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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

東映の波の現場を探せ! 

 元々オレは変なことに興味を持つ男で、前々から漠然的にだけど東映映画の本編が始まる前に流れる、あの海岸の岩に波がブチ当たる場所はどこなのかが気になっていた。

 これが有名な東映の波のシーン

 で、以前に弟のセージとそのことを話してたら、奴はあの波の荒さは絶対に日本海のモノだと言い、また、その時にたまたまウチに遊びに来ていたセージの友達のベッチョは「いや、あの波は高知の土佐の方の波ですよ」と言うので、「え、誰かからそう聞いたの?」と訊くと「いや、土佐丸高校が出てくる『ドカベン』を描いた水島新司先生も死んじゃいましたしねぇ……」という、またもやカッ飛んだ答えを返してきたので思いっ切り無視した。さらにその時に、当の東映に勤めているスガヤさんも遊びに来ていたので、「あの波のロケ地って実際はドコなんスか?」と尋ねたところ「トンガの方じゃないっスか、わかんないっスけど」という返答があり、(ああ、日本人でアレがどこで撮られたなんて気にしてる奴はほぼいねえんだなぁ~)と思った。 
 で、一昨年のこと。立川に住んでる後輩のタクジとラーメンか何かを食いに行ってる時、そのタクジが急に次のようなことを言ったのである。 

「板谷さんて、前に東映映画のあの本編が始まる寸前に流れる波の映像、あれはどこで撮られたのかを知りたがってたじゃないっスか……。あれ、地元のダチに聞いたら、千葉県の銚子の海岸だって言うんですよね」 
 ちなみに、このタクジはその銚子市で生まれ、ハタチ前までずっとソコに住んでいたという。が、その友達に更に詳しいことを訊いてみたが、それ以上はわからないということだった。いや、もしその場所が ホントに銚子にあったとしても、果てしなく広い銚子の海岸を片っ端から歩き回って探しても、そんなもんは容易には見つからないはずである。よって、そのタクジとの話はソコで終わりになった。 

 そして、昨年の暮れ。立川から埼玉に引っ越したオレのところに再びタクジから連絡が入り、ナント、例の東映の波の現場が、ほぼドコかが判明したと言うのだ。で、今月に入った2月3日の金曜日。オレは、事前に東映の例の波映像の一部をケータイカメラで撮り、とにかく画面には左から小、大、中の3つの岩が並んでいることを確認。そして、その写真映像をケータイの中に保存して、タクジと一緒に車で銚子へと向かったのである。 

 この3つの岩が並んでるところを探す

 オレが住んでいる埼玉県富士見市からは、外環自動車道と東関東自動車道を乗り継いで千葉県の潮来インターで下り、そこから下道を20キロほど走ってようやく銚子市に着く。にしても、さきほど潮来インターを下りたあたりからか、頻繁に車の助手席で誰かとケータイで話しているタクジ。で、そうかと思ったら急に「板谷さん、とりあえず昼飯食いませんか?」と言ってきて、奴のナビで更に5分ほど走ると、「一心」という カレー&とんかつ屋の前に到着。ところが……、 

 地元では大人気の「一心」食堂

 が、オレが生まれつき抱えている宿命により案の定臨休……

 
「うわっ、信じられない。臨休っスよっ。こんなこと滅多に無いですって。……てか、さすが臨休王の板谷さんですね。チキショー、ここのカツカレーを是非とも食べてもらいたかったのにいいいっ!!」 

 その後、次なる昼飯候補地に向かっている時も、やたらと誰かとケータイで連絡を取り合ってるタクジ。で、奴の指示通り、市の施設の広い駐車場に車を停めて、車外に出てみると、
「おう、タクジ」 
 いきなり声を掛けてくる3人組。改めて彼らのことを見ると、男2人に女1人。しかも、その男2人の顔がメチャメチャ似ているのである。 
「あ、板谷さん。このりょうなとふみちゃんは夫婦で、りょうなの隣にいるのが双子の兄貴のともきです」 
「えっ……あ、初めまして(てか、いきなり情報が多過ぎて、頭が現実に全然追いついてねえっつーの!)」 
 その後、歩いてスグの「キッチン三笠」という定食屋で豚の生姜焼き定食を食べるオレ。 
(旨い……。この店の豚の生姜焼き定食は確かに旨い。が、この3人は一体何でココにいるのか……?) 

