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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

オレと吉野家の皮肉物語(前編)

 オレは牛丼の吉野家が大好きだ。 
 いや、言い方が変だな。吉野家の牛丼が大好きだ。 
 初めて食べたのは、確か中学1年の時か……。親父ケンちゃんの弟のブカのおじさん、彼がウチに遊びに来た時に皆の分を買ってきてソレを食べた。その時の感想は(うわっ……変な味!)だった。が、その後、2回食べてから吉野家の牛丼が大好きになった。 

 が、物心ついてから吉野家を見ても、そこに入ることはそんなになかった。バカみたいな話だが、大好き過ぎて実際に吉野家に入って牛丼を食べても、えっ……もう終わり!?って感じで、大好きという気持ちがその吉野家の牛丼自体を凌駕しちゃって、食べても満足出来ないのだ。だから吉野家の牛丼を食べても悔しい気持ちに包まれるので、滅多に吉野家には入店しなかった。もちろん、そんな自分を自分でも(バカじゃねえの、お前)と思っていた。 
 そのうち、そんな大好きなのに時々しか吉野家に行かないのは、家の近所に吉野家が無いせいだと思った。オレは東京郊外の立川市に住んでいた時、家から車で5分以内のところに吉野家は3軒あった。が、そのうちの2軒は駅に近いので車を停めておくところが無く、テイクアウトですら落ち着いて買えなかったので、もう1軒の新奥多摩街道沿いの吉野家に行っていた。 
 が、車で5分、歩いたら15分という距離は超簡単に行けそうで、食べ物を買いに行くためにという目的では意外に遠いのである。でも、オレは何度でも言うが吉野家の牛丼が大好きなので、月に2~3度はその吉野家に通っていた。ところが、今から15年前ぐらいに、その新奥多摩街道沿いの店が突然潰れてしまったのだ。 

 で、タイミングの悪いことに、ちょうどその頃に親父のケンちゃんが脳梗塞を起こして半身不随になり、オフクロも5年ぐらい前に他界していたので、オレが毎朝牛丼好きのケンちゃんのために、車で10分以上かかる中央高速の国立・府中インター近くにある吉野家にテイクアウト用の牛丼を買いに行くことになった。もちろん、その店には週に5~6日は通っていたので、週に1~2回は自分の分の牛丼も、しかも、特盛り&牛皿増しという豪華バージョンで買っていたので、オレは初めて吉野家の牛丼に満足し、だからそんなペースでもケンちゃんのために吉野家に通い続けることが出来たのだ。 
 ところが、2年もするとケンちゃんは嚥下障害を起こして牛丼が食べられなくなり、と、その家から車で10分以上かかる吉野家にはオレはピッタリと行かなくなってしまったのだ。その後、オレと吉野家は長い冬の時代に突入し、一時期は「松屋」や「すき家」に煽られて次々と新商品を発表するようになった吉野家を白い目で見ていた。で、そのうちオレは離婚して立川市から離れ、埼玉県富士見市といるところに引っ越し、それからというもの吉野家は遂に鶏の唐揚げにまで手を広げ、さらに麺にまで手を伸ばしてしまったのである。 

 ふと気がつくと、オレは町内に1軒も吉野家が無い町に住んでいると気づいた。また、その片田舎町の駅前にあった立ちそば屋の「富士そば」が潰れ、その跡地が1年半も経とうというのに空店舗のままになっていたのである。そのうちオレは毎日のように祈るようになっていた。
(ああ、神様。どうか、どうか、あの空店輔に吉野家を入れて下さい。お願いします!) 
 で、更に半年が経った時だった。オレが通っている串カツ居酒屋、その店主の塚ポンが店にオレが顔を出した途端、興奮気味に次のような言葉を掛けてきたのである。 
「板谷さんっ。駅前の、ほら、ずーっと空店舗だったあそこに、板谷さんの大好きな吉野家が入るみたいですよ!」 
「ええっ、ホ……ホントかよっ、おい!!」 
 オレの念願が遂に叶うと思った。そう、車ではなく、歩いて5分以内のところに遂にオレの大好きな吉野家が出来るのである。しかも、塚ポンの話では、早くも来月の末にはオープンするということだった。ああ、やった、やった。今度こそオレは自分が超好きな吉野家の牛丼を、しかも、毎日数百メートル歩けば食べに行けるのである!! いや、吉野家よ。今まで難しいことを要求したり、わがままを言ってすまんかった。これからは、このお前が大大大好きという気持ちをストレートに前面に出し、最低でも1週間に3回、いやさっ、2日に1回は君の牛丼を食べさせてもらうよ、うん。 
 で、塚ポンが言った通り、翌月の末に遂に「みずほ台」駅前に吉野家がオープン。そして、オレは初日から同店に向かったのだが……。


          以下、次号に続く。 

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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