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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

You Are Hero!

 所沢にある西武メットライフドーム、そこで埼玉西武ライオンズの試合を見た2回に1回は、そこから約16キロ離れた埼玉県某市にある串カツ屋「まるや商店」に寄ることにしている。
 その店の店主は塚ポンという後輩で、元はと言えばオレの本の読者だったが、まぁ、前にも書いたがイロイロあって友達になり、そして今から3年前に塚ポンが自分の串カツ屋をオープンさせてからというもの、ちょくちょく彼の店に寄らせてもらっているという次第である。
 現在40代半ばの塚ポンは、背も高くはなく、オレみたいないわゆるデブでもあるのだが、顔は割とハンサムで、性格も明るく温厚。よって、ただでさえ料理が旨いので店は繁盛しているのだが、その上、彼と話したいという中年~年配客が続々と増え、カウンターとテーブルで35~36人は入れる店内は、いつ行っても満席なのである。

 ある日、カウンターに座ってウーロン茶を飲みながら串カツを食べていると、塚ポンがテーブル席に座っている30代半ばぐらいの男を呼び、オレに紹介してきた。
「あの、板谷さん。コイツ、ウチの常連客なんですけど、サバゲー(サバイバルゲーム)が好きみたいで、今度板谷さんなんかがサバゲーをやる時に、コイツも誘ってやってもらえませんか?」
 塚ポンのその言葉に合わせるようにして頭を下げてくる男。藤子不二雄の漫画に登場するラーメンの小池さんを少しだけ利口にしたような顔だったが、まぁ、問題がある奴にも見えなかったから、オレはその場で次のサバゲー会に奴を誘った。と、1人でサバゲー場に現れた彼は、ドイツの兵隊のような軍服に着替えた。と、同時に奴のアダ名が「ドイツ兵」になり、その後もドイツ兵は2回、3回とオレたちのサバゲーに参加してきたのである。
 また、ドイツ兵はキャームが時々開催する飲み会にも参加するようになり、急速にオレたちと親密とまではいかないが、まぁ、それなりに付き合いのある知り合いとなった。そして、奴をオレに紹介した塚ポンは、店にドイツ兵が来ると嬉しそうにつっ込みを入れるようになり、その様を見てオレもゲラゲラと笑うようになったのである。

 ところが、それから半年も経たないうち、まるや商店に顔を出したオレに塚ポンが珍しく少し曇った顔で声を掛けてきた。
「板谷さん、あのドイツ野郎は出入り禁止にしましたから」
「えっ……な、何で!?」
 塚ポンの話では、ドイツ兵はとにかく女癖が悪いらしく、まるや商店に飲みに来る若い女の客に、次々と声を掛けているだけではなく、まるや商店の女のアルバイトを陰で口説こうとしたり、とにかくそういうことが続いたので塚ポンが注意をしたが、何度言っても「事実無根なことを言わないでくださいよ」とスッとぼけるらしい。
「しかも、あのドイツ野郎は何度聞いても自分の職業を言わないんですよっ。まったく大した職業についているわけでもないのに、とにかく下らないことを隠そうとしやがるんですよっ、あの野郎は!」
 つーことで、その日以来オレはドイツ兵とは会わなくなったが、それにしても普段は温厚な塚ポンがあれだけムキになってドイツ兵を店から排除したことを考えると、もしかして働いていたバイトの女の子の中に塚ポンが割と気に入ってる娘がいて、ドイツ兵がその娘に手を出そうとしたのがとにかく許せなかったのかなぁ~なんて思った。そして、ほんの少しだけだけど、まるや商店の近所に住んでいるというのに、ココに入ってこられないドイツ兵のことが可哀想にも思えた。

 それから1年以上が経った、つい先日のこと。その晩、寝ようとしたらケータイのグループLINEに塚ポンからの書き込みが入っていた。
『突然ですが大ニュース! 「ドイツ兵」が逮捕されました!! 売春でw しかもヤツの職業は某公務員でしたwww 良かった~出禁にしといて(・∀・)』
 開いた口が塞がらなかった……。さらに、そのグループLINEに入っている仲間がドイツ兵のことが書かれているネットの記事を発見し、LINE上に載せてくれたそれを読むと次のようなことがわかった。
『警視庁によると、ドイツ兵(実名は伏せるね)は今年18歳未満の少女に現金を渡して買春した容疑が持たれている。調べに対し、ドイツ兵は「事実無根なことを言わないでください」などと容疑を否認しているという』
 そう、塚ポンにツメられた時と同じ言い訳をしていたのである……。
 それにしてもドイツ兵のロリコンぶりっていうのは相当なもんだったのだ。何たって自身が公務員だったってのが、まず凄い。そりゃ塚ポンに職業を聞かれても答えられないわ。

 で、次にオレの心に浮かんできたのは、自分の未熟さに対する羞恥心だった。そのドイツ兵の逮捕を知らせる塚ポンのLINEには、去年の暮れに塚ポンがドイツ兵と交わしたLINEでのやり取りがコピーされていた。

塚ポン「以前ウチを通して知り合った元バイトの女の子は未成年だからな。連れ回してんじゃねえよ。店を辞めてると言えど、彼女の母親や関係先とウチは繋がってるんだからな。ましてや接点はウチなんだからな。出禁野郎が俺に肩身の狭い思いをさせてんじゃねえよ。少しは考えろよ。大バカ野郎が」
ドイツ兵「?どちらさんですか?? 誰かと間違えてませんか? 突然なんなんですか!?」

 そう、塚ポンはドイツ兵の異常さ、タチの悪さに途中から気づき、自分の店に来る客やバイトの女の子たちを本気で守っていたのだ。なのにオレときたら、塚ポンがあんなにムキになるのはドイツ兵が自分の気に入ってるバイトの女の子に手を出そうとしていたからではないか?という、まるで高校生のような視点で見ていたのだ。


 失格!! オレ、今年で54歳にもなったのに全然失格!! そして、塚ポン。キミは埼玉県の1軒の串カツ屋を経営してる上では、完全にヒーローだ!!
 おめでとう!(←何に対して?)

 

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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