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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

離婚しました。引っ越ししました。

 そうなんスよ。去年から別居はしてたんだけど、今年の2月のアタマに正式に離婚しました。
 これからは息子と2人で暮らしていくことになってね。と同時に、実は去年末に生まれてから57年住んでいた立川を離れたんスよ。
 ほら、ジジババは勿論、両親も死んじゃったでしょ。しかも、隣町に住んでたキャームも死んじゃったしさ。確かに東京都下の立川市には思い入れもあってし、住みやすかったんだけど、オレの環境もこれまでとは相当変わるから、それと合わせて思い切って引っ越すことにしたんスよ。
 いや、オフクロが言ってたの。「お前、別にこの立川にこだわることはないからね。他に住みたいところが出てきたら、昔から板谷家がとか、先祖かどうしたとか一切関係なしに、とっとと土地を売って次の人生を始めりゃいいさ」って。その時は(えっ、オフクロって立川に全然こだわりが無かったの⁉)って驚いたんだけどさ。でも、オレもこの20年ぐらいの間にジジババ、両親という4人と死別することになったら、あ、オレはここにもう住んでなくてもいいやって自然に思ったんスよ。

 で、次にどこに住もうか考えたんだけど、特に住みたい街も無かったからさ。なら、とりあえずオレがここ6~7年通ってる友達の塚ポンがやってる串カツ屋、そこにスグに行けるところでいいやと思って、埼玉県にある片田舎町に引っ越してきたという次第なんスよ。
 でも、去年の春以降はオレもバタバタでね。息子の学校のことを考えたり、嫁に離婚することを切り出したり、土地の売買でいくつもの不動産会社と交渉したり、隣に住んでた弟のセージにも相談したり、引っ越しのために今の趣味で集めたモノを売ったり断捨離したりしてさ。しかも、ここ7~8年間取り掛かってる小説も、もう少しで完成するところだったんだけと、そういうことを一気にやらなくちゃならなかったから、殆ど進まなくなってイライラしっぱなしでね。
 それに加えて、引っ越し直前となって新たな問題が浮上してきてさ。それは飼い犬のチワワの土井垣をどうするかってこと。そうなんスよ、ようやく決まった引っ越し先のマンションはペットを飼うのが一切禁止でね。困ったオレは犬好きの友達に相談したりしてたんだけど、どうにもなんなくてさ。最後はそういうペットの引き取り先を探してる人が相談する施設に電話をしたら、まずは犬種を聞かれ、その次の年齢を聞かれ「10歳になります」って答えたんスよ。したら「あ~~~」っていう声の後、「ワンちゃんが欲しいと思ってる人たちも、そのワンちゃんが6歳以上になると殆ど欲しがる人はいなくなるんですよ」って言葉が返ってきてね。さらに「で、そういうワンちゃんは老犬ホームという施設で面倒を見てもらうしかないんですよね」なんて言ってきたから「じゃあ、その施設の電話番号を教えてもらえませんか?」って頼んだら、次のような答えが返ってきたんですよ。 
「あ~、でも、数有る老犬ホームでも、その大半がお金だけ取って、あとは殆ど面倒も見ないってところが多いらしくて。だから、私からはあまりお勧め出来ないんですよね」      
 オレ、思わず怒鳴り返しそうになりましたよ。結局お前んとこも老犬ホームもダメなら、最後は保健所に連れてって処分するしかないんかいっ⁉って。

 そうこうしてるうちに、引っ越しの日があと4日に迫ってきてさ。まさか11年も飼ってた犬を殺すわけにもいかないからね。最後はもう内緒でマンションに連れてっちゃえって決めて、その前に2人の友達にダメ元で電話をしたんですわ。そのうちの1人が静岡県に住むケンケンっていう後輩でさ。てか、このケンケンはオレと同じくポンコツ星人でね。だからケンケンでは犬は飼えないだろうと思ったんだけど、その嫁さんのカヨちゃんて女性が凄くシッカリしてる人でさ。でも、カヨちゃんはケンケンとの間に 中学3年の娘、そして、その下に4歳の双子の娘がいて、その3人の面倒だけでも大変なのに、さらに旦那のケンケンもカヨちゃんの子供のようなもんだから、1人で4人の子供の面倒を見てるようなもんなんですわ。で、その上、ウチの犬の面倒も見てくれなんて頼むのは図々しいと思ったんだけど、正直オレもメチャメチャ追い詰められてたから、もちろん断られても当たり前だと思いながらもケンケンに伝えてくれって頼んだんですよ。したら2日後にケンケンから電話が掛かってきてね。『ウチのカヨが板谷さんの 飼い犬の土井垣を引き取るって言ってます』なんて言うんですよ。で、その後、電話口にそのカヨちゃん本人が出て、次のようなことを言ったんですわ。
「いや、今まで板谷さんにしてもらったことを考えれば、そのワンちゃんを引き取るのは当然のことですよ。すいません、その答えを出すのに2日も掛かっちゃって」 

