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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

お見合い乱れからくり(前編)

 オレは、物書きだというのに書きたくても書けないことが沢山ある。
 今までもコレはエッセイに……と綴ろうとしたが、やっぱしこりゃ書けねえよなぁ~と思ってボツにした話が何十個とある。でも、もうこの話についてはそろそろ書いてもいい頃だと思うので、今回から前・後編に分けて書いていこうと思う。

 今から4年ぐらい前の話である。
 オレの旧友であるキャームは、もうかれこれ10年近く彼女がいない。そう、まだ奴は未婚で、しかも、付き合ってる女もいないので、暇が出来ると元々はオレの友達だった奴のところに電話をかけまくり、おまけになかなか切らないらしいのだ。ところが、その時にはどうやらツイッターで親しく話してる女がいるらしく、たまたまその女は、まずオレにフォローの申請をしてきたらしく、オレは一応、商売用も兼ねてツイッターを使っているため、スグに相互フォローをしていたらしいのだ。つーことで、キャームとのツイッター上でのやり取りを見てみたら、長年イタリアものを扱うブティックをやっていたキャームの洋服に関する哲学を、そのモモコ(仮名)が真剣に聞いてる感じなのである。

 1週間後、再びキャームのツイッターのページを見てみると、やはり割と親密な感じでモモコとのツイートのやり取りがあって、あからさまにモモコからの“キャームさん大好き感”が溢れ出てた。さらに5~6日後。その女がとうとうツイッター上で使用していたアイコンをイラストから自分の顔写真に変えた。驚いたことに、割と美人だった。
 で、オレはキャームに「あのモモコって女は性格も良さそうだし、顔も悪くないじゃん」と捲し立てたが、肝心のキャームは「自分はそんなにムキになってるわけじゃない」なんてことを言うのである。が、オレが家に帰ってきてツイートをしてる途中、キャームのツイッターに飛ぶと、またキャームが「洋服とは布を着るのではなく、自分のセンスを身に纏うことなんだ」といったことをモモコにツイートしているのだ。
 数日後。オレは遂にモモコにDMを入れた。「君がマジで本気ならキャームに会わせてもいいよ」。そう打つとモモコは大喜びした。が、オレとキャームが行って、相手はモモコだけというのも萎縮してしまうと思ったので、「誰か一緒に来てくれる友達はいないの?」と聞くと、今、現実の世界で付き合ってる友達は殆どいないと言う。
 仕方がないので、オレは賭けに出た。その頃、オレのツイッターのページに毎日のようにDMを入れてくるタマヨ(仮名)という女がいて、まぁ、内容は下らないことばかし書いているのだが、とにかくオレは彼女に“実は友達のキャームにツイッターで相互フォローしている女のコを会わせたいのだが、その娘は特に友達もいないらしので、良かったらこれから名前を教えるから彼女にフォローの申請をして友達になり、そして、当日は一緒に来て欲しいんだけど、どうかな?”とDMを返した。すると、スグにタマヨから「はい、喜んで!」という答えが返ってきたが、くれぐれもオレとキミは刺身のつまのようなもんで、とにかくキャームとモモコをくっつくようにするのが目的だからね、と追加でDMしたのである。

 で、10月中旬のある晩、オレたちは杉並区南阿佐ヶ谷にある鉄鍋餃子屋で会うことになった。ちなみに、キャームには紹介と言うと変に用心深くなるので、たまにはその餃子屋で男同士でバカ話でもしようぜ、と言っておいた。そして、その日キャームは午後3時頃には仕事を上がれそうだというので、じゃあ午後5時に南阿佐ヶ谷駅前で待ち合わせということになったのである。
 当日、南阿佐ヶ谷の駅前に行くと、すぐに1人の女が「こんばんわ~」と声を掛けてきた。が、全く知らない女だった。「えっ……だ、誰だっけ?」と言うと、キャームのことが好きなモモコだった。つーか、あのツイッターのアイコンの女を10キロぐらい太らせて、年も5~6歳進ませると、確かにこういう見てくれにならないでもないな、と思った。すると、間髪を入れず今度は背後から「ゲッツさん、初めまして……」という声。振り向いてみると、確かに俺が誘ったタマヨらしい女だったが、ツイッター上ではポワ~ンとした写真の顔が実際は少しだけ凶暴そうに見え、しかも、痩せているのにハンパないガニ股だった。
 まいった……。オレは“ツイッター”というものをまったく分かっちゃいなかった。