 三笠の豚肉の生姜焼き定食。確かに旨かった

「あ、板谷さん。このともきが言うには、例の東映の波の現場はココから少しだけ離れた犬吠埼灯台の近くらしいんですよね」 
「おお、そうなんだ(あっ、東映の波の情報源がここの双子のタクジの同級生なんだ。ようやく現実に情報が追いついてきたぞ)」 
「つーことで、早速現場に向かいましょう」 
 タクジがそう言ったと同時に畳席から立ち上がる3人。そして……
「ああ、いいですよっ。それはオレが払うから!」 
 が、オレがモタモタ立ち上がってる間に全員分の会計を済ませてしまうともきくん。 
「いや、銚子では板谷さんはお客様なんだから、そんなお客様にお金を使わせるわけにはいかないっスよ」 
(うわあああっ、何やってんだよ、オレは⁉ タクジの同級生ってことは、この双子はオレの9つ下だろ。そんな後輩にっ、しかも、今回はオレたちに東映の波の場所を教えてくれるために、こんなド平日にもかかわらず集まってくれた上に昼飯代まで出させちゃって……。オレは引退後も定期的に日本にやってくるキッスのジーン・シモンズかよっ!?)
 その後、タクジの友達の3人は車を1台自宅に戻して1台で動くため、一旦オレたちと別れ、オレとタクジは先に犬吠埼灯台に向かうかと思いきや、その途中でオレに「ぬれせんべい」の土産を買うということで、ぬれせん誕生の店と言われている「柏屋」という名のせんべい店へ。てか、タクジ。基本的には有難いんだけど、とにかくオレはココに東映の波の現場の写真を撮りに来たんだから、早く灯台に行こうぜっ。これで辺りが暗くなっちゃったら、オレは今日、豚の生姜焼き定食を食うためだけに車で2時間以上もかけて銚子に来たことになるんだからよっ、な! 

 午後2時25分、ようやく犬吠埼灯台の真ん前に集合するオレたち5名。 
「この下の海岸のドコかってことはわかってんだけど、ま、下りてって調べてみようよ」 
 そう言うと、下の海岸へと向かう道をチャッチャと進んで行き、足場が荒い岩場になっても全く臆することなく進んでいくともきくん。が………、

 ともきくんを先頭に岩場の道を進むオレたち。BGMは「君は1000%」

 が、進路を荒い海に阻まれて…ガッデム‼︎

「ダメッス。コッチ側からは、ココから先は海になっちゃってて先に進めないっス」 
「板谷さん……」
 ともきくんからの言葉を受けて、オレに声を掛けてくるタクジ。 
「何だよ?」 
「あのりょうなとふみちゃんの馴れ初めって知ってますか? 実は凄くドラマチックで、1回交際中だった2人は別れてんですけど、10年後に……」 
 なぁ、タクジ。このクソ悪い足場と闘ってる時に、そんな話をしてくるんじゃねえ!!
 で、再び犬吠埼灯台のところまで戻った後、今度は反対側から海岸に下っている道を進もうとしたところ、再び声を掛けてくるタクジ。 
「あっ……あっ……い、板谷さぁん!!」  
「お前は乱暴な労働者のオッさんにチンボコをシゴかれてる中学生かよっ!? 何だよっ、今度は?」 
「いや、ほらっ、これ……」 
 タクジが指さす方を見ると、そこにはフェンスの手すりにプレートが備え付けられてて、そこには次のような情報が……。 

