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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

さぁ、決着をつけようか!(前編)

 去年の8月に開かれた、キャーム主催の宴『ジェロニモ会』。
 その時、キャームは「もう、こういう会を開くのは今回で最後だ」と言った。「なんで?」と訊くと次のような答えが返ってきた。
「いや、だってツイッターでフォローしあってる奴らを飲み会に誘うDM、それを1人1人に出すのって大変だし、いい加減疲れてきたからよぉ」
 てか、それだけ大変にしたのは、他でもないキャーム本人である。そう、誰もキャームにそんなことをしてくれとは頼んじゃいないのだ。が、その理由を聞いた直後、オレは(ああ、また1年も経たない内に似たような会を開くんだろうなぁ)と思った。そして案の定、3ヵ月後には北海道は札幌まで行って、小規模ながら北海道ジェロニモ会を開き、また今年の夏にも100人近くの参加者を集めるジェロニモ会(今回はフォロワーが経営するお店を皆で訪れるという名目をつけているため、ジェロニモ会という名前は使わないと思うが)を開催するという。


 
 さて、オレは今まで出してきたコラム本ではキャームのことは頼りになる幼馴染みだということを書いてきた。ところが、ここ数年のコラムの中では奴に対して批判めいたことを書き続けている。それは何故かというと、キャームの中身がすっかり格好悪くなってきてしまったからだ。
 いや、正確に言えば、元々キャームは聖人君子というキャラではなく、人間的にマイナスな面もかなりある奴だったが、物事に対しての決着のつけ方というのが豪快でカッコ良かったのだ。ところが、イタリアのブランドものを扱うブティックを閉めてしまったあたりから、今までキャームのカッコ良いと思っていた部分が、ことごとく単なるガキのわがままになってきたのだ。
 その中でも最も悪い面は、そういう行為や言動を発すると相手はどんな思いをするのか、ということが全くわからなくなってしまったのだ。キャームは個人的な付き合いというのは意外と狭い奴である。が、とにかくキャームは人に自分の話を聞かせるのが大好きな男なので、幼馴染みのオレの友達などが集まる忘年会やバーベキュー会などで、その独演会を爆発させていた。ところが、ブティックを閉めた頃から、今度はそういう忘年会やバーベキュー会の時にオレの友達にこっそりと声を掛け、自分が勤めている会社に誘うようになったのである。
 いや、もう40歳以上の人間を自分が経営する会社ならまだしも、あくまでも自分が勤めている会社に誘って、それに乗ってくる奴というのはなかなかいるもんではない。ところが、キャームは話術だけは活発なので、そういう奴の誘いにオレの学生時代の友達のハッチャキ、隣町に住んでる10コ下の後輩シンヤくん、オレの実弟のセージが招き入れられてしまったのだ。
 が、キャームが勤めていたのはファミレスやハンバーガーチェーンに置かれているコーヒーマシンのメンテナンス作業、つまり、そのマシンの修理や点検をやる会社だったので、まぁ、そこに誘われたことについては別に問題があるわけではない。そう、考え方によっては非常に親切であり、むしろ礼を言うべき話なのである。ところが、オレの友達や弟がキャームにくっついての研修期間に入った途端、ソイツらは地獄を見るハメになった。

 メンテナンスに出かける際にキャームの車に奴らが乗り込むと、キャームは何故かいつものように“天然の”不機嫌になっていることが多く、何を話し掛けても返答すらないらしいのだ。おまけに、肝心の修理の仕方も丁寧に教えてもらえないらしく、ソイツはいつまで経ってもなかなか作業が覚えられないのだ。つまり、キャームの人格がガラリと変わってしまうらしいのである。
 そういう面で1番苦労したのは、オレの学生時代からの友達のハッチャキである。奴は、九州でパチプロをやっていたのだが、キャームに東京に来て嫁や子供にも堂々と言えるような職業につけと電話で説得されたのだ。が、東京に出てきた途端、昼間は散々キャームに怒鳴られた挙句、キャームと奴のお兄ちゃんしか住んでいないキャームの実家の2階に下宿していたため、寝る時も真下にキャームがいたのである。しかも、当初キャームの家に下宿していることをオレに黙っていろと言われたらしく、ハッチャキはキャームとの研修期間が終わり、今度は自分1人で現場に行く段階になると、仕事が終わってもキャームの家には戻らず、オレの家や近くのゲーセンに夜の11時ごろまでいて、キャームが寝静まった頃にコッソリと奴の家に帰っていくのである。
 が、最も大変な思いをしたのはシンヤくんだった。以前、彼は型枠大工の親方をやっていたが、7000万円もの借金を作って自己破産してしまい、その後、地元にあるアマチュア無線のアンテナを立てる会社に就職し、一家の生活費はもちろんのこと、3人もいる子供たちの学費まで必死に稼いでいた。そこにキャームから仕事の誘いがあったのだ。シンヤくんは、その話を受けようかどうか迷っていた時、とりあえずオレに相談してきた。で、オレは「まぁ、割とイイ稼ぎになるみたいだから、やっても損はないんじゃない」と答えた後、注意を与えておくことも忘れなかった。
「キャームは基本的には悪い奴じゃないけど、単純なことを難しくする変な癖があるから、とにかくソレだけは気をつけてな」

