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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

平気な理由

 ボキの本の読者には、うつ病を患っている人が割と多い。
 何で多いのかというと、要するに、このゲッツ板谷という人物は割と大変な思いばかりしてるのに、いつも元気があるのが不思議でしょうがない、ということらしいのだ。てかね、正直言ってボキの今までの人生で本気で辛かったっていったら、母親の死ぐらいなもんでね。その他のことっていったら、確かにその事件や事故が発生した時は結構凹むけど、少し時間が経ったら(ま、生きてんと、こういうこともあるわなぁ~)って感じで納得してる自分がいるんスよ。そう、立ち直りが早いんスね。

 で、何でオレの立ち直りが普通の人に比べると異常に早いかというとね、それはやっぱり10代の頃の環境なんスよね。いや、もっと正確に言うと、オレが中学~高校生時代に母親の実家があった埼玉県は大宮市で見てきた強烈な環境、それに尽きるんスよ。
 ま、詳しくは昔書いた自伝的小説のワルボロシリーズにも出てくるんだけど、オレの母親の実家はヤクザの家でね。義父は某テキヤ団体の三代目の会長をやっていて、その息子の、オレの母親にしたら実弟と義弟も某大手のヤクザ団体に属しててさ。まぁ、この人たちのハチャメチャぶりって言ったらハンパじゃなくてね。ハンパじゃないっていっても、この3人の中でスケール的にハンパじゃないって意味ではなく、ゲスな意味でハンパじゃなかったのが母親の義弟でさ。ま、小説では「猛身」って名前で出してたから、ここでも猛身って呼ぶけどね。この男は自分の身内に対しても、とことん悪事を尽くしてくる奴でさ。
 まず競輪をやる金欲しさに、大宮で食べ物屋をやっていた自分の母親、つまり、オレにとっては母方のお婆ちゃんを殴る蹴るして、トータルで1億円以上の金を取っちゃう奴でね。その上、自分の愛人に自分の本妻が風俗店に行くように車で毎日送らせたり、時々は大宮のお婆ちゃんの店でバイトをしていたオレにも牙を剥いてきてさ。自分のまた別の愛人をオレに差し向けてきてね。まだ17歳になったばかりのオレに大酒を飲ませて、その女と一発ヤッたことにしてさ。後でその女が妊娠したってことで、オレの母親から金をふんだくろうとしたりね。ホント、マンガのキャラクターのような、っていうか、ホンマもんの人間のクズだったんスよ。

 さらに、その猛身のカモになってたお婆ちゃんの店にも当時、色々な人が出入りしててね。週に1回ぐらい、その婆ちゃんと同じ歳ぐらいの婆さんが店が終わるちょっと前の時間にお茶を飲みに来てさ。オレの婆ちゃんもその人が来ると、店が大して混んでない時は店の端っこにあるテーブルでお茶を飲んでたんだけどね。ある日、オレが気を利かせてお茶を持ってったら、いつもはマフラーを巻いてるその婆さんがその日に限ってマフラーをしてなくてさ。で、よく見たら顔のド真ん中に全長15センチぐらいの穴が空いててねっ。ビックリして持ってった湯飲み茶碗を床に落として割っちゃったら、ウチの婆ちゃんに怒られちゃってさ。その婆さんが帰った後で聞いたんだけど、その人は若い頃梅毒になって、それで顔の真ん中にある皮膚が溶けて穴が空いちゃったらしくてね。でも、ちゃんと礼儀正しい人で、店では他の人にはなるべく気づかれないようマフラーやマスクをしてくるから、ウチのお婆ちゃんもいい話し相手になってたらしくてさ。

 で、そんなお婆ちゃんの店には、「須崎のバアさん(仮名)」って呼ばれてる、もう1人のバアさんがいてね。何で須崎のバアさんって呼ばれてるのかというと、そのバアさんの息子がこれまたチンピラでさ。そんで猛身にいいように使われちゃってて、オマケに猛身がその須崎ってチンピラの母親を様々殴る蹴るしてる自分の婆ちゃんのところに連れてきて、「おい、このババアをバイトとして使ってやってくれよ」って置いてったらしくてね。
 オレも須崎のバアさんとは何日も一緒にバイトしたことがあるんだけど、とにかく70代半ばぐらいのヨレヨレのバアさんでさ。でも、息子の須崎はチンピラだから、大して親孝行もされてないみたいだし大変だなぁ~と思ってたんスよ。で、ある日、バイトの帰り道にウチのお婆ちゃんに「須崎って自分の母親に少しはお金を渡してんのかね? お婆ちゃんの店のバイト代だけじゃ、家帰って飯を作ったらお酒を買う金も残ってないんじゃない?」って言ったら、次のような答えが返ってきたんスよ。
「あの2人は親子なんかじゃないよ」
「ええっ……。じゃ、じゃあ何よ、あの2人って!?」
「猛身の話じゃ恋人同志だってよ」
「いや……だ、だって、あのバアさんは70代の半ばなのに、すっ……須崎は40代の半ばぐらいでしょ!? さ、30歳も年が違うんだよっ!!」
「ま、世の中、色々な人間がいるからね」
「にしたって……………………」
 つーことで、10代の頃から身近で色々な人間関係を見てきたオレは正直、自分はこういうことがあってうつ病になってるって聞いても、そりゃ確かに辛いかもしれないけど、大きな目で見りゃあ大したことないっスよ、って感じるんだよね。いや、守りたいものを1つだけ作っておけば、後は大抵のことが起こっても大丈夫っス。


 最後に昔、猛身じゃないもう1人のヤクザの満叔父さん、その兄弟分に言われたことを書いときます。
「てか、この世の中で自分に邪魔が入ったり、裏切りを受けたりするのは、言ってみれば当たり前のことでよ。世の中っつーのは、ソレの連続だ。だから、ソレにいつまでも悩むなんてことはバカらしいことで、逆にソレを楽しむぐらいじゃないと、男としてのブッ太い充実感はいつまで経ってもやってこないんじゃねえの。……ええ?」
 ………凄い言葉だよなぁ。

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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