 その後、午後5時を15分過ぎてもキャームが現れなかったので、奴のケータイに電話を入れてみると、まだ仕事をしていて、とても5時台には南阿佐ヶ谷には行けないと言う。
(なら、事前にそういう連絡を入れてこいよっ!!)
 そう思ったが、それをグッと飲み込み「じゃあ、オレらは餃子屋で先に食べてるから、とにかく仕事が終わったら直で店に来てくれ」と言ったところ、『おい、オレらって、コーちゃん以外に誰がいるんだよっ?』という返答が。
 ここでオレは初めて奴に本当のことを白状した。キャームは少し驚いていたが、とにかく仕事が終わったら直ちに来い、と強く言っておいた。そう、なんたってオレは、キャームのために久々にこういう会を企画したのだ。今までの経験上、ツイッターでのキャームとモモコのやり取りを放っておいたら、結局はモモコがキャームのモノ凄いツイートペースに遂には疲れてしまい、また、そうと気づくとキャームは極度のプライドの高さから、今度は完全にモモコを無視してしまうに違いなかった。そう、そんな無駄なやり取りより、とにかくお互い、ある程度相手が気に入ったのなら会って話すのが1番なのである。
 その後、オレたちはとりあえず3人で餃子屋に入ったのだが、タマヨが餃子には殆ど手はつけずに、モノ凄い勢いでビールを飲み始めた。
 ここでも(しまった……)と思った。実は、このタマヨのツイートを見てると、自分はまるで森で迷ったお姫様のような感じで文章を綴っていることが多々あり、つまり、それはどういうことかと言うと、コイツはそんな時は必ず大酒を飲みながらツイッターをやっており、要はアル中女だったのだ。
 改めて自分の前に座ってる2人を眺めるオレ。結局お前も何をやってるんだよ……。

 オレはシンヤくんをヘルパーとして呼ぶことにした。シンヤくんとは、つい数年前から付き合うようになった、オレの地元の立川の隣町、八王子に住む元ヤンの10コ下の男で、とにかくこういう複雑な環境下では必ず力になってくれそうなキャラだった。幸い奴は港区で仕事をしていて、いま、帰るところだったらしく、じゃあ直でこの店に来ます、ということだった。
「おい、お前は5杯以上は飲んじゃダメだからな!!」
大ジョッキのビールの4杯目を飲んでいる途中のタマヨに、そう厳しく注意するオレ。が、既にタマヨの両眼には霞がかかっていた。
 で、そうこうしてるうちにシンヤくんが現れたのだが、オレとその2人の女を見て暫く唖然。が、そこは流石にシンヤくん。モモコと適当に話をして場をつないでくれていた。
 その後、再びキャームのケータイに電話を入れるオレ。

「えっ、家に帰っちゃった!? 何やってんだよっ、今から出て来いよ!」
『嫌だよ、こんな時間にそんな遠くになんか行かねえよ!』
「お前、ざけんなよっ!! ちゃんと約束しただろっ!?」
『約束なんてしてねえし!』
「ぐっ……と、とにかく、みんなお前を待ってんだから、理屈はいいから早く来いや!」
『嫌だよ』
(まいった……。こうなると奴は梃でも動かねえぞ。なにか別の方法を考えなきゃ………)
「わかったっ。じゃあ、今からキャームの家の近くのファミレスまで皆を連れて行くから、そしたらソコまで出てこいよ!! いいなっ!!」

 オレが電話を切った後、少ししょげてるモモコ。無理もない。キャームとモモコを会わせようