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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

オレと吉野家の皮肉物語(後編)

 大好きな牛丼の吉野家が、自分が住んでいる場所から数百メートルという位置に出来たことを心から喜ぶオレ。 
 勿論オレは、その「吉野家みずほ台店」にオープン初日から向かった。 
「えっ……」
 吉野家みずほ台店は、テイクアウト専門店だった。と言っても店内にも食べられるスペースはあるのだが、そのスペースが6畳も無く、おまけに牛丼があの陶器の器に盛られるのではなく、テイクアウト用の発泡スチロール製容器に盛られるのだ。が、オレ的には、そんなことはどうでも良かった。自分は吉野家で牛丼を買う場合、殆どがテイクアウトなので、そんな狭い店内で食べるつもりは最初から無かった。

 問題なのは、牛丼をオーダーするのが券売機で、しかも、それがオレが苦手としているオール機械画面のタイプだったのだ。が、憧れの吉野家の牛丼を前にして、そんな愚痴を言ってもしょうがないので、オレは『店内』『持ち帰り』という2つある表示の内の『持ち帰り』の表示を押した。ところが、券売機が全く反応しないのである。再び『持ち帰り』の表示を押すオレ。が、やっぱり券売機は反応せず、気がつくと店内はそんなに暑くもないのに背中に汗が走ってるのがわかった。 
「すんません……」 
 カウンターの中で作業をしている店員に声を掛けていた。 
「はい、何でしょう?」 
「あの、ボタンを押しても機械が全く反応しないんですけど……」 
「あっ、そうですか」 
 そう答えると、その時やっていた作業を中断し、素早くカウンターを抜けてオレのすぐ横に来る店員。見ればその40代ぐらいの男の店員は非常に人の良さそうな感じで、オレが「この持ち帰りという所を押しても全く反応が……」と言うと「あ、そうなんですか」と答えながら、オレが指さしている『持ち帰り』と表示されたところをタッチする彼。と、すぐさま画面は、お持ち帰りメニューが羅列するページに切り替わった。 
「あははは。接触が悪かったかもしれませんね」 
 そう言って、すまなそうな表情を見せる店員。 
「い、いや……ちゃんと押したんですけどねえ」  
 結局、その店員はオレがオーダーしたい「牛丼の特盛」を発注する操作までしてくれ、おまけにそのテイクアウト用の牛丼の特盛の包みを差し出してくる際に「券売機が操作しづらくて申し訳ありませんでした」と頭まで下げてきたのである。オレは彼のその態度に感動し、心の中で彼に「岩清水くん」というニックネームをつけた。もちろんその後、家で食べた吉野家の牛丼の味は最高だった。 

 それからというもの、オレは3日に1度ぐらいの割合で吉野家に通った。そして、呆れることに毎回オレがタッチしても例の券売機は全く反応せず、その度にカウンターに向かって「すいませぇ~~ん!!」と声を掛けると必ず岩清水くんが飛んできて、オレの代わりに発注までの操作をしてくれるのである。 
 そして、そんなパターンが2ヵ月ほど続いたある日のことだった。その日もオレは牛丼の吉野家みずほ台店に入り、ダメだとわかりつつも一応券売機の『持ち帰り』と表示されたところをタッチし、やっぱり何の反応も無いのを確認すると、カウンターの中にいる岩清水くんに向かって「すんませぇ~~ん!」と声を飛ばした。と、少し間が空いてから「……なんですかぁ?」という女の声がカウンターの奥から聞こえたので、オレは「あの、券売機が反応しないんですけど」と言いながらカウンターの中を覗き込むと、そこにはいつもの岩清水くんはおらず、その代わりに20歳そこそこの若くて少し小太りの女の店員がいた。 
「すんません、券売機がタッチしても全然反応しないんですけど……」 
 オレが改めてそう言うと、その小太りの女は明らかにめんどくさそうな顔をして「はぁ~?」という声を出した。次の瞬間、オレは猛烈に恥ずかしくなった。そう、その女は口には出さないけど(何か変なクソオヤジがクレームをつけてきやがったぞ……)という言葉をその態度から吐いており、オレは自分が急にトロいダメ親父になったような気に苛まれた。 
 その後、オレがカウンター前でオロオロしていると、いつの間にかもう1人の40代ぐらいの年配の女の店員が現れ、結局彼女がオレの発注までの操作を代わりにやってくれたのである。その夜、ベッドに入り少しすると、その日の昼間にオレに向けてめんどくさそうな表情を放ってきた例の若い小太り女の、あの人をゲジゲジでも見るような目つきで眺める態度が頭に蘇ってきた。そして、しばらくするとその羞恥心がみるみる怒りに変わってきた。 
(あのクソ女、次に行った時もまたあんな表情を浮かべてきたら、今度は思いっきり怒鳴りつけてやる!!)
 
