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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

まるや三バカ親父愚論会 第5夜

 今から10年前、埼玉県富士見市で串カツ居酒屋『まるや商店』を始めた塚ポン(50)。その居酒屋があまりにも居心地が良く、離婚を機に第2の人生を送るために、そのまるや商店の近くに引っ越してきたオレ(61)。そして、元々そのまるや商店の近くに住んでいて、昼間は自営業で雑誌のデザインをやり、夜は必ずその息抜きにやってくる三村さん(66)。 まるやのカウンターでは、いつもこの3人が揃い、ポンコツなムダ話を交わしている。さて、今夜はどんなポンコツ話が出てくるのやら?

ゲッツ板谷(以下、ゲッツ)「しかし、塚ポンは凄いな。近隣にあるラーメン屋には、中華も含めて、ほぼ全てに来店してるもんな。この前なんかも一緒にドライブしてて、隣町の鶴瀬の変な街角に今にも潰れそうなラーメン屋があって、信号待ちの時に暫くその店を見てたらさ。助手席に座ってた塚ポンが『今、板谷さんが見てる店。あの店はラーメンもチャーハンも餃子もダメなんだけど、もやしそばと回鍋肉だけは奇跡的に旨いんスよね』なんて言ってきてさ。てか、お前は、あんなお化け屋敷みたいな店に何回行ってんだよっ?」 
塚ポン「トータルすると5回ですね」 
ゲッツ「ご、5回も……」 
塚ポン「うわあああっ!!」 
三村「ど、どうしたんだよ!?」 
塚ポン「6回ですね。1回揚げ焼売を食べただけで出てきちゃったことがありますから」 
ゲッツ「知ったこっちゃねえよっ、んなことは!」 
三村「しかし、こうして厨房に立ってる塚ポンを見ると、お前、また一段と太ったろ? この前、ゲッちゃんも言ってたけど、お前、タンカーみたいだぞ。港に入れなくて、何日もその入口付近で停泊してる」 
ゲッツ「グハッハッハッハッハッハッ!! み、港に入れなくて停泊しているって……グハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」 
三村「今日から塚ポンって呼び名を"タンカー塚原"、もしくは “タンカーくん”に変えようぜっ、シッシッシッシッシッ!」
ゲッツ「しかも、塚ポン。この通りを挟んだほぼ正面に近々、新しい居酒屋が出来て、その上、その店って串カツも出すって話なんだろ?」 
三村「ヤバいな、完璧なライバル店じゃねえかよ」 
塚ポン「いや、そんなもんが出来たって、すぐに叩き潰してやりますよ」 
ゲッツ「どうやって?」 
塚ポン「いや、夜中に石を投げたり……」 
ゲッツ「お前、アフリカの山の中に住んでる部族だって、今どきそんな低級なことはしねえよっ」 
塚ポン「だ、だったら、ウチの超肥満体の息子、アキトを送り込んで、串カツの油に当たったって言って、その店の前の道でズーッと腹を押さえてゴロゴロ悶えさせますよっ」
三村「そんな小芝居を打ったって、保険所に連れてかれて検査をすれば1発でバレちゃうよ」 

ゲッツ「あっ、そんなことよりみんな、やったね!! 遂に、この近くにある東武東上線の『みずほ台駅』のすぐ駅前に、念願の牛丼の吉野家が出来ますよっ!」 
三村「おう、そうそう! 今月の終わり頃か、遅くても9月中にはオープンするみたいだしな」 
ゲッツ「オレ、その店で1番最初に注文するのは、やっぱ牛丼の特盛りだな!」 
三村「バカヤロー。最初だからこそ、注文するのは牛丼の超特盛、それにお新香セット付きだよ!!」 
塚ポン「いや、三村さん。……三村さんは、あと1ヶ月もしないうちに67になるんスから、そんな牛丼の注文でムキにならなくても……」 
三村「しゃらくせえっ!! 俺は70になったって、80になったってムキになって注文するよっ。もちろん、人前でゲップをするのだって止めねえからな!」 

