MENU

ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

悪かったな、考えることの7割が食い物のことで

 体型が物語っている通り、オレは食べることが大好きだ。
 特に目がないのは、ラーメン・カレー・トンカツ・鰻・蕎麦・うどん・焼肉(ホルモン)・ステーキ・ハンバーグ・天プラ・餃子・パスタ・お好み焼(もんじゃ)・イタ飯・タイ飯・喫茶店飯・パン・ケーキ・居酒屋の肴などのB級グルメだ。 
 休みの日は勿論のこと、平日でも何を食べようかと考える熱量や執念が人一倍強いと思う。よく食べもののために1日の殆どを使えるねぇ~と言われるが、そんな奴らにオレも言いたい。じゃあ、お前は休日に何してんだよ? 休みの日もインターネットで他人のTwitterやサイトを延々と覗き見してるのが充実した生活なの? それともディスカウントショップをプラプラすれば充実すんの? もしくはゴルフでもすればいいの?
 いや、まぁ、それもいいけどね。食べ物の話、特に誰もが日常的に口にするB級グルメの話は人を楽しい気分にさせる。『あの店は実は○○の方が1番人気の〇〇より旨い』『あそこは木曜日に「いつものやつお願いします」とマスターに言うと、とんでもなく豪華なコース料理を出してくる』とか、とにかくドンドン話が広がる。

 知っている奴も多いと思うが、元々オレは20代の中~後半にかけて月1回2~3泊で日本の各県の優良パチンコ店を探すという連載をやっていた。が、優良なパチンコ屋を探すというのは2の次、3の次になっていて、オレの興味はその県内にある旨いものを食いまくることだけに向いていたのである。そんな連載を4年間もやってきたので、○○県に行ったら何を食べるべきで、それが旨いのは○○町の○○っていう店だってことを熟知していた。それがオレのB級グルメの基礎になっている。
 よって、東京で同じジャンルのモノを食べても(あ、これはあの時の取材で食べたモノより明らかに不味い)とか(おお、これは本場のモノより味が進化してるぞ!)ってことが瞬時にわかるのである。そう、グルメの1番求められる才能は“舌の記憶力”なのだ。
 とにかくオレは、今でもグルメの日帰り旅行をするのが一番楽しい。千葉コース、茨城コース、栃木コース、伊豆コース。ちょっと遠いけど名古屋や山形コースだって、1台の車に運転出来る者が2~3人乗って、出来るだけ早い時間に出発すれば日帰りは可能である。基本、美味しく食事が出来るのは2軒ぐらいで、あとはその間に現地での食材品の買い物やミニ観光なんかをブチ込む。更に贅沢を言えば、秋~冬にかけては、温泉に入るという要素も加われば申し分なしである。もちろん、このグルメ旅行に必要なのは現地でのグルメ情報、そして、楽しくて気の合った仲間だ。そういう仲間が実は食事の最高のトッピングになるのである。
 ここで話を東京のグルメ情報に限定させてもらうと、東京の飲食店の中で旨いもの、不味いものを大ざっぱに分けると、そりゃ旨いものを出す店の方が多い。だから評判を聞いて、例えばラーメンを食べに行っても大方が旨いのだ。が、ただ旨いというだけでは、もうオレはその店には行かない。それを食べ終わって、ああ、またコレを食べに数週間後にはこの店を再訪したいなぁ~と思わなければ、再びその店に行くのは時間が勿体ないのだ。そう、オレも既に50代の後半。旨いモノを食べる時間も機会ももうあまり無いのである。 
 ちなみに、ホントーに旨い食べ物に出会った時、オレが起こす反応は2パターンある。1つ目はとにかく笑っちゃうのである。こんな旨いモノを食ってる自分は何て幸せなんだろうと感じて、思わず笑い声が出てきてしまうのだ。今まででオレが笑っちゃったのは、博多「やま中」の麦味噌味のモツ鍋、京都「ムジャラ」のスパイスカレー、蒲田「檍(あおき)」の特上ロースカツ定食、江戸川区「和友」の鰻重。それらを食べた時には思わず笑いが弾けてしまった。
 で、2つ目は、初めて食べた時は、正直言って旨いかそうでないかハッキリわからない。が、とにかく気になり続け、その真偽を確めるために何回か通っているうちに、ああやっぱこの一品は派手な味じゃないんだけどシミジミと旨いということがわかるのだ。今までオレがそう感じたのは、千駄木「神名備(かむなび)」の醤油ラーメン、足立区「田中商店」の豚骨チャーシュー麺、長野県「ふじおか」の蕎麦懐石、青梅市「マルソン」の部活ラーメンなどがある。

 が、オレが今まで最も深いハマり方をしたのが、香川県の讃岐うどんだ。これはホントに奥が深かった。計8年ぐらい通っても、未だにうどんの旨さは把握しきれてない。いや、ホントに旨い店が次々と出てくる。そう、オレは1つのジャンルの食べ物に対して、頭の中でピラミッドを作れないと、とにかく落ち着かなくなるのだ。少なくとも トップ3、欲を言えば、その下の準トップ5ぐらいまでの店をリストアップしないと気が収まらないのだ。ところが、香川県の讃岐うどんときたら、あまりにも旨い店が次々と出てくるので、そのピラミッドがいつになっても完成しないのだ。だから、毎年のように行ってしまうのである
 さて、再び話を関東圏のグルメ事情に戻すと、オレには常時飲食店の巡り方で迷っていることがある。それは何かと言うと、旨いモノを食べたいのなら自分が今まで通ってきた、間違いのない店を順繰りに回れば間違いない。そして、もう1つの考え方は、とにかくまだ入ったことの無い店で食事をしたいという冒険心を煽る巡り方である。が、実際に友達や読者からの情報を元にその店に食べに行っても、ホントに旨いモノに当たるのは10軒に1軒ぐらいの確率なのだ。つまり、オレのグルメデータの足元にはその10倍もの大したことのない飲食店のデータが死骸として埋まっているのである。が、確実に旨い食事を食べたいという心と同じくらい、いや、それ以上にまだ入ったことの無い店でB級グルメを食べたいという気持ちがあって、殆どがハズレなのだが、今もそういう冒険を重ねている次第だ。 
 昔、幼馴染のキャームが、よくオレからグルメ情報を聞き出して、その店はいかにも自分が見つけていたという体で何人かのギャルと訪れてるというという話を耳にした。そして、オレは奴に「お前はいいよな~。1軒の当たりを掴むために10軒のハズレを引かなくてもよ…」という嫌味を言ったことがある。で、キャームはその数年後に死んでしまったので、あの時はあれぐらいの軽い嫌味で止めておいて良かったと改めて思う。
とにかく、今まで色々な雑談をしてきたが、結局オレはコレが言いたいのだ。


旨いものを食うと、ああ、生きてて良かったぁ~と心から思う。

 

-----------------------------------------------------

『そっちのゲッツじゃないって!』

◇ガイドワークスオンラインショップ
(限定特典:西原理恵子先生表紙イラストのクリアファイル付)
『そっちのゲッツじゃないって!』

◇Amazon
https://www.amazon.co.jp/dp/4865356339

バックナンバー

著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

関連書籍

閉じる