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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

軽井沢乳首コロコロ事件

 今も大して変わってないんだけど、昔のオレは特に何かにこだわってソレをジックリやることがなかった。先のことなど殆ど考えずに、その場その場の欲望に対して衝動的に動いていたのである。

 高校1年の時、オレは学校の硬式テニス部に入っていた。いや、その頃のオレは思いっきり地元の暴走族に入っていたのだ。なのに、と同時に高校の硬式テニス部に入部したのである。その理由は、中学2年ぐらいまで軟式テニス部に入っていたオレは、いつかは硬式テニスをやってみたいと思っていた。それで高校に入学して、ほぼ1週間後に硬式テニス部に入ったのである。 
 が、そうは言っても当時のオレは、グルグルのパンチパーマをかけていたのだ。しかも、テニスウェアーなどを買うつもりもなく、週に1回程度出るクラブ活動には黒いヤートラのシャツなどを着て出ていたのである。なのに自分達1年生の主なクラブ内での活動内容は、先輩達が球を打ち合ってるコートの背後での球拾いだった。
 ちなみに、オレは小学2年生の頃からスパルタ塾に入っていて、そんなガリ勉生活がグレる前の中2の後半まで続いていたので、高校は割とレベルの高い大学の附属高校に入ったのだ。つまり、高校の先輩は殆どが真面目っ子で、そんな奴らが打った球をパンチパーマでヤクザが着るようなシャツを身に付けてるオレが拾って投げ返していたので、先輩達も凄く戸惑った表情をしていたのである。
 また、その一方でオレは週に何度も族の先輩からヤキを入れられ、結構な確率でボコボコの顔をしていたので、テニス部の先輩達からは週に1度、手負いの少年ヤクザがなぜか自分たちの球拾いをしに現われるという、まるでオカルト劇場にいるような目で見られていたのだ。
 
 で、高校1年の夏休み。オレは殆どの日を暴走族のたまり場にいながらにして、2泊3日の高校のテニス部の合宿に参加することになった。場所は長野県の軽井沢で、1~3年までの約50名の生徒が参加することになったのである。で、その合宿でもオレ達1年は球拾いをやることになったのだが、オレのその当時の格好は更にエスカレートしていて、頭髪はさらに短くて グルクル巻きの二グロパーマ。そして、相変わらずテニスウェアーは1枚も持っていなかったので、もう1人の1年の不良と共にド派手なアロハシャツを着て、コートの隅で球を拾っていたである。
 そして、2日目の夕方。休憩時間になると、オレはもう1人の不良の友達と軽井沢銀座というお土産屋などが連なっている商店街でナンパを開始。が、そんなオシャレな場所でチンピラのような出で立ちで声を掛けてくるオレたちに引っ掛かる女などはおらず、そろそろ宿に帰ろうと最後のターゲットとした女に声を掛けたところ、その2人組の女は全く不良っけが無いのにもかかわらず、近くの喫茶店についてきたのである。
 ちなみに、彼女たちも東京都内にある女子高のテニス部に所属しており、歳はオレ達の2つ上の高校3年生だった。彼女たちはオレ達の格好を珍しがり、そのパーマは何というパーマなの?とか、やっぱりどこかの暴走族に所属してるの?とか、そんな格好でテニス部の合宿に参加して担任の教師には怒られないの?とか、様々な質問をしてきた。そして、オレ達がそんな質問に得意になって答えてるうちに、いきなり大雨が降ってきたのである。 
「じゃあ、そろそろ夕食の時間だから、私たちは合宿所に戻るね」 
 女の1人がそう言ってきた。で、彼女達は夜になって再び会っても、Hなことをやらせてくれるタイプではないと判断したオレは「わかった。ココの代金はオレ達が払っとくから、じゃあな!」と言って大雨の中、ビショビショになりながら通りの向こうに消えていく彼女達を見送った。で、その後、友達と雨が止まないか喫茶店のベランダ席に座りながら少し待ってみたものの、雨は一向に弱くならず、仕方がないので自分たちも濡れながら宿に向かおうとしたところ、ザーザー降りの雨の中からびしょ濡れの女が2人出てきた。 
「えっ……や、宿に帰らなかったの⁉」
 その2人組は、さっきまでオレたちと契茶店で喋っていた女だった。 
「いや、ここの喫茶店代まで払ってもらっちゃったからさ。……はい、これ」
 女の1人がそう言って、己らと同じくビショ濡れになった小さな紙袋をオレたちに1つずつ手渡してきた。 
「じゃあね。楽しかったよ、ありがと!」
 もう1人の女がそう言うと、彼女達は再びザーザー降りの雨の中に戻っていったのである。ボロボロになった紙袋を開けてみると、その中には2つとも『KARUIZAWA』という文字の入ったキーホルダーが入っていた。
「あの2人、この大雨の中でお土産を買って、オレ達に持ってきてくれたんだ……」
 そのキーホルダーを手に、オレは猛烈に感動していた。そして、そのうち熱い想いが腹の底から湧き上がってきた。
「おいっ、あの娘たちを探して、感謝のキスをしようぜっ!!」
 そんなド恥ずかしいセリフを吐いたオレは、次の瞬間には通りに向かって駆け出していた。が、いくら探してもその2人組は見つからず、結局オレたちはボロ雑巾のようにビショビショになりながら自分達の宿に戻ったのである。 

