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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

ケンケン

 つい先日、静岡県富士宮市に住む友達のケンケンが死んだ。 

 急なことだった。てか、つい1カ月前の3月6日、ケンケンの家で飼ってもらっていたオレの元飼い犬の土井垣が16年の犬生をまっとうし、荼毘にまで付してくれてお礼を言ったばかりだったのだ。そのケンケンが3月23日に脳出血を患い、が、命には別状がなく大ごとになりそうもなかったので、オレにはケンケンが病院を退院して少し落ちついてから知らせるつもりだったらしいのだ。が、それから1週間後の3月30日に急に奴の容態が悪くなり、そして、心筋梗塞を起こしてそのまま死んでしまったという。 

 オレにケンケンの嫁のカヨちゃんから連絡が入ったのは、その翌日の31日だった。最初カヨちゃんが言ってることの意味がわからず、彼女の泣き声を聞いて初めて冗談の類いじゃないことがわかった。電話を切った後、自分の体が震えているのがわかった。 

 

 

 ケンケンが初めてオレの前に現れたのは、オレが30代半ばの、東京都調布市にある味の素スタジアムでのフリーマーケットに出店した時だった。いきなり店の前にバカデカい男がバカデカいダンボール箱を抱えながら現れ、「板谷さん、これプレゼントっス」と言いながら、その箱をオレに渡してきた。箱の中には50玉を超える富士宮焼きそばの麺が入っていた。 

 それをきっかけに奴は事あるごとにオレ関係のイベントや行事に顔を出してくるようになった。また、少し前からドコかでアルバイトをしていたらしいのだが、ケンケンのお祖父さんが富士宮市で老人ホームと障害者施設を運営しており、オレが「今やってるバイトが気に入らないんだったら、その身内のお祖父さんがやってる施設で働いた方がいいんじゃねえの」と言ったら、その通りに障害者施設で働くようになっていたのである。 

 

 ハッキリ言っちゃうと、ケンケンは「ADHD」という発達障害を持っており、その中でも特に多動性の症状が強かった。早い話が、何かの集まりや会合があってもジッとしていられず、すぐに席から離れて意味もなく外をブラブラ歩いていたりするのだ。また、何度注意しても貧乏ゆすりが治らなかった。加えて、悪気はないのだが人に失礼なことを言ってしまうことも多かった。例えば、同い歳の合田くんという友達に初めて会った時に「えっ……意外と年取ってるんだね」と言ったり、4つ上の竹ちゃんというオレの友達に初めて会った時も「えっ、竹ちゃんて何か仕事してるんスか?」とか平気で質問しちゃっているのである。 

 そう、色々問題は多いのだが、でもケンケンは人間的には優しい奴で、また、人懐っこいところもあるので、オレの友達ともスグに仲良くなっていった。また、ケンケンにとってラッキーだったのは、奴のお祖父さんが自分の施設で働いていたカヨちゃんという女性をケンケンに紹介し、なんとその女性と結婚することになったのだ。てか、ポンコツのケンケンが何でカヨちゃんという美人で性格も申し分ない女性と結婚出来たのか? 当初、オレはそれが不思議でならなかった。が、後々イロイロな方面から話を聞いたところ、カヨちゃんは1度結婚に失敗しており、都会ではそんなことは珍しくも何ともないのだが、富士宮市という田舎町に住んでいるカヨちゃんは必要以上にそれを気にしていて元気がなかった。で、ケンケンのお祖父さんはそのことに気づき、これならウチのポンコツの孫でも相手にしてもらえると思って2人を会わせたのである。そして、もう少しでそんな2人が結婚するといった時に、オレがいきなり脳出血を患ったのだ。病状は重く、オレは約2ヵ月間にも渡って記憶と意識を失っていた。その後、奇跡的にもオレは復帰出来たのだが、その時のオレが入院していた病院にもケンケンとカヨちゃんが何度も見舞いに来てくれたらしく、オレが退院してから数ヵ月後に晴れて2人は結婚式を挙げたのである。 

 

 その後、ケンケンとカヨちゃんの間には3人の女の子が誕生したのだが、いやはや、その家庭でのポンコツ男ケンケンを相手にしているカヨちゃんの苦労はハンパなものではなく、早い話がカヨちゃんは3人の子供に加えて、ケンケンというもう1人の子供も抱えて生活することになった。しかも、そのケンケンは少し時間が出来ようものならパチンコや競輪などのギャンブルをやり、その負け額がハンパじゃないので、カヨちゃんは生活費を入れている自分の財布を色々なところに隠すようになった。が、その度にケンケンに発見され、しまいにはカヨちゃんは自分の財布を抱いて寝るようになったというのだ。それを聞いた時、オレの友達の佐保田のおっさんがマジでケンケンに怒り、ケンケンは小さくなってカヨちゃんの背中に隠れていたことを今も思い出す。 

 とまぁ、そんなケンケンだが、とにかくこの男は父親を早く亡くして母親に大切に大切に育てられたこともあって人懐っこく、愛嬌もあったので皆、カヨちゃんは大変だと思っていたけど、そんなケンケンを受け入れていたのだ。 

 

 

 そんな奴が53歳という若さで死んでしまったのだ。 

 正直に言おう。小学2年から幼馴染として付き合ってきた「キャーム」。今までに計5冊の紀行本の取材にタッグを組んで臨んだ「カモ」。高校時代から仲良くなり、一時はキャームも加えて3人でよく遊んだ「浜田」。オレにとって大切だったにも関わらず40~50代で他界してしまった、その3人の友達。が、そのショックよりもケンケンが亡くなったというショックの方がデカい。 

 だから今、その沼に足をすくわれないよう、時間が出来たらわざと色々な奴と酒を飲んで笑ったり、1人で往復数百キロ離れたところに車で食料品を買いに行ったりしているのだ。ケンケンのいない、奴がもう絶対現われないという世界をまだ認めるわけにはいかないのだ。 

 

 

 

 しかし、まさか土井垣が死んだ同じ月にケンケンも亡くなるとは……。何の冗談なんだよ、おい。 

 

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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