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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

予期せぬ相棒

 あの女は、雑誌やインターネットの類いは殆ど見ないので、よしっ、今回は思い切ってアレを書いちゃおう!

 つい先日のことである。
 オレには隣町に7つ年下のモモコ(仮名)という女の後輩がいて、ソイツが突然、旦那と離婚した。幸いなことに2人は子供はおらず、まぁ、それとは関係ないかもしれんが、とにかくそのモモコという女は未だに凄い色気を放っているのである。そう、正直に言うとオレらの間には友情もあったが、彼女はモロ、オレの好みだったのだ。
 で、そのモモコがすっかり元気をなくしているという情報が入ってきたので、オレは彼女を元気づけてやり、おまけに一発やらせてもらおうと決心した。

 んで、まずは立川のサ店に入り、彼女から離婚に至るまでの一連の事情を聞くと、どうやら直接の原因は度重なる旦那の浮気だとのこと。そして、それを話しながら少し寂しそうに笑ったモモコの顔が、また何とも色っぽかった。
 その後、気分晴らしにドライブに行こうということになり、オレは首都高から東北自動車道に乗り継ぎ、栃木県の那須へと向かった。で、インターから下りたオレ達は、一般道を10分ぐらい走ったところにある小洒落たサ店に入り、そこでオレはモモコをジワジワと口説き始めたのである。

 が、彼女はそのうち「アタシは恋愛するのは、もう当分いいや……」と言い出し、オレは「でも、恋愛抜きの人生なんて、そんなもん死んだも同然じゃねえかよっ」と応戦。そうこうしてるうちにアッという間に時刻は夕刻の5時になり、もう地元に戻ろうと言う彼女。
 が、東北自動車道を東京方面に戻りながらも、車内で必死になってモモコを口説き続けるオレ。が彼女の反応は「いや、とにかく今は誰かを好きになるなんて考えられない」と強固で、そうこうしてるうちに諦めの感情がオレの中にみるみる広がってきた。

(あ~あ、バカみて、オレ……。結局1日潰して、聞きたくもない女の別れ話を聞いただけじゃんか。……んっ?)
 何かを啜っているような音が聞こえ、ふと助手席の方に改めて目をやるとナント、さっきまで強固な態度を取っていたモモコが静かに泣いていた……。
「えっ………な、何で泣いてんのっ?」

 彼女からの答えは、こうだった。
 オレの車のコンポから流れていた坂本九の『幸せなら手をたたこう』という曲、九ちゃんがソレを歌いながら子供たちが自分の頬を叩いたり、足で下の床を踏み鳴らしてる音を聞きながら「ウフフ!」と笑ってる声を耳にしてたら、とにかく(いいなぁ……)という気分になり、そして、涙が止まらなくなったという。
「グスン……あ、ありがとね、板谷さん。ア、アタシのために……グスン………気を遣って、こんな曲まで流してくれて」
「えっ……あ、ああ………す、すこし落ち着いたぁ? (つーか、そんなこと1ミリも考えてないんですけど)」

 そして、それから数分後。モモコは、運転中のオレの左肩に頭をピタリと着けてきて、さらに数時間後、オレたちは地元近くのラブホテルで無事愛し合いましたとさ!
 
      ありがと、九ちゃん♥

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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