「どうでもいいけどよぉ~、おメーら1年坊主は根性がねえなぁ~」
 タ食を食べた後のことだった。担任の教師が2人、自分たちの部屋に戻った後で、この合宿に参加していた8人の3年生の中の1人がオレたちに20畳ぐらいの大部屋でそんな声を掛けてきた。さらに……、
「おメーらは、どうせ酒も飲めねえんだろ。こんな男子校のテニス部の合宿で、寝る前に男同士で枕投げぐらいしかやることがねえのかぁ? つまんねえ青春だなあ~、おい」 
   バチン!! 
 オレの頭の中で、そんなスイッチが入る音が聞こえた。
「おいっ、誰か酒屋に行ってウイスキーの大瓶を2~3本買ってこいや!!」 
 数分後、オレに言われた通りにウイスキーを買いに行った1年が戻ってきた。そして、宿の食堂から借りてきたコップにそのウイスキーをドボドボ注ぎ、ストレートのまま3杯一気飲みしたら、そこからキレイに記憶が無くなっていた。
「……あれっ!?」 
 目が覚めて辺りを見回してみると、その20畳の部屋に寝ていたのはオレと2年のIという先輩2人だけになっており、慌てて他の3つの6畳間を覗いてみると、そのどれもにキツキツに他の部員が寝ていたのである。 
「お前ら、何でこんな狭い部屋に糞溜まって寝てんだよ!?」
 オレが足元に寝転がっていた1年にそう訊くと、ソイツは「ええっ、何も覚えてないのっ!?」と驚きながらも昨夜のオレの行動を報告してきた。 
 ストレートのウイスキーを数杯飲んだオレは、その後、2年と3年の部員を怒鳴りながら1列に並ばせ、馬跳びを始めたというのである。そして、自分が何周か跳んだら、今度は他の1年にも自分と同じことをやれと強要したと言うのだ。で、そのうち全部のテニス部員が他の6畳間に避難したとのこと。
 オレは呆気に取られていた。いや、真面目な3年生に根性がねえなぁ~なんて言われれば、先輩と言えども当然自分は穏やかじゃなくなる。が、にしたって、2年3年を全員馬にして、それを跳ぶ奴なんているかぁ~?
(おい、オレは他にも何かやらかしてねえかっ!?)
 そう思い、昨夜の消えた記憶を必死で思い返していた。すると断片的な記憶が2つだけ蘇ってきたのである。
 1つは、その2年と3年の背中をオレが「あなななななななっ!!」と吠えながら跳んでいる記憶。そして、もう1つが、あろうことか、誰かの乳首を舌でコロコロと転がしている記憶だった。でも、ウチの高校は男子校である。女なんて………えっ、ひょっとして⁉ 
 オレは慌てて、元いた2階の20畳間に戻った。そして、そこに、未だに寝ている2年のIという先輩を見て凍りついてしまったのである。そのIという先輩は髪が長く、しかも、少し女っぽい顔をしていたのだ。で、オレはそっちの趣味は無いものの、2日前の晩の寝る前に、もしこの合宿所以外の日本が急に絶滅してしまったら、お前ならどう過ごす?という問題を自分自身に出し、考えた末、女にハンパなく飢えるだろうから、その2年のIを女装させてHなことをやってもらうしかない……という答えを出していたのである。そして、こともあろうに昨夜、オレは逃げるI先輩を捕まえて、その乳首を舌でコロコロと転がしていたのである。……何をやってるんだよおおおっ、オレは!! 

 その後、高校の2学期が始まり、久しぶりにテニス部のクラブ活動に出たオレは、他の1年と同じく再びコートの隅に立って球拾いをしていた。が、オレが球を拾って先輩に投げ返すと、その殆どの先輩達が「ど、どうもありがとうございます」という言葉を返してきたのだ。そして、それを何度も耳にしてるうちにホントに遅まきながら、自分はココにいちゃダメなんだなということがわかり、その日のうちに硬式テニス部を退部した。 
 てか、イキがりながら暴走族に入って上からヤキを入れられまくったと思ったら、坊ちゃん高校の硬式テニス部に入り、オシャレなイメージのある軽井沢テニス合宿にニグロにアロハという言い訳も出来ない姿で参加し、ナンパした真面目っ子の豪雨の中でのプレゼントに感動し、が、その晩に酒を飲んで2、3年生を馬跳したばかりか、女っぽい顔をした男の先輩の乳首を舌でコロコロ転がしていたのである。
 そう、そのどれもに深い考えとか思慮とかは何1つ無く、その場その場の衝動的な欲望だけで突き進んでいたのである。 


 そりゃロクな男にならないわな……。

 

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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