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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

遠くて実は凄く近い奴ら

 あ~~~~~、もう書いちゃえっ!!


 オレんちの隣には、オレより3歳年上のデブが住んでいる。
 コイツのことは、前にも1度コラムに書いたことがある。何を書いたのかというと、今から15年以上も前に、たまたま近所で火事があった。で、それを見ていた地元の3大デブだったオレと隣のデブは、その火事が起こった家の息子の自動車を他の何人かと持ち上げて移動させるハメになったのだが、いっせーのせ!で持ち上げた瞬間、その隣のデブがバビバビビビッ!!…ピチピチピチッ…という放屁音を炸裂させながらウンコを漏らしてしまい、オレは笑いを堪えるのに必死で力が全然入らず、結局それ以降のオレの町内での評判は『あのデブたちは一家の大黒柱にならなきゃいけない年頃なのに引きこもりで、図体はデカいのにからっきし力がなく、協調性もゼロの穀潰し』ということになってしまったのである。

 で、基本的にオレと、この隣のデブはまともに言葉を交わしたこともなく、殆ど交流も無かったのだが、今から4年前に突然ビッグバンが訪れたのだ。
 その朝、まだ7時にもなってない頃にウチのチャイムが突然ピンポォ~ン!と鳴った。で、(誰だっ、こんな朝っぱらからぁ!?)と思ったオレは、少しムッとした表情を作りながら玄関のドアを勢いよく開けてみると、隣のデブが小汚いジャージの上下を身に付けながら立っていたのである。
「えっ………な、何?」
 とりあえず、そう訊いてみると次のような答えが返ってきた。

「ウチのお父さん、さっき死んじゃった………」

 そう言い放ったまま、その場に立ち尽くしている隣のデブ。
 つーか、オレはソイツのお父さんとも全くと言っていいほど交流がなかったし、唐突にそんなことを言われても何て返していいかわからないのだ。でも、無我夢中で「そっ……それは大事件だね」って返答したら、その隣のデブは急にベソをかき始めたのである。いや、、少し前に父親が死んだわけだから、そりゃ泣くのも無理はないと思う。
 でも、もう一度状況を整理して書くと、朝の7時前に45歳だったオレの家に、殆ど交流のなかった隣の48歳のデブがやってきて、いきなし「ウチのお父さん、さっき死んじゃった……」と告白。で、オレが「そっ……それは大事件だね」と言ったら、その48歳のデブがベソをかき始めたのである。って、どう考えても普通じゃないだろ、これって?
 で、結局オレは、そのデブんちの葬式の手伝いを少しするハメになったのだが、それ以降、その隣のデブがウチにちょくちょく顔を出すようになったのである。理由は、それ以前、ウチらの家庭ゴミの集積所は、ウチから30メートルほど離れた運送会社の塀沿いにある所だったのだが、あまりにも出されるゴミが多いために、今度はウチとそのデブの家ともう1軒の計3軒の家が独立して新たな集積所を作らねばならなくなったというのだ。で、結局集積所はウチの外壁沿いに作られることになり、そのゴミ袋を置いておく棚は隣のデブが作ることになったのである。
 ところが、その隣のデブはまともに仕事もしてないくせして意外と小器用なのだ。全長2メートルほどの木の棚はもちろん、カラスや鳩にゴミ袋を突かれないよう、その棚の上に被せる網まで取り付けているのである。

 そんで、今回の話は急に会話調になるココからがやっと本題なんだけどさ。つい半年ぐらい前のことですよ。その、例の隣のデブが夜中の1時くらいにウチに来やがってね。何で、そんな時間に来たかっていうと、ウチの敷地内にあるアパートの2階から人が唸ってる声がさっきからズーっと聞こえるっていうんですわ。
 で、(おい、このデブは最近、オレのことを友達だと勘違いしてんじゃねえのかっ!?)と思いながらも、眠い目を擦りながらアパートの前まで行って耳を澄ましたところ……

「あああ~~~~~んっ………バカ野郎!! 
 ぐぅわあああ~~~~~っ、うわおおおおおおおおっ!!」

 そんな唸り声が、確かにアパートの外にもハッキリと聞こえててね。てか、その部屋って先週から新しい住人が入ってきてて、どうやらその男が苦しんでるような声でさっ。で、下から「おいっ、どうしたんだよ!?」って何度も声を掛けたんだけど、相変わらず唸り声が続いたままでね。そのうち当時、そのアパートの1階に住んでいた弟のセージ夫婦も起きてきちゃってさ。

 結局、何だか気味が悪いから警察に通報してね。したら、5分もしないうちに自転車で警官が1人来たんだけどさ。何って言ったらいいのか、まだ高校生みたいな顔つきの若者でね。で、まぁ、事情を説明したら、その若い警官は1人で階段を上がってって2階まで行ってさ。その部屋のドアを外から何度もノックしたんだけど、誰も出てこなくてね。

 ところが、唸り声はピタリと止まってさ。んで、その警官が2階から「ど、どうしましょうか?」なんて訊いてきたから、「あっ、……じゃあ、もういいよ」って言ってやってね。その後、下に降りてきたから、「おまわりさんも若いのに大変だねぇ~」って声を掛けてさ。んで、オレんちの1階の居間にあるテーブルの上に、友達から貰った大きな八朔(はっさく・ミカンの一種)が5つあったのを思い出して、その内の2個を持ってきて「これ、派出所に戻ったら食べなよ」って言って渡そうとしたら、最初は遠慮してたんだけど、それでも強引に勧めたら「じゃあ、すいません」って受け取ってね。そんで、左手でその大きな八朔を胸に抱くように2つ持って、右手1本でフラフラと片手運転で自転車で去っていく、その若い警官の後ろ姿を見ながら「マッポも、ああいうあどけない感じだと思わず応援してやりたくなるんだけどなぁ~」なんてセージと笑い合っちゃってね。

 で、その翌日ですよ。ウチから100メートルぐらい離れたY字路で、警察が一時停止線で止まらない車のキップを切っててね。その時、オレは早く吉野家の牛丼が食いたくて急いでたから、その一時停止線で止まらなかったら「ピ~~~~ッ!」って笛が鳴って、電柱の陰から警察官が1人出てきてさ。(あちゃ~~!)って思ったんだけど、もう時は既に遅しでね。
 で、車を道路脇に停めさせられた後、「免許証出してくださぁ~い!」と言われてさ。渋々ズボンのポケットから免許証が入ってる財布、それを取り出してる時に改めて警官の顔を見たらナント、昨夜ウチに来た、あの高校生のような幼い顔をした警官なんですよっ、ね!

 そんで、オレは態と親しげな笑みを浮かべながら「昨夜、ウチに来てくれたよねぇ?」って声を掛けたら、「あっ……ああ」なんて、その兄ちゃんも肯いてさ。で、オレはすかさず言ったわけですよ。
「つーことで、今回は勘弁してよ、ね! 次からは、ちゃんと一時停止するからさぁ~」
「ダメ! 早く免許出して」


 で、結局は2点の点数と5000円の罰金を取られました。ふざけんなあああ~~~っ

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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