 東映の波の現場を示すこんなミニ掲示板が。はい、終わりました

(うわっ、本当だ。この写真の赤い枠で囲まれてる3つの岩は、まさしくオレが東映のDVDから撮った例の3つの岩だ!!) 
 更に、そのプレートの下部に書かれている説明によれば、東映のあの波のシーンには「荒磯に波」という題名が付いていて、現在の東映のあの波はCGで制作されたものが使用されているとのこと。で、何はともあれ、その崖の上から下の海岸を見下ろしてみると、おお、確かにあの3つの岩が……。 

 確かにあの3つの岩が…。片平なぎさに会いたくなった

「ど、どうします……い、板谷さんっ!!」  
「てか、タクジ。お前は隣の家の庭で絞殺死体を発見した惣菜屋のババアかっ!? と、とにかく、あの東映の波を撮った位置まで下りてって、同じ動画をケータイに収めようぜ」 
 と、ここでも双子の兄のともきくんが1人でサクサクと海岸まで下りていって、その3つの岩がスグ近くから臨める巨大な岩場の上に立った。で、今度はオレも遅れをとっちゃならないってんで、必死でその後を追ったのだが、あろうことか、僅か60センチぐらいしかない段差の岩場のところで思いっきりコケてしまい、何とか立ち上がって後ろを見ると、双子の弟の方のりょうなくんが必死で笑いを堪えているような顔をしていた。てか、これじゃあ蛭子さんと同じようなキャラじゃん、オレ……。

 またもや先頭を進むともきくん。趣味は、電車にあと一歩で乗り遅れること。いや、勘だけど

 灯台の上から確認すると、確かに簡単には行けない位置

 で、その後、オレも巨大な岩場近くまで進んだのだが、その先の階段状になっている岩場がとにかく滑りそうで、しかも、東映の例の波の動画を撮るためには、確実に海の中に入らなければならないことがわかった。 てか、今が春や夏なら、そんなもん多少海の中に入ったっていいが、今は厳寒の真冬の2月である……。 
(どうするんだ、板谷? ここまで来て最終目標を諦めんのかっ? 足元ぐらい濡れたっていいじゃねえか。ほらっ、どうするんだ、板谷。おいっ? おいつ? おいっ?) 

 結局、動画を撮らずに戻るオレ。そう、よく考えたら別にどこかの雑誌の取材に来ているわけでもないし、そんな苦労して動画を撮ったって、それを見て「おお、スゲー!!」なんて喜んでくれる奴もいるとは思えない。も1つオマケに、東映のあの波は実際の波をCG加工して更に激しく見せているだろうから、動画の撮影に成功しても「おいおい、場所は同じかもしれねえけど、何なんだよ、この赤ちゃんのような波はぁ~?」と言われるのが関の山である。 
 つーことで、その後、オレとタクジはやっつけ仕事のように31メートルの犬吠埼灯台に階段で登り(97段あった)、タクジの友達の3人組から更にお土産まで貰って、いざ帰ることになった (ふみちゃん、色々気を遣ってくれてありがとね)。が、タクジが最後に温泉に入っていきましょうということで、犬吠埼観光ホテルというところに寄ったら、ああっ、ここって昔、マンガ家のサイバラの元夫のカモちゃんとキス釣りをするために前入りで泊ったホテルで、あの時、カモちゃんが理由は忘れちゃったけど、このホテルの仲居のオバちゃんを戦事中の憲兵隊のような勢いで怒鳴りつけ、遂には号泣させてしまったという、割と嫌な思い出が蘇ってきました。 

 これが今から20年以上前、カモが仲居さんに噛み付いたホテル

 1階の窓から見えるこの風景で間違いないと確信

 今回、大活躍したタクジ。お小遣いは月8500円


 ちなみに、今年の夏あたりになっても、まだ東映の波の動画を撮りたかったら、ひょっとしたらまた銚子に行くかもしれません。……以上です。編集長! 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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