 で、どうなったのかと言うと案の定、のっけからキャームの“天然の”不機嫌攻撃を食らい、おまけに仕事が始まったらキャームがコーヒーマシンの修理の仕方をモノ凄く早口で言うので、何回目かに「キャームさん、俺はキャームさんに同じ事を2回言わせるのは申し訳ないんで、こうして言われた内容をノートに書こうと思っているので、すいませんが、もう少しだけゆっくりと説明してくれませんか」と言ったら、「ウルセー、このくらいのことはノートに書かないで覚えろ!」と返されたらしい。で、シンヤくんも一応は元ヤンだったので、そこでブチッとキレて、着ている作業服を脱ぎ、それを地面に叩きつけようとしたら、キャームにガシッ!と手首を掴まれた。そして、一言。「シンヤくん、今はガマンのしどきだぞ!」
 つーか、その無駄なガマンを作ってるのはキャーム、お前自身だっつ――の!!
 ところが、そんなことがあった後、キャームは急に優しくなったらしく、しばらくは平和に2人して作業をしていたらしいのだが、作業が終わってキャームの実家に向かっていると、必ず奴がその近くのコンビニに寄って甘い菓子パンなどを2人分買い、家の前でシンヤくんにそれらを勧めながら車に乗ったまま雑談を最低でも1時間はするというのである。もちろん、シンヤくんとすればアパートでは仕事から帰ってきた嫁さんが料理を作ってシンヤくんのことを小さな子供たちと待っているのに、その仕事後の雑談タイムを毎日のように食らっていたという。可哀相に、キャームの家の前と自分ちの食卓で夕食を2回食うことになったシンヤくんは、アッという間にブクブクと豚のように太り始めたのだ。

 次にシンヤくんと会ったのは、そんな夕食の2度食いが始まってから、ほぼ2ヶ月が経った頃だった。
「俺、キャームさんの勤めてる会社を辞めちゃいました」
 何があったのか改めて詳しく尋ねてみると数日前、最初の修理を終え、真夏の炎天下の中をキャームの車を運転していたシンヤくんは、助手席のキャームの指示で昼食を取るためにファミレスの駐車場に入った。で、降りようとしたのだが、車のキーが見当たらなかった。そう、キャームのその時の車というのは日産車で、キーを差し込むカギ穴はなく、そのカギを持ってさえいれば、あとは車のスタートボタンを押すだけで勝手にエンジンがかかるという車種だった。
「キ、キャームさん、車のキーは持ってますよね?」
「知らねーよっ。運転してんのはおメーなんだから、おメーが持ってんだろうよ!」
 キャームにそう言われたシンヤくんは、作業服のポケットの中や運転席の周囲を慌てて探した。で、30秒もしないうちにキャームが「俺は先にファミレスに入っているから、さっきの現場からこの駐車場の間で落としたんだろうから、とにかく探してこいよ」と言ってファミレスの中に1人で向かったという。その後、40度近い炎天下の中、最初の修理したハンバーガーショップまでの片道2キロの間をシンヤくんは走りながら往復したものの、カギはドコにも落ちておらず、汗だくになってキャームの車に戻った。そして、まさかと思いながらも助手席のダッシュボードを開け、中に入っていた修理の点検用紙の束をパラパラとめくっていたところ、ナント、その中にキャームの車のキーが挟まっていたというのだ。それを見たシンヤくんは、ショックと消耗と怒りと悲しみで訳がわからなくなり、車から降りると黙って自宅に帰ったという。そして、2日後、前に勤めていたアマチュア無線のアンテナを立てる会社の社長に深々と頭を下げ、再びその会社で働き始めたという。

 オレの弟のセージの場合は、ハッチャキやシンヤくんとは全然違うケースが待っていた。セージはキャームのことは昔から知っていたため、キャームに対しては必要以上に平身低頭することは無く、無茶を言われれば割と平然と言い返すことが出来た。キャームは最初にハッチャキを自分の職場に誘い、数年後にハッチャキが独立して九州から自分の家族を呼んでマンションに移り住むと、今度はシンヤくんとセージを自分が勤めている会社に誘ったのだ。
 で、前記のごとく、キャームは自分の作業とシンヤくんの研修の手伝いをしていたので、セージのことは千葉にある本社ビルで働くように会社の人間に頼んだのである。ところが、そこでセージの研修係になったオッさんというのが、とにかく会社イチ仕事が出来ない男で、が、その会社内での作業はその男しか出来ず、とにかくセージには何も教えてくれないと言うのだ。
 そう、下手に他人に教えてしまうと自分は不要になって会社に残れない。だから、そのオッさんは何一つセージに教えなかったらしいのだ。
 もちろん、堪ったもんじゃなかったのはセージである。毎朝6時前に車で家を出て千葉まで通っているのに何一つ仕事は無く、かつ、研修期間なので給料は殆ど出ないのだ。もちろん、セージはそのことをキャームに相談したが、それでも全く埒があかなかったらしい。で、そんなことが2ヶ月近く続いた後、セージはそのダメオヤジをメタメタに張り倒してやろうと思ったが、よく考えるとそれもバカらしいので黙ってその会社を辞め、シンヤくん同様、以前働いていた陸送会社に再び戻ったのである。