 そして、その3日後。意を決して吉野家みずほ台店に行き、例の券売機の『持ち帰り』の表示を押すもやっぱり何の反応もしなかったので「すんませぇ~ん!!」と少し荒々しい声を上げながらもカウンターの中を覗き込むと、「は、はい……」と岩清水くんが明らかに怯えたような表情を浮かべていたのである。 
「あっ……す、すいません。あの、また券売機が反応しなくて……」 
 慌てて声のトーンを柔らかくするオレ。その後、岩清水くんはいつもより更に親切な感じで、オレの代わりに発注までの操作をしてくれ、その牛丼を家で食べながらも、オレは未だに自分の言うことをきかない吉野家の券売機のことを考えていた。 
(つーか、オレの前後であの券売機を使ってる他の客は、ほぼ全員なんなく牛丼の注文をしてるのに何でオレだけ……。オレが年配になって手の脂が無くなってきて、それがあの券売機のエラーを呼んでいるのか? 今日だって限りなく丁寧に、あの『持ち帰り』の表示を何回も押してるのに全く反応しないなんて、どう考えてもオカしいだろ……)     
 4日後の昼。吉野家みずほ台店の例の券売機の前に立っているオレ。 
(てか、いつもオレは力んで『持ち帰り』の表示を押してるんで、今日はさり気なく押してみるか……)
 そう思いながら、ダメ元で『持ち帰り』の表示に軽くタッチするオレ。すると…… 
(おおっ、お持ち帰りメニューのページが出てきたあああっ!!)
 
 そう、その日、オレは初めて吉野家みずほ台店で1人で牛丼を買うことが出来たのである。が、安心は出来なかった。その日は、たまたま『持ち帰り』の表示が反応してくれたが、次も同じ操作が出来る自信や確信は全然無かった。 
 そして、その翌週。オレは年間の恒例行事になってる“香川県本場讃岐うどん食いまくりツアー”に出掛けたのだが、その時に訪れた高松市にある1軒の讃岐うどん屋で雷に打たれたのである。その店で注文した肉うどん、その肉の味がモロに吉野家の牛丼の味だったのだ。いや、ソックリとかの生易しいものではなく、吉野家の味そのものだったのである。で、オレは思ったのだ。こんな田舎にあるうどん屋でさえ吉野家の牛丼のレシピを知ってるということは、既にその具体的な作り方がどこかに公開されてるんではないか!? 

 ちなみに、オレも今から5~6年前に実際に自分でも吉野家の牛丼が作れないか?と思い、インターネットで色々調べたことがある。が、その時わかったことは、吉野家の牛丼には白ワインが使われてるということだけだった。で、その時にオレは、白ワインを使って色々工夫して吉野家の牛丼作りにトライしたのだが、どうしてもあの何とも言えない元になる独特な風味が出せず、結局は諦めてしまったのだ。が、オレは香川旅行から埼玉に帰ると、ネットで吉野家の牛丼レシピを調べ始めた。と、ある記事に吉野家の牛丼作りに欠かせない重要な調味料のことが書かれていたのである! 
 その調味料とは“ダシダ”と言い、韓国の殆どの家庭が使っている牛骨エキスや野菜を凝縮した顆粒状の万能調味料のこと。そう、隣国の韓国で使われている調味料が絶対的に必要だったのだ。あとはアメリカ産牛バラ肉の薄切り、たまねぎ、白ワイン、昆布、本ダシ、砂糖、醤油、みりんなどを用いて牛丼を作ってみたところ、おおっ、あろうことか、オレにも吉野家の牛丼が作れちゃったのである!! 
 で、それから約3ヵ月後。現在のオレは、吉野家には行かずに、が、その牛丼とは殆ど味が変わらないモノを作って楽しい食生活を送っている。てか、お前は吉野家の味方なのか敵なのか、どっちなんだよ!?って話だよな。 

 

 いや、勿論オレは吉野家の味方だけど、悪いのはオレにめんどくさそうな視線を飛ばしてきた、あの小太りの若い女店員だからな!……って、そういうことにしときましょう(苦笑) 

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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