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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

ユダ即撃沈

 さて、前回オレは自分の出版記念トークショーを塚ポンの息子アキトに見事に利用されたことを書いた。 
 で、まんまと彼女を作ったアキトは、その後、毎日のようにその彼女とのデートを重ねているらしかったが、そうこうしてるうちに塚ポン夫婦の顔がみるみる曇ってきたのである。 
「いや、ここ数日の間にアキトに連れられた彼女が、何度かこの店の串カツを食いに来たんですけどね。まず挨拶も出来ないんスよ。あと、その女は仕事は休んじゃうけど、遊びだと元気な自分はネオ鬱病にかかってるとか言ってるみたいだし。そんな便利な病気なんて聞いたことないっスよねっ」
 塚ポンが店主を務める串カツ居酒屋『まるや商店』、そのカウンター席に座った途端、そんな愚痴をこぼす塚ポン。 
「しかもですよ、深夜になるとアキトは彼女に言われるまま車を出して明け方までドライブをしてるみたいで、アキトは最近大学も休みがちだし、この店でバイトしてても全然気が入ってなくて、あくびばっかりしてるんですよ」 
 続いて、そんな文句を言ってくる塚ポンの嫁のユカさん。 

 いや、無理もないと思った。元々、幼少期のアキトは耳が全く聞こえなかったことから、塚ポン夫婦はその原因を突き止めるため、それこそ何十軒もの耳鼻科の病院にアキトを連れていったらしい。が、どの病院に連れていってもアキトの耳が聞こえない原因はわからず、そこで塚ポンは自分が飲食業の店をやり、いずれはその店をアキトに譲ってやれば彼は何とかやっていけるのではと思った。で、それまでやっていた仕事を辞め、串カツ屋チェーンの従業員になった途端にアキトの耳が突然聞こえるようになったという。だからと言って塚ポンは元の職業に戻るわけにもいかず、とにかくその串カツ屋で一生懸命働いた。そして、数年後には独立して、ようやく自分の串カツ居酒屋を持てるようになったのだが、その頃からアキトがモノ凄い勢いで太り始めた。 
 で、太るだけだったら、まだ良かったのだが、引っ越してきた先の同級の小学生たちに舐められないように「自分は昔、人を殺したことがある」という鬼のような嘘を頻繁につくようになり、しまいには塚ポン夫婦は小学校に呼び出されることもしばしば。更にアキトは、小学校に遅刻した際にもう先生に怒られるのが嫌だったので、下駄箱のところでわざと寝転んで、そのまま救急車で近くの病院に運ばれるというウルトラC技も披露。  
 そして、中学に上がった時に、あまりにも馬鹿すぎるので塚ポン夫婦はアキトのことを塾に入れるのだが、もちろん勉強も全然やらずに成績はクラスの1、2位を争うバカ。そして、相変わらず即バレるような嘘をつくので、念の為、塚ポンはアキトのことを病院の精神科に連れていったところ、あろうことか発達障害という結果が出てしまったらしい。が、塚ポン夫婦はそれでも全く慌てず、先生に薬を出してもらって、それをアキトに飲ませていたところ、徐々に下らない嘘もつかなくなり、高校も周辺で1番のバカ高校だったが何とか入れた。そればかりか、アキトは高校の担任にメチャメチャ気に入られ、ナント、推薦で大学にまで入ってしまったのである。 

 で、130キロ近いハンパないウルトラデブになったものの、今まで自分たちのありったけの愛情をかけて育ててきたアキトを、そんなワガママばかり言う彼女に壊されてはタマらない塚ポン夫婦は、学校やバイトが終わってヘロヘロになった後でも、真夜中から車で出ていくアキトに激怒。が、彼女が出来たばかりで完全に頭に血が上ってるアキトは、そんな注意を完全に無視して、連日出かけていくらしいのだ。 
 いや、特に10代の頃の男というのは、好きな女ができるといかにその女と楽しく過ごすかという事しか考えられない。で、そんな時に親とか身内に注意されると、「何でコイツらは自分が楽しい時を過ごそうとしているのに邪魔をするのか!?」と頭にくるのだ。そんな時に「お前、そんな生活を続けて、せっかく入った大学を辞めることになったら、それこそ後々後悔することになるぞ」とか「居眠り運転をして、それこそ人でも轢いたら刑務所が待ってるんだぞ」なんてことを言っても本人には全然届かない。 
 究極のことを言えば、本人が痛い思いをしなければわからないのである。もし、人を轢いちゃって、その人が死んでしまったら刑で罰せられるのは運転している自分。一緒に車に乗せた彼女が死んでも、やっぱり罰せられるのは自分なのだ。親や身内は、そんな最悪な事にならないことを祈りつつ、そこまで悪くないが本人にとっては結講痛い事態を食らって、自分がいかにリスクが高いことをしていたってことに気づくまで待つだけなのだ。  
 
 オレもそんな心配をしていた、アキトに彼女が出来た1ヵ月後。その日、オレは仕事が休みの塚ポンと荻窪にある「味噌っ子ふっく」という店でラーメンを食べた後、埼玉県新座市にある「ハワイアンDINING&CAFE」というファミレスでパンケーキを食べていたところ(食い過ぎだっつーの)、急に塚ポンのケータイが鳴った。 
「はい、何?……あむううう~~~っ!!」 
 いきなり不思議な叫び声を上げる塚ポン。電話の相手はアキトで「今、長野県にいるのだが、彼女を車に乗せたままガードレールのようなところに激突し、どうしていいかわからない」と言う。  
 そこからの塚ポンが早かった。まずオレを自分の車でオレの自宅まで送り、その後自分の家に帰って嫁のユカさんを車に乗せて、すぐに関越自動車道、上信越道、長野道と乗り継いで事故現場に。幸い物損事故だったらしく、その上、アキトも彼女も無傷。が、車の方は右前輪が完全にバーストし、右側の車体に激しく擦った跡が長々と付いており、17年前にその車を買った塚ポンは2秒でアキトにやったその車を廃車にすることを決めたという。その後、警察官立ち合いの元、色々な確認があり、それと平行して廃車にすることにした車を運んでもらう手続きをしてから、塚ポンが乗ってきた車にアキトと彼女を乗せて、再び高速道路を乗り継いで自宅に帰ってきたらしい。 

 そして、その翌日。事故を起こした時の慌てぶりがあまりにもみっともなかったらしく、それが原因で彼女にフラれるアキト。同日、それがとてつもなくショックだったのか、何も食べずに居間のソファに1日中黙って横になっているアキトを心配し、ユカさんが夕食に作ったスパゲッティのミートソースが盛られた皿をアキトの鼻先に差し出したが、アキトは首を振るだけ。で、そんな姿を見た塚ポンも(これでコイツも少しわかったことだろう……)と思い、その後、もう1度ユカさんがアキトの前にミートソースの皿を差し出したところ、それを受け取って冷蔵庫のある台所に歩を進めるアキト。それを見た塚ポンは(そうだよなぁ……。フラれた日にメシを食えなんて無理だよなぁ。ま、そのスパゲッティは冷蔵庫の中に入れといて明日食えばいいよ)なんて思っていたらしいのだが、アキトはそのまま台所のコンロのところまで行き、そこに掛けてあった鍋からミートソースをオタマですくい、それを持っていたスパゲッティの上から計3杯も追加で掛け、その場でモリモリ食べ始めたらしい。

 
 つーことで、塚ポン。アキトは、まだ全然気を許せねえな。同情します……。 

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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