 キャームには、昔から“むら気”がある。人を誘う時はモノ凄く親切に応対するのだが、いざ働く段階になるとウソのように不機嫌になったり、つまんないことで怒ったりするのだ。奴のそういうところをもう何十年と見てきたオレは、最近ではキャームはアスペルガーとか、演技性人格障害といった精神的な病が少し混ざっているような気もしてきた。そして、冒頭の方でも書いたが、キャームは自身の言動や行為によって相手がどんな思いをするのかがわかっているようで、実は殆どわかっちゃいないのだ。
 九州から単身東京に出てきたハッチャキが、のっけから怒鳴られ、休みの日も当初はキャームの家から3~4キロしか離れてないオレの家にも来られず、空いている時間はゲームセンターで1人ピコピコとゲームをするしかない生活がどれだけ寂しいものだったか。
 自己破産後、嫁さんのパート代はすべて家賃に消え、自分の給料が自分の家族の全生活費&全学費になっているシンヤくんが色々なモノを払って、財布の中身をテーブルの中に空けてみると1000円と残っちゃいない。もちろん、自己破産したのでローンも借金も出来ず、そんな時に炎天下の道路を往復4キロも走った挙句、キャームの車に戻ってきたら、そのダッシュボードの中に自分が探していた車のキーが入っているのを発見した時、シンヤくんはどんな気持ちになったのか。
 キャームに散々仕事に誘われ、ようやくセージはヤル気になったが、フタを開けてみれば自分の研修係が全く仕事を教えようともせず、それでも毎日のようにバカっ早い時間から遠くの会社に出掛けていくセージは、どんな気持ちだったのか……。
 ハッチャキ、シンヤくん、セージは既に中・高校生じゃなく、もう40過ぎである。で、もちろん、キャームだってそうなのだ。そういう年齢の奴が純粋に人を助けようとする時は、同時に相当な自己犠牲を覚悟しなければならない。そうじゃなかったら、そう何人もの人間をホントに助けることなど出来ないのだ。で、その助ける分野が就職だとすると、どんな仕事をして、最初はいくらぐらいの給料が貰えるかということを助けようとしている奴らに提示しなければならないのだ。それが中・高校生ではなく、大人のルールだとオレは思う。

 これはキャーム自身の口から以前聞いたことがあるのだが、シンヤくんがキャームが勤めている会社を辞めて少しした頃、キャームは自分の右眼にヘルペス菌が入ってしまい、手術をしたがあまり上手くはいかず、元々は1.5あった視力が0.02ぐらいまで落ちたらしかった。なので将来的には自分はメンテナンス作業をするのではなく、各ファミレスやハンバーガーショップのコーヒーマシンに故障が出たら、それを自分がハッチャキやシンヤくんやセージなどに伝えて修理に行かせる指令塔の役割をしたかったらしい。
 が、ハッチャキが教えてくれたのだが、その時のキャームが勤務している会社には、既にその指令塔の役割をしているキャームの上司がいたらしいのである。そして、その人は自分が長年続けている指令塔の役割を他人に譲る気は全く無かったという。それどころか、キャームとその人物はずいぶん前から仲があからさまに悪かったらしい。
 で、ここから先はキャームの強引な性格を知っているオレの、あくまでも予想に過ぎない話なのだが、早い話がキャームは自分が会社に入れた3人については勝手に指令塔になるつもりでいたのではないか? が、もしそうだとしたら。それは会社の上司たちを騙して勝手に行う“テロ行為”に他ならない。だからその後、キャームはそのコーヒーマシンのメンテナンス会社をクビにされたような気がしてならないのだ。
 さて、キャームに対して色々厳しいことを言ってきたけど、オレはハッチャキ、シンヤくん、セージが色々と嫌な思いをしてきたことは正直、しょうがないことだと思っている。そう、誘われてホイホイついていったのは、この3人なのだ。だからオレは、自分の友達や弟がキャームにやられたことに関しては、あえて怒りを見せずにいた。
 が、オレは今でもキャームに対して許せないことが1つだけあるのだ。今から5年前ぐらいに“キャームを休む”と決めたのも、実はこのことが原因だった。



 次回は、そのことを書くので、それを読んだキャームにオレとの今後のことを決めてもらえればいいと思っている。オレは、どんな結論が出ても構わない。(つづく)

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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