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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

外と内

 ライターなんて仕事をやっていると、ごく稀に芸能人や有名人と仲良くなる機会がある。
 で、プライベートで時々会うようにもなり、そうすると一般的なニュースで報じられているその人に関する情報と、自分が実際に目にして入ってくる事実が全然違っていることがよくあり、その度にちょっとビックリするのである。そう、外と内って結構違うのだ。
 いや、まぁ、それだから人付き合いというのは面白いもんで、が、人付き合い以外にもこの“外と内”問題が非常に気になる物件がある。その1つが、香川県における讃岐うどん問題である。

 要は、肝心の香川県人は地元名物の讃岐うどんをどう捉えているのか?という問題だ。でか、オレみたいに突然4~5年前から香川県の讃岐うどんにハマリ始めた者にとっては、地元の人は非常に羨ましい。車で数十分も走れば県内のどの美味しいうどん屋にも行けるし、そのうどんの料金だって僅か数百円なんだから、暇と空腹感さえあれば、あのハンパなく美味しいうどんがいつでも食べられるのだ。

 ところが、香川県に住んでいる人たちに自分たちに与えられているその特権について尋ねると、大抵が意外なほどテンションの低い答えが返ってくるのである。
「え、よく行くうどん屋は、家の近所にある2~3軒だよ」
「いくら有名店っていっても、俺は500円以上するうどんは絶対食べないよ」
 そんな答えが返ってきて驚いていると、さらに次のような回答もあってオレは思わず絶句してしまうのだ。
「ごめん。俺は昔からうどんなんてあんまり食べないからさ」
「何でうどんに対してそんなにムキになってるの? つーか、東京なんかココと違って何でもあるじゃん」
「うどんなんてドコで食べても大した変わりはないよ」

 てか、最初のうちはそんな答えが返ってくると正直、ソイツのことをブッ飛ばしたくなった。特に頭にきたのは、500円以上のうどんは絶対食べないって奴。ちなみに、これは具体的には何が言いたいのかというと、香川の宇多津町ってところに「おか泉」っていう大人気の讃岐うどん屋がある。で、その店の1番の名物が「ひや天おろし」という、うどんの上に大きなエビ天2本なんかが乗っており、そこに濃い出汁を上からブッかけて食べるっていう一品があって、が、そのひや天おろしが972円もするのだ。
 が、オレから言わせれば、あんな絶品のうどんに加えてイモ、カボチャ、シソの葉の天ぷらの他に例の巨大エビ天プラが2本も乗るんだから、そんなもんを東京で食べたら、それこそ1500円以上はするだろうから、972円は安いと思うのである。が、地元の香川県民にとってはその値段はとんでもないことになるのだ。

 で、オレはそんなケチ臭い感覚に対して暫く腹が立っていたのだが、年に数回、香川県にうどんを食べに行くようになって5年近く経ってくると、徐々にその考えが変わってきたのである。
 どう変わってきたかというと、香川県の地元民の考え方、感じ方がわかるようになってきたのだ。
 いや、といっても決して同じではないのだが、例えば有名なうどん屋を訪れて、ソコに数年前の自分のようなビギナーの観光客がいて、とにかくはしゃいでる様子を目にすると、何だか嫌な気分になるのである。で、心の中で(はい、香川でお前らうどんの素人でも旨さがわかるのはA店、B店、C店だから、お前らはその3軒を回って、とにかく少し大人しくなっとけ!)なんてつぶやいているのだ。
 しかも、「おか泉」の972円するひや天おろしに対しても、まぁ、食べようと思えばいつでも食べられるんだから、今回はもっと低料金で美味しいうどん店の新規開拓をしよう、なんて考えているのである。そう、ある程度の杯数のうどんを食べたからこその落ち着きがオレにも出てきたのだ。


 ふう~っ……。でも、かれこれもう1年近くも香川にうどんを食いに行ってないんで、来週あたりに再び1週間ぐらい行ってこようと思います。やっぱ今でも高です、讃岐うどん!!

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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