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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

まるや三バカ親父愚論会 第2夜

 今から10年前、埼玉県富士見市で串カツ居酒屋『まるや商店』を始めた塚ポン(49)。その居酒屋があまりにも居心地が良く、離婚を機に第2の人生を送るために、そのまるや商店の近くに引っ越したオレ(60)。そして、元々そのまるや商店の近くに住んでいて、昼間は自営業で雑誌のデザインをやり、夜は必ずその息抜きにやってくる三村さん(66)。 
 まるやのカウンターでは、いつもこの3人が揃い、ポンコツなムダ話を交わしている。さて、今回はどんな会話をしているんでしょうか?

ゲッツ板谷(以下、ゲッツ)「いや、しかし、三村さんも水臭いっスよね」 
三村さん(以下、三村)「何が水臭いんだよ?」 
ゲッツ「だって、ほら、去年の夏、三村さんは北海道に旅行に行ってる時に彼女とケンカして、その後、彼女からの連絡が途絶えて別れることになったって言ってたでしょ?」 
三村「そうだよっ。だって、わけのわからない事ばっかに怒るしさ。なら、コッチだってそんな女はごめんだよってなるだろ?」 
ゲッツ「でも、その後、三村さんはズーッと落ち込んでたでしょ? このまるやから帰る時も、その背中が真冬の八甲田山のように寂しそうだったし」 
三村「何だよっ、真冬の八甲田山って⁉ 別に寂しくなんかなかったよっ」 
ゲッツ「いやいやいやいや……。で、その後、まるやの串カツを揚げるフライヤーが壊れて、この店が1週間臨時休業になったでしょ。で、1週間ぶりにこのまるやに来たら、三村さんにオレに炎のように怒ったでしょ?」 
三村「えっ、何で⁉」 
ゲッツ「俺を1週間も放っときやがってって、メチャメチャ怒ってたじゃないっスかっ」 
三村「そ、そうだっけ?」 
ゲッツ「そうですよっ。ところが、その後、三村さんはオレや塚ポンには黙ってたけど、11月に彼女と復活したんでしょ。向こうから電話がかかってきて。って、それがわかったのは塚ポンが『不思議なんですよねぇ。三村さんが年末の31日から2泊で旅行に行くから、その間はまるやに来ないからね、なんて事前に自己申告してきたんですよ。つーか、誰と行くんですかねぇ?』って言ってたから、そんなもんケンカしてた 彼女しかいねえじゃねえかって返したんですよ」 
三村「い、いや、だから、あのババアから電話があったからよぉ」 
ゲッツ「で、そんな彼女と復活したら、オレには何の文句も言ってこなくなったじゃないっスか。何なんスか、その変わり身の早さは⁉ そのご都合主義は⁉ オレは三村さんが元旦から1人で過ごすことになったら寂しくてたまらないだろうから、フグ鍋会にも呼ぼうとしてたんスよっ」 
三村「いや、だから、あのババアとは、またいつケンカになるかわからねえからよ」 
ゲッツ「てか、ババアって言うのは止めなさいよっ。失礼ですよっ」 
三村「いいだろ、自分の彼女を何と呼ぼうが! そんなことゲッちゃんに言われる筋合いはないよ!!」
塚ポン「まぁまぁ、三村さん、そう熱くならずに。良かったじゃないですか、彼女と復活したんですから」
三村「何だよ、急に横から。体に凹凸の無い北朝鮮のロケットは黙ってろよ!」 
塚ポン「まぁまぁ、そう人にカラまずに……」 
三村「大デブ進行中の居酒屋店主に仕切られる筋合いは無いよ!!」 
塚ポン「体は細いのに腹だけは浮輪のように出てる、そんな人に文句を言われる筋合いも無いですけどねぇ」 
三村「塚っ……」
ゲッツ「塚ポン、三村さんに謝れっ。この人、外見はギョロ目の白髪鬼だけど、内面は水面近くを苦しそうにクルクル回ってるメダカなんだから!」
三村「って、どういう人間なんだよ、俺は⁉」
 
