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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

どうやってオレはタバコをキッパリやめられたのか?

 オレはホントにタバコが好きだった。
 酒より、女より、比べるものが無いほど好きだった。もちろん、ホントはやめたいんだけど……なんて思いながら吸ったことも1度もない。
 1回何でそんな好きなのかキチ○イになるほど考えた結果、メチャメチャにマザコンのオレにとってのタバコは、イコール母親の乳首のようなもので、要するに一生母親に甘え続けたいんだなぁ……とも思ったものである。
 そんなタバコを何でやめられたかと言えば、脳出血を患って2カ月もの間、意識と記憶を失ってたからだ。そう、その間にオレの肺の中にあるニコチンが殆ど無くなってしまってたのである。
 が、14歳から吸い始めて42歳までの28年間、オレは1日の休みも空けずに、特に最後の10年間ぐらいはマルボロを日に5箱も吸い続けていたので、もちろん病院を出てからも頻繁に吸いたくなった。でも、担当医からは再びタバコを吸い始めたら命の保障は無いと言われ、仕方なくガムなどを噛んで我慢していた。
 脳出血のリハビリ期間中、特に何もやることが無かったので、歯の裏にびっしりと付いたタバコのヤニを金属の引っかき棒みたいなモノで取っていたら、そのうち殆どの歯がグラグラになって次々と抜け始めた。そう、若い頃はシンナーを吸ったりケンカで歯を飛ばしていた上、中学1年の時から歯医者には1度も行かなくなっていたので、20歳前には半分近くの歯が無くなっていた。それでもその後の約30年間もよく半分以上の歯が残っていたな、と思っていたが何のことはない、それらの歯の残党はヤニで繋ぎ止められていたのである。

 そんなある日、部屋で原稿を書いていたらいきなり油蝉が口に飛び込んできて、夢中で吐き出したらナント、それは油蝉ではなくオレの上の八重歯が根元から抜け落ちてきたモノだった。それを皮切りにして、オレは自分の歯の殆ど全部をインプラントにしようと決めた。で、週一で駅近くの歯医者に通うようになったのだが、施される治療というのがいつまで経っても歯を磨くことだけなのだ。てか、何で殆どの歯を抜いてしまうのに、その歯をこうも丁寧に磨けと言われるのか? つーことで、その歯医者に通い始めて3カ月目にオレは先生に「何でいつも歯磨きの指導だけで終わってしまうのか?」と質問したところ、その3カ月の間、2週間おきに様々な角度で撮られたオレの歯の写真を見せられた。ビックリして椅子から落ちそうになった。
 その写真の前半の時期のオレの歯というのが、タバコのヤニでドロドロになっていて、まさしく昔、海の事故で重油まみれになった鳥みたいな感じだったのである。これがタバコの仕業かと思ったら、背筋に太い寒気が走った。で、その後、先生は順番通りにそれらの写真を見せてくれ、かなり歯肉の部分がキレイになってきて、これなら歯を抜く時の麻酔の注射も効くようになっただろうから、次週から本格的な治療を始めますと言ってきたのだ。そう、この時にまずオレは、コールタールのようなタバコのヤニの恐ろしさを思い知ったのである。
 結局、それから2年半にわたってインプラント治療が続き、ようやくオレの歯は白い歯がズラリと並んだ、まさに生き返ったものになったのだが、心の隅では軽いイライラが残っていた。タバコを吸いたいという欲求は少しは和らいだが、でもその代わりとなるものが依然として見つからなかった。

 そんなある日、部屋で友達から電子タバコというものを教えられた。で、早速ドンキでその電子タバコを買い、リキッドのような液体を下からバッテリーで温めて気体になったものを吸ってみたのだが、これが全然ピンと来なかったのである。そして、そのことを翌日にツイートしたら、フォロワーの1人が『上野に本格的な電子タバコ屋が出来て、そこの電子タバコはニコチンもタールも入ってないけど、とにかく吸った気になるので是非行ってみてください』と返してきたのだ。
 翌日、オレは友達の佐保田のおっさんと、その電子タバコ屋に向かった。ちなみに、その佐保田のおっさんも数年前に白血病を患っており、一応それは奇跡的に治ったのだが、医者からはタバコも酒も禁じられており、それだけは忠実に守っていた。で、オレはそんなおっさんに「とにかく電子タバコっていうのはリキッドにタールが入ってないから体には悪くないし、しかも、ニコチンも抜きだから中毒にもならない安全なタバコなんだよ」と説明したが、彼は「いや、俺はそれがどんなモノか実際に見たいだけで、でも、絶対に買わねえよ」と頑なに電子タバコを受け入れる様子は無かった。
 ところが、その店に行ってドンキで買ったのとは比べものにならないような立派な作りの電子タバコを吸わせてもらったら、実際のタバコを吸っているのと同じぐらい自分の口から煙が出て、それですっかり驚いたオレと佐保田のおっさんは、何も言わずに1番高いセットを買ってしまったのである。それから1年弱だろうか……。その電子タバコにイロイロな香りがするリキッドをセットして、1日に10~20分ぐらいは吸っていたが、やはりニコチンが入ってないので、そのうちに段々と吸わないでも平気になり、さらに半年ぐらい経った頃には完全に吸わなくなっていた。まさに14歳からタバコを吸い始め、その時はちょうど50歳だったので、こう書くと意味は微妙に違っているかもしれないが、それでもあえて書くと、オレは36年かけてようやくタバコをやめられたのである。

 いや、今の喫煙者はつくづく大変だと思う。タバコの値段を上げられ、まさかのファミレスや喫茶店、はたまたパチンコ屋でも吸えなくなるという。まさに健康を盾にしたイジメである。だからオレは、喫煙者を自分の車に乗せる際には、用意している灰皿をスグに差し出し、この車の中はタバコを吸っても大丈夫だからと言ってやる。そう、タバコが吸いたいのに車の中でジッとガマンしているそのツラさを自分は知っているからだ。もちろん、オレの車の中はタバコ臭くなるだろうし、その煙の何%かは自分も吸ってしまうだろう。それでもせっかくの友達が、タバコを死ぬほど吸いたいんだけど他人の車の中にいるということで延々とガマンしている姿、それを見続ける苦痛を考えれば、車の中がタバコ臭くなろうが、その煙の一部をコッチも吸うことになろうが、そんなことはへっちゃらなのである。

 そう、何度も言うが、オレはタバコを吸うのをやめた。けれどタバコに対するある種のリスペクト、つまり、煙をくゆらしてぼーっとしている時にこそ意外と凄いアイディアが浮かぶとか、タバコ好き同士が並んで煙を吐いている時の、あの何とも言えない開放感を忘れちゃいないのだ。ま、あえて言うなら、中毒者として喫煙を我慢する必要が無いということが、今のオレの最大の恩恵なんだけどさ。



 え、でもこの先、何かの病気になって余命数カ月って言われたら? そんなもん、その次の瞬間からオレはタバコをプカプカ吸い始めますよ。当たり前のことを聞くなっつーーの(笑)。

 

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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