 オレ、この時に埼玉県にあるコンビニの駐車場に止めてる車の中にいたんだけど、思わず泣いてましたよ。だって、板谷さんにしてもらったことって言ったって、やったことって言えば、年末のウチでの忘年会に何回か招待したぐらいで、大したことなんか何もしてないんスよ。なのに、これから自分は4人の子供、プラス犬ー匹っていう大変な生活が待っているっていうのに、すこぶる明るく、オレを勇気づけるような感じで電話に出てくれてさ。いや、離婚っていうのは応援してくれる奴が1人もいなくてね。ま、それも覚悟で淡々と事を進めてたんだけど、兄弟以外でこんな応援をしてくれるっていうのが、ハンパなく有り難く感じてさ。いや、勿論翌日には新しい座敷犬用のゲージを買って、それと土井垣を静岡県のケンケンの家まで車で運んだんだけどね。したらバカ土井垣は、ケンケンの家に上げた瞬間からところかまわずガンガン小便をまき散らし始めてさ。いや、ホントすんません。でも、あの子供たちの騒ぎっぷりを見る限り、土井垣は幸せな余生を過ごすと思うよ。良かったな、土井垣。そして、カヨちゃん。キミのその心意気は一生忘れないからね。ホント、ありがと。

 さらに、その翌日。オレには、あと1つやらなければならないことか残っててね。息子を前にして、次のようなことを言ったんですわ。
「父さんの両親の良子おばあちゃんとケンじいちゃんは、何だかんだ言っても、思いやりのある人間だったから、父さんや父さんの妹やセージの3兄弟を幸せに出来たんだけどよ。オレはポンコツでエエ加減なところがあって、その結果、お前には今回迷惑をかけちゃってさ。1回だけ、ちゃんと言わせてくれ。……どうもすみませんでした」 
 息子、目に涙を溜めてましたよ……。そうだよな、コイツにだけは謝らなきゃいけないよな。

 ま、つーことで、さらにその翌日、オレはとうとう立川市から埼玉県にある塚ポンの店の近くに引っ越したんだけどね。しかし、驚いたのは、ねえ、マンションって何でこんなに暖かいの? てか、今まで平屋のボロい一軒家に住んでて、もう12月になったあたりから隙間風が入りまくって、エアコンを点けてもガタガタ震えまくっててさ。で、家族全員がエアコンを全開にしてたから、電気代が一般家庭なのに5万円を越える月も出てきちゃってさ。ところが、このマンションときたら、例えば16畳ある居間でも小さなエアコンで部屋を21℃にするように暖房を付けたら、もうハワイのような暖かさでね。あといいところって言ったら、立川から西武ドームまでの距離よりは少し遠くなったけど、ココからでも西武ドームまでは、混んでても車で40分ぐらいで行けるしさ。電車でも池袋までは30分で出られるし、そこそこ便もいいんですわ。
 が、もちろん不便なこともあってね。オレが住んでるマンションの半径1キロ以内には、美味しい飲食店が殆どなくてさ。2カ月前から時間を見つけては必死に探してんだけど、どうやら車で10分以内に行ける距離には旨いと言える店が1軒しかないんスわ。あ、塚ポンの店も入れると2軒か(笑)。
 ま、よく考えれば、立川に住んでる時の八王子の激旨うどん屋「ふたばや」だってウチから車で30分ぐらいかかったし、青梅の「マルソン」ってラーメン屋も1時間近くかかったから、まぁ、この埼玉でも慌てずゆっくりと探しますわ。
 ちなみに、先日サイバラのねーさん宅に離婚&引っ越しをしたことも報告に行ったら「まぁ、私も第2の人生を何年か前から始めてるけど、板谷くんも焦らないでゆっくりいけばいいよ」と言われました。 

 


 つーことで、ボキの第2の人生は、埼玉県の片田舎町でプレイボ~~~~~~っ!!

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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