ゲッツ「ところで塚ポン、先週もキミには思いっ切りヤラれちゃいましたよ」 
塚ポン「えっ……なにヤリマンのゲイみたいなこと言ってんスか?」 
ゲッツ「いや、ほら、先週川越にある『中村屋総本山』っていう煮干しラーメン屋に一緒に行ったべ。塚ポンの息子のアキトも連れて」 
塚ポン「ああ、行きましたね」 
ゲッツ「で、ただでさえオレたちはメチャメチャ食うのに、色々注文してイイ具合いに満腹になってんのに、さらにキミは替え玉を追加注文しただろ? それも3人の分を」 
塚ポン「ええ、しましたねぇ」 
ゲッツ「何でお前は、いつもみんなが満腹になってるのに、更に追加注文をしようとするの⁉ そういうことすると苦しいんだよ、食べてて辛いんだよ。で、しまいには、その食堂やレストランが嫌いになっちゃうんだよっ。お主は毎回それをやってんだぞ!」 
塚ポン「いや、だって飯を食ってて足りないのって嫌じゃないですか」 
ゲッツ「だきゃらっ、足りてんの、ね! でも、キミは毎回追加注文するんだよっ。わかってる⁉」 
塚ポン「でも……」  
ゲッツ「でもも羽賀研二の反省も無いの! とにかく、その余分な追加注文のせいで、グルメ会で2軒目に巡る店の料理が全然旨く感じなくなっちゃうんだよ!」 
三村「まぁ、ゲッちゃん。そのへんで勘弁してやれよ。塚ポンだって皆が喜ぶと思って追加注文をしてんだからさ、な」 
ゲッツ「ちっ……。まぁ、浮輪腹さんにそう言われちゃ、オレも黙るしかないっスけどね」 
三村「おい! 誰が浮輪腹だよっ、バカヤロー! てか、この際だから言っちゃうけど、ゲッちゃんの本の読者で、この店に遊びに来る奴の中には礼儀がなっちゃない奴が多いなっ」
ゲッツ「おっと、いきなり内角のシュートボール!」 
三村「てか、ちゃんと聞けいっ!! ちょっと話したら、すぐにコッチが気を許したと思って、ガンガン距離を縮めてくる奴が割といるだろ? いや、本来なら最初のうちは礼儀正しく話してさ。でも、そのうち自然と笑いが出るようになって、そうこうしてるうちにようやくお互いに心を少し許すようになるわけじゃんか。俺はそういう過程をスッ飛ばして、いきなり何とかちゃんとかって人のことを呼んでくる奴は嫌いだねっ」 
ゲッツ「三村さんは凄いですよね。そういう奴がオレの隣に座ってガンガン話し掛けてくると、小さい声で『何なんだ、この野郎……。もしコイツが猫だったら、全身の皮をひっぺがして三味線にしてやるのに』とか、ズーッとブツブツ言ってますもんね」 
三村「言うかよっ、そんなこと!」
ゲッツ「でも、オレに声を掛けてくる読者の中には、ホントにいい奴もいるでしょ?」 
三村「まぁな。この前もココに飲みに来たら、俺の隣に座ってる奴がチラチラと俺の方を見てくるんだよ。ま、あとで塚ポンに聞いたら、その人はゲッちゃんの熱烈なファンで、ゲッちゃんは正月にちょっとだけこのまるやに顔を出したらしいんだけどさ。偶然その時にその人もまるやにいたらしくてね。それでゲッちゃんにサインをもらえたばかりか、ツーショットの写真も塚ポンに撮ってもらったって凄く喜んでたらしいんだけどさ」 
ゲッツ「ああ、あの紳士然とした人かぁ!」 
三村「でな、相変わらずチラチラと俺の方を見るから、しまいには文句を言ってやろうと思ってよ。そんで、すぐに2杯目のビールを塚ポンに頼んで、そのグラスを受け取る時にグボ~ッ!ってゲップをしちゃったんだよ」 
ゲッツ「ああ、いつもの」 
三村「そしたら、その人はまっすぐにコッチを見ながら『すいません、三村さんですよねっ!』なんて言ってきてさ」 
ゲッツ「グハッハッハッハッハッ!! 三村さんの生ゲップを聞いて、間違いないと思ったんですね。グハッハッハッハッハッハッ!!」 
三村「そうそう。で、その人とは、それから1時間ちょい話したんだけど、いやあ~、楽しくて、礼儀正しくて、イイ人だったよ。ゲッちゃんの読者が、ああいう人ばっかだったら、毎日楽しい宴が展開するんだけどなぁ」

塚ポン「しかし、三村さんて不思議な人ですよね」 
三村「えっ、何で?」 
塚ポン「三村さんて1人でウチの店で飲んでる時は、いつも静かじゃないっスか。まず生ビール2杯を3分くらいで飲んで、それから酎ハイを頼んで、ゆっくりと持ってきたスポーツ新聞を読む。で、10分ぐらい経ったら 酎ハイをお代わりして、それ以降も静かに飲んでるでしょ。で、たまに店内にはしゃいでる若者たちのグループがいると、一瞬睨みつけてたりするけど、その後も静かに飲んでるじゃないっスか」
三村「それがどうしたんだよ」
塚ポン「ところが、板谷さんがココにやってくると途端に喋り出して、時には板谷さんに飲み食いしてるところを写真に撮られても全然嫌な顔をしないっていうか、それどころか、日によっては“もっと俺を撮れよ! ”って、アピールしてくるでしょ。いや、本来なら三村さんみたいなタイプの人は、むしろ写真に撮られるのを嫌がるんですよ。お前、なにケータイのカメラをコッチに向けてんだよ!!って。だけど板谷さんが来て 写真を撮られて、その写真をXに載せられても“おい、ゲッちゃん。なんつう顔の写真を載っけてくれてんだよ! ”って一応文句は言うんだけど、でも、その日も板谷さんにカメラを向けられると、シッカリと表情を作って撮られるでしょ。つまり、俺は何が言いたいのかと言うと、三村さんは体もデカいし、顔にも威圧感があるから自然と人に避けられて、自分でもそれは自覚してるから、普段から“ほっとけ、バカヤロー”が三村さんのスタイルじゃないっスか。なのに何で板谷さんと一緒にいる時は、あんなに開放的になるんですか?」 
三村「…………………」 
塚ポン「教えて下さいよ、三村さん。何で自分からカメラに写ろうとするんですか? なんであんなに開放的になるんスか?」 
三村「……………い、いや」 
塚ポン「何でそんなに板谷さんのXに登場したいんスか⁉ 本来、人には放っておいて欲しい三村さんが⁉」 
三村「ああんっ、俺だって実は人ともっと気軽に話したいんだよっ!! Xを通してココに来る客と、もっと適度に会話をしたいんだよっ!!」 
ゲッツ、塚ポン「ホントに難しいオヤジだなああああああああっ!!」 

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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