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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

外人パーティ国交断絶記(前編)

 30代の半ばぐらいに、学生時代からの友達だった高橋(仮名)という奴に合コンに誘われた。
 ちなみに、この高橋は割と遊び人で、合コンといってもタダの合コンではなく、横浜のクラブで参加者の8割ぐらいは外国人のダンパ(ダンスパーティーね)
があるらしく、それに女連れで参加しようということだった。しかも、その女たちのリーダーが都内のクラブで知り合ったイギリス人だというのである。
 で、向こうは4人で来るということで、コッチもあと2人はキャーム、そして、オレの後輩のハックという奴を誘って強引に人数を合わせた。

「フランス人の女がリーダーということは、残りの3人も外人なんスかね?」
「知らねえよっ、そんなことは。しかも、何回も言うけど、フランス人じゃなくてイギリス人だからっ」
 待ち合わせ場所に向かう車の中で、早くもオレをイラつかせるハック。
「で、その外人たちとは、ねっ……寝れるんですか?」
「知らねえよっ! つーか、オレは別に売春付きのツアーガイドをやってるわけじゃねえんだから、そういうことは自己責任でやってくれや! ……つーか、テメーは今日、一体いくら持ってきてるんだよ?」
「いくらって金っスか……。え~とぉ……2500円ぐらいです」
「てか、仮に女がヤらせてくれるとしても、それでどうやってホテル代とかを払うんだよ?」
「いや、そっ……そんなもん、相手に出してもらえばいいじゃないですか」
「お前は、反町(当時の人気俳優ね)かっ!? テメーみてえな冴えない予備校生のような外観の男に、なんで女がわざわざ金を払うんだよ!?」
「コーちゃん、こんなのび太みたいな男にそんなにムキになるなよ。ま、ホントにハックが女とホテルにシケ込むことになったら、その時はオレがホテル代ぐら
い出してやるよ」
 突然口を挟んできたかと思うと、後部席にいるハックの方を見て笑う、助手席にドップリと腰を沈めているキャーム。つーか、こういう時にオレが1番用心し
てんのはキャーム、おメーだよっ。おメーは、こういう合コンの時に自分がイイ想いが出来ないと悟った次の瞬間には、もうバックレる準備を始めやがるだろっ! てか、今回はオレの友達の高橋が、ちゃんと段取ってくれたんだから、最低限でも一次会の最後までいなきゃ許さんからなっ、オレは!

「おお、板谷」
 夕方の5時過ぎ。吉祥寺の駅から少しだけ離れた路上に車を停めると、スグに近くに止まっていた車から高橋が出てきた。
「で、イギリス女は?」
「うん……。5時にココに来いって言っといたから、もうすぐ現れると思うんだけどさ」
「あ、そうだ、高橋。最初に聞いとくけど、そのリーダーのイギリス女はお前とデキてんだろ? つまり、オレらはその女だけは手を出さない方がいいんだべ?」
「いやいやいや。俺は何もしてないから、そういうチャンスがあったら勝手にどうぞ」
「無理すんなよぉ~。こういうことは最初に決めといた方がいいんだよ」
「いや、ホントに………あ、来た、来た!」
 そう言って、十数メートル先の歩道に目をやる高橋。そして、オレもソッチの方に視線を向けたところ、

(うわっ……す、凄いじゃん、アレ!!)
 向こうから小走りで近づいてくる、その人影。季節は11月になっていたので、辺りはすっかり夕闇に包まれていたが、背後から走ってくる車のヘッドライトに
よって、そのシルエットがハッキリ浮かび上がっているのだが、それがホントにもう、外国のファッションモデルのような、日常生活をしている上では決して目
にすることが無いようなアウトラインだったのである……。
「キャー、寒い。ワタシ、もう11月も半ばなのに、こんなタイトスカート穿いてきちゃった~~~!!」
 そんな言葉を出しながら更に近づいてくる人影。オレの心臓は更に高鳴り、何でオレはスーツを着てこなかったんだよっ!?と早くも後悔を始めていた。
「ごめぇ~~ん、遅くなっちゃって~~」
 ようやく数メートルまで来た、その人影がようやく中身まで見えるようになった瞬間、オレの心臓は別の意味で止まりそうになった。そのスタイル抜群の外国人女の顔、それが鶏ガラというか、昔いた音真似をするケント・フリックというガリガリの外タレにソックリだったのである………。
(おい、オレたちは朽ちる寸前のキリストを助けに来たレスキュー隊かっ!?)

 そして、それから3分もしないうちに、そのイギリス女の友達が1人現れたのだが、その女はオレと同じ歳ぐらいのポッチャリとした日本人で、顔も特にパッとはしてなかったが、それでもリーダーのイギリス女を28点ぐらいとするならば、まぁ、48点ぐらいは付けてやってもいいような気がした。
「あれっ、あと2人は?」
 そのポッチャリ女にそんなことを聞く高橋。
「ああ、あと2人は横浜のクラブに直接行くってさぁ~」

 つーことで高橋の車にはイギリス女が乗り、オレの車にはキャームとハックに加えてポッチャリ女が乗ることになって、ようやく横浜のクラブに向かって出発することになった。ところが、いきなり参ったのが、このポッチャリ女というのがどうやら風邪を引いているらしいのだが、とにかくよくクッ喋るのである。で、喋りながらも自分の隣の後部席でゲホッゲホッと咳をしている彼女に「く、薬を飲めばいいじゃないですか」とハックが声を掛けると、「薬は体を温めて、ゴ
ホッゴホッ……風邪菌を弱らす効果はあるけど、結局はソレで完治しないから、ゴホッガホッ……アタシは飲まない!」とのこと。っていうか、その風邪をオレたちにうつしちゃマズいっていう考えはないのかいっ、貴様には!?

 午後8時40分。オレたちは近くの有料パーキングに車を止め、ようやくそのダンパが開催されるというクラブの前に到着した。と、その入口前でイギリス女が変な中国人みたいな女と英語で喋り始め、おい、その中国系の女がココで待ち合わせた友達の1人かい?と思っていたらそうではなく、その女がクラブの中に消えたのと入れ替わるようにして現れる、顔はまぁまぁだが、何かこう、精神病院の中から抜け出してきたような危うさを感じさせる女。
「あっ、マミちゃん。メグメグもいるの?」
 その女に声を掛けるイギリス女。
「ああ、あの娘は多分、今日は来ないねぇ……。昼に電話したら、今日の夜中までに600羽の鳥の腹の中にヨーグルトを詰めなきゃ、磯野さんに怒られるって言ってたから」
(つーか、鳥の腹にヨーグルトを詰めるって、そのメグメグって女は何者なんだよ!?)

 結局オレたちは、計7名でそのクラブに入ることになったのだが、男の中だけでも同伴した3人の女のことを話すのにアダ名を付けといた方がいいということで、クラブに入る前にイギリス女→ケント、ポッチャリ女→ドラミ、危うさを感じさせる女→脱獄、というニックネームを付け、オレたちの中では彼女たちのこ
とをそう呼ぶことにした。


 そして、そのクラブに入った途端から案の定、オレたちはとんでもない土石流に呑みこまれていくのであった。以下、次号で。

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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