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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

さよなら、土井垣

 オレが飼っていたチワワの土井垣が死んだ。16歳だった。 
 いや、正確に言うとオレは5年前に離婚し、その時に東京都下の立川市にあった土地と家を売り、現在の埼玉県富士見市にあるマンションに引っ越してきて、その際に同マンションでは犬を飼うのは禁止だったので困っていたらナント、静岡県富士宮市に住む友達のケンケンが当時既に11歳だった土井垣を引き取ってくれることになったのだ。 
 なので土井垣は最後の5年間は、面倒見が超いいケンケンの嫁のカヨちゃんや3人の娘たちに囲まれて非常に幸せな生活を送れたのである。だからオレは、土井垣が死んだことは悲しかったが、全体的に考えると、まぁ、悪くない一生を過ごしたと思う。 

 てか、改めて思い出すと、土井垣はワンパクな犬だった。その前に飼っていたスキッパーという超大型のボルゾイ犬、その犬が死んで5年が経った頃、当時脳出血のリハビリ生活を送っていたオレは今度は超小型のチワワ犬を飼うことにした。その際に毛が抜ける犬は嫌だったので、短毛のスムースコートと長毛のロングコートのうちのスムースコートのチワワを飼うことになった。ところが、それが大きな間違いで、実は毛が大量に抜けるのはスムースコートの方だったのである。 
 かくしてオレは、生後半年もすると季節の変わり目に大量に抜ける土井垣の毛を毎日のように掃除し、かつ、何度訓練しても家の中の好きな所でやってしまうウンコや小便をその度に片付けなければいけない生活が始まった。更に、土井垣を飼い始めた時にはウチには元嫁が飼っていたトイプードルもいて、あろうことか、土井垣は奴とのタイマンにも勝ってしまい、生後1年もすると飼い主のオレの言うことは3分の1ぐらいは聞くのだが、その他の人間や犬の言うことは一切聞かない割と狂暴な犬になっていたのである。 

 ある日、そんな土井垣の顔をボーっと見ていると、オレはある事に気づいた。土井垣の顔、それはパッと見は可愛いのだが、その目を見ていると、その奥にはブルドック系の狂暴さが漂っていたのだ。つまり、この土井垣の先祖のどれかにブルドック系の犬と交配した奴がいた可能性が高いのだ。つーことで、オレは土井垣があまりに言うことを聞かないので、外に散歩に連れてく時以外は極力奴をゲージの中に閉じ込めておくことにした。いや、そりゃもう大変だった。家の中で飼われている2匹の犬。が、その中の1匹は自由に家の中を歩き回れるのに、土井垣だけは畳一畳分しかないゲージの中に閉じ込められているのである。土井垣は、その怒りを吐き出すために頻繁に吠えるようになった。 

 更に大変だったのは、友達が40人ぐらい集まるウチで忘年会をやる時だった。その会が開かれてる時も土井垣はゲージの中に入れておいた。その上、オレはみんなに注意を促すことも忘れなかった。
「とにかく、あのゲージの中に入ったり、犬の頭を撫でようとしちゃダメだからね。基本、あの土井垣はヤクザだから」 
 ところが、である。毎年のように、特に女性が「いや、私も犬はズーッと飼ってるし大丈夫よ」なんて言いながら、手で土井垣の頭を撫でようとすると十中八九ガブッと指を噛まれるのだ。逆にコッチが呆れたのは、そうやって3人目に噛まれた女である。様々注意したにも関わらず指を噛まれ、その翌日にオレんちに電話を掛けてきて「噛まれたところが化膿して腫れ上がってきちゃったから、もし手術することになったら、その手術代を払ってもらえますか?」なんて言ってきたのだ。幸いその腫れは2~3日後には治ったらしいのだが、それ以来その女をオレんちの忘年会に呼ぶことはなかった。 

 とまぁ、猫より小さいのに色々問題を起こす土井垣だったが、奴は更にウチから3回も脱走しやがったのだ。そのパターンはいつも同じで、オレは洗濯物を裏庭にある物干し台に干している時、その15分ぐらいの間、ゲージから土井垣を裏庭に放してやるのだ。もちろん、ウチの敷地から出ないように板やビールケースなどで裏庭からの出口を完全に塞ぐのだが、オレが洗濯物を干してる間に、どこからか隙間を見つけてオレんちの敷地外に逃走したのである。 
 1回目の時は、オレがウチから500メートルほど離れた大きな街道沿いで見つけたが、2回目の時は様々探し回ったが見つからず、が、5時間後に近くの派出所から電話が掛かってきて、その派出所で預かってるからスグに迎えに来てくれということだった。そう、土井垣の体には飼い主であるオレの名前や電話番号が書かれたチップが埋められていて、それでウチに電話が掛かってきたのである。で、3回目の脱走の時も誰かが土井垣を警察署に届けてくれ、その立川警察署からオレのところに電話があったので慌てて迎えに行ったところ、土井垣を保護してくれていた刑事たちに 次のようなことを言われた。 
「このワンちゃん、凄いねぇ~」 
「えっ……何が凄いんスか?」 
「いや、ここに連れてきたら二本足で立ち上がっちゃって、と思ったら、そのままクルクルと回ったりして。だからサーカス団か何かに飼われてる犬じゃないかって言ってたんですよ」 
「い、いや……ウ、ウチではお手もしてこない犬ですけど………」
 割と狂暴な性格に加えて、そのような謎も秘めている犬だったので、当然のごとくケンケンの家に行っても土井垣はそこらじゅうでウンコや小便をし、また、ケンケンは顔面を3回も噛まれるわ、嫁のカヨちゃんや子供たちも何回も手などを噛まれたという。が、それでもありがたいことにケンケン一家は土井垣のことを可愛がってくれ、奴が死んだ時もみんな喪服姿で火葬までしてくれたのだ。ホント、ただただ感謝しかない。 


 つーことで、土井垣よ。最後の数年間は特に可愛がってもらってホントに良かったな。アッチの世界では、もうお前の先輩のラッキーやスキッパーに会ってると思うけど、生意気なことを言わずに 優しくしてもらえよ。じゃあな、可愛いヤクザ犬。 

 

 


ホントに気が強い犬だった土井垣。が、オレを1度も
噛まなかったのは偉い。 

 

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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