確かめ、そして、空港近くのレンタカー屋に「安倍は1000%」を返却。
(これで前々から知りたかった北海道の2大味噌ラーメンの味を堪能することが出来た。いい旅だったな………) 
 そう思いながら空港に向かおうとしたところ、 
「あっ、お客さん。車を返す時はガソリンも満タン返しでお願いしますと言っといたと思うんですけど、ガソリンメーターを見るとほぼ空ですよ!」 
「ガソリン? ……ああ、忘れてた!!」 
「ホントに忘れてたんですか?」 
「うおいっ、このガキ! 還暦のオレがそんなセコい真似をすると思ってんのか?」 
「いや、そうは言ってませんけど……」 
「ちょっと来い!!」 
 そう叫んだ後、そのレンタカー屋の店員を店内奥にあるトイレの中に連れていくオレ。そして、還暦になった気の短さからか、全裸にさせて、そこの床の上で土下座をさせようと思ったのだが、 
「あれっ、お前、チンコが無いじゃん!! つ、つーか、お前って実は女だったの!?」 
「これには深い理由が。お願いします、秘密にしといて下さい!」 
「いいから服を着ろよ」 
「えっ………」
「それからこれを受け取れよ」 
 そう言って、そのジェンダーレスのレンタカー屋の店員に1万円札を2枚差し出すオレ。 
「い、いや、1枚で充分ですけど……」 
「何言ってんだ。1枚はガソリン代、そして、もう1枚はお前に対するエールだ。ウダウダ言わずに取っとけ、ほら!」
 強引に2枚の1万円札を渡すと、それを震える手で受け取ったかと思うと「ありがとうございます。ありがとうございます」と言って泣き始める店員。
「いいから早く服を着ろよ。別の店員がトイレに入ってきたらバレちまうぞ、な」 
 そう言って優しい笑みを店員に送るオレ。 
 そして、50分後。東京行きの飛行機に乗ったと同時に、その座席からケータイのグループLINEに次のメッセージを送るオレ。 
『旭川のレンタカー屋でレズの店員と遭遇。死ぬほど驚いた(笑)」 


 つーことで、今年の夏はこんな旅行をするつもりです。以上!

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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