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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

修学旅行の思い出

 先日、スポーツ雑誌を詰めこんだ書棚を片付けていたら、その書棚の下に古いディスコの入場券が落ちていた。
 それを拾って改めて見てみると、その券が発行されたのはナント1981年で、しかも、右端には『KUMAMOTO』という文字が印刷されていた。今から40年も前の熊本市にあるディスコ!? 2~3分後、ようやくその券の正体がわかった。
 その券は、オレが高校2年の秋に修学旅行で訪れた九州、その何日目かに態本市で入ったディスコの入場券だったのだ。そして、それがわかった途端、すっかり忘れていた記憶の一部が蘇ってきたのである。

 オレが通っていたのは私立の附属高校で、場所は東京都下の三多摩地区にあったのだが、割と金持ちの家のガキが通っていた。そして、その修学旅行だが、ま、海外ではなかったが、計5泊7日の旅行先は九州の鹿児島、熊本、福岡だという割と豪華なコースだった。で、その鹿児島の指宿には豪華フェリー船で行くことになり、クラスでもド不良だったオレは当時5~6人はいたクラスの子分どもに、やれジュースを買ってこい、やれカップヌードルをお湯入りで持って来いといった命令を出して、正に王様気分でいたのである。
 と、1人の子分がオレのところにやって来て「板谷さん、カップヌードルに注ぐお湯のところをTって奴が占拠していて、カップヌードルが作れません」と言ってきたので、ソイツにお湯が入ったポットが並んでいる場所に案内させた。すると、そのキッチンの横にあるスペースには同じクラスのTという生徒がデカい顔をして居座っていたので、オレはソイツに向かって吠えた。
「ぐぅらっ、くぅのがキ!! テメーがポットを占拠してるから、オレの友達がカップラーメンを作れなくて困ってんだろうがあああああっ!! 殺すぞっ、ワリャア~!!」
 すると、そのTという奴は、真っ青な顔になり、何度も謝ってきたので、子分の1人に大きなビニール袋を持って来させ、そんなに悪いと思ってるなら、このビニール袋一杯のお菓子を1時間以内に集めてこいという命令を出した。で、1時間後。ホントにTは他の生徒たちから持ってきたオヤツを貰いまくり、その45ミリリットル近くある大きなビニール袋がパンパンになるほどのお菓子を持ってきたのである。って、マジメっ子が殆どの男子校で何をやってたんだか、オレは……。

 で、それからその旅行の記憶は九州の各地を移動するバスの最後尾の席で、窓を開けながらとにかくタバコををパカパカ吸いまくったということしか残っておらず、あとかろうじて残っているのが、確か4泊日の晩を過ごした能本の街内のことだけだった(なんせ40年も前のことだからさ)。
 その晩、熊本の大きな商店街の近くにあるホテル、そこに泊まることになったオレたちは、ホテルの部屋に自分の荷物を降ろすと早速街中を闊歩し始めた。メンバーは確か、同じクラスのオレの子分だった奴2人が加わった計3人。そして、ひとしきりその商店街を歩き終えた後、今回の原稿の冒頭でも書いた、熊本のディスコに入ったのである。そのディスコはそんなに大きい店ではなかったが、多分その日は、週末だったため割と多くの客で販わっていた。で、早速踊ろうとフロアに出ようとした時だった。 
「ブッチャー! ブッチャー! 驚きました、我らがブッチャーが緊急来日!!」 
 突然DJがそんな言葉を叫び出し(コイツ、何を言ってやがんだよ!?)と思いながらも、ふとディスコの出入り口の方に視線を移してみるとナント、そこには大デブが1人立ちはだかっており、改めて目を凝らして見てみると、それは正真正銘の極悪プロレスラー、アブドーラ・ザ・ブッチャーだったのである……。 
 で、とにかく興奮したオレは、子分の人にテーブルの上にあった曲のリクエストカードとペンを渡し、「とにかくソレにサインをもらってこい!」と命令。が、最初ソイツは「無理だよっ、無理ですよ!!」と言って行こうとしなかったが、オレの「テメー、ここでサインをもらいに行かなかったら、東京帰ったらヤクザの事務所に連れてって、歯を10本ぐらい抜いてもらうからなっ、おおっ!?」という脅しに負けて、ブッチャーの元に接近。そして、何度も話掛けていたが、ことごとく無視され、それでも話し掛けていたら、
   ブゥワッチィーーーーンンンンン!! 
 いきなりそんな音が30メートル近く離れたオレにまで聞こえ、改めてブッチャーとオレの友達の方を見ると、どうやらあんまりしつこくされたブッチャーが遂にキレて、オレの友達に猛ビンタを入れたのである。で、オレの友達はマジで3メートルぐらいフッ飛んで、地元の客が座っていたテーブル席に突っ込んでいたのだ。
「ぶぅわははははははははははははっ!! な、何やってんだ、アイツ。ぶぅわはははははははははははははっ!!」
 そんな事態を招いたのは自分だというのに、いきなり笑い始めるオレ。 

 で、その後、ディスコから出て、自分たちのホテルの方に向かって歩いていると、途中で隣のクラスの半グレの友達に会って、ソイツが笑いながら次のような話をしてきたのである。 「いや、俺たちはこの商店街の裏にあるストリップ劇場に行ってきたんだけどさ。ソコで本番 ショーっていうのがあって、要は立候補者の中からストリッパーに選ばれた奴が本番が出来るみたいなんだけどよ。んで、俺らはイワオの奴を無理矢理立候補させて、舞台に上がらせたんだけどさ、ガハハハハハハハッ!! ガハハハハハハハハハハッ!!」 
 ちなみに、イワオというのは、隣のクラスの不良友達で、見た目は顔も体もゴッツいのだが、実際には根性があるわけでもケンカが強いわけでもなかった。よって、全身が岩石でできている怪獣だが、その割には戦闘能力が笑っちゃうほど低い、キン肉マンの舎弟怪獣イワオそのものだということで、ソイツにもそのまま“イワオ”というアダ名が付いたのである。
「ところが、舞台に上がってもイワオの奴、ビビっちゃって全然勃たなくてさ。んで、俺たちがやいのやいの言ってたら、遂にイワオの奴が泣き始めちゃってね。そしたら、一緒に、ストリップ劇場にいた別の奴が『これがホントの“岩の目にも涙”だなぁ~』なんて言ってさ」 「ぶぅわはははははははははははっ!! い、岩の目にも涙って、ぶぅわはははははははははははっ!!」
「ガハハハハハハハハハハッ!! な、傑作だろ。ガハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

 ま、そんなこんながオレの高校時代の修学旅行の思い出なのだが、この話には1つ続きがあって、実はオレは今までに1回だけクラス会というものに出席したことがあって、それが高校を卒業した4年後に六本木のディスコを借り切って開催された高校の時の学年全体のクラス会だった。で、そこでオレは当時の子分だった奴らにも会ったのだが、その中の1人がまだ酒もロクに飲んでないのに、顔の半分ぐらいが赤くなっているのである。で、オレが「お前、まだ全然飲んでないの何だよ、その顔は?」と尋ねたら、次のような答えが返ってきたのである。 「酒に酔ったから、赤くなってるんじゃなくて、これは、ほら、高二の修学旅行の時に熊本のディスコでブッチャーに猛ビンタされた時の痣だよ。まいったよ、アレから全然消えなくてさ……」 

 ってことで、遅すぎるけど高校時代の一連のことを一応謝っとくね。ごめんなさい(笑)

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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