ゲッツ「あっ、ゲップって言ったら、三村さん凄かったですよね。この前、2回目に吉本ばななさんがこのまるやに来た時」 
三村「えっ……何が凄かったんだよ?」 
ゲッツ「つーか、ばななさんが来店した1回目の時は、三村さんは風邪を引いて店に来なかったから、あの2回目が三村さんは吉本ばななさんに会うのは初めてだったでしょ?」 
三村「そ、そうだよ」 
ゲッツ「もうあの日、三村さんは登場時から普段の三村さんとは別人でしたもんね」 
三村「ふざけたことヌカしてんじゃねえよっ。至って普通だったろうよ!」 
ゲッツ「いやいやいやいや、いつもは途中のコンビニで買った夕刊を持って、ガラッと少し乱暴に店のドアを開けて入店してくるのに、あの日はまるで借りてきた猫のように内股で入ってきてさ。オレが『ばななさん、彼がこの店の長老の客の三村さんです』って紹介したら、ばななさんに『お初にお目にかかりますぅ、み……三村ですぅ~』なんて、まるで初めてお座敷に出されるおぼこい芸者みたいな態度になっちゃってさ。おいおいおい、TPOによって、こんなに態度を変えられる生き物がいるのか⁉って驚きましたもん」 
三村「バカヤロー! お、お前なぁ。ばななさんのお父さんは吉本隆明っていって、思想家であり、詩人であり、日本の新左翼の理論的支柱だった人なんだぞっ。そ、そんな神様みたいな人の娘さんが、この薄汚い飲み屋に来てんだよっ。俺にとっては事件だよ!!」 
ゲッツ「ま、事件でも何でもいいですけど、流石ですよね。あの日、飲み会は2時間半ぐらい続いたのに、三村さんは1回もゲップをしなかったですもんね」 
三村「当りメーだよっ。そんなばななさんの前で失礼なことが出来るかいっ!」 
ゲッツ「凄いカメレオンぶりですよね。最近、オレに対してなんて、ここのまるやで会って、オレが『あ、三村さん。こんばんわぁ~』って挨拶すると、『グボォ~!!』なんてゲップで返事してきますもんね」
三村「しょうがねえだろうよ、出ちゃうんだから」 
ゲッツ「そんなねっ、すぐに潮を吹くような女みてえなことを言わないで下さいよ!」 
三村「よしっ、タンカー塚原に続いて、ゲッツ板谷の呼び名も変えちゃおう。坂東玉三郎にちなんで、ゲッツ板谷の新しい呼び名は“板谷たましゃぶろう”だ!!」 
ゲッツ・塚ポン「………………………………………」
三村「おっ……お前ら、何か言えよっ」 
ゲッツ「じゃあ、言いますよ。その新しい呼び名は何周回っても全く面白くもないし、大体アンタはオカしいよ!」 
三村「どこがオカしいんだよ!?」 
ゲッツ「ばななさんに三村さんのことを紹介した時に“この店の長老の客の”って言ったら、後でばななさんが帰ってから“おい、ゲッツ。人のことを長老呼ばわりして失礼じゃねえか!”って怒ってきたでしょ?」 
三村「当りメーだよっ。長老なんて年寄り扱いしやがってよ!」 
ゲッツ「だって、あと数週間で67になるって言ったら、どの国に行っても立派な年寄りですよ」 
三村「お、お前……」 
ゲッツ「それに長老って言葉には尊敬の意味もあって、そのグループの中では最も色々な経験を積んでる人格者っていうニュアンスも含まれるんですよっ。それを失礼だなんて」 
三村「いや、だって……」 
ゲッツ「だっても明後日もシシャモも無いですよっ。あと、この前、オレの車に三村さんを乗せて走ってて、オレのCDから『氷雨』が流れたら、三村さん『何だよっ、この貧乏臭い曲は!』って本気で怒り出したじゃないですか」 
三村「怒るよ、あんな辛気臭い曲を流されたら!」 
ゲッツ「いや、普通三村さんぐらいの年齢の人なら『おっ、懐かしいねぇ~』ぐらい言うんですよっ」 
三村「言わねーよっ! 俺、ああいう演歌みたいな、うらぶれた曲は大嫌いなんだよっ」 
ゲッツ「だから、その後で『スピッツ』とか『中森明菜』とか『太田裕美』の曲を流したら、徐々に三村さんの機嫌が良くなってきたけど、その後で『きゃりーぱみゅぱみゅ』の“にんじゃりばんばん”が流れた途端、また何だよっ、この曲はあああっ!?って怒り出したでしょ?」 
三村「怒るよっ、あんなふざけた曲を流されたら!!」 
ゲッツ「いい曲じゃないですか! なぁ、塚ポン。………あ、コイツ営業中なのに本気で寝てる!」
三村「……さ、俺たちもそろそろ帰ろう」 
ゲッツ「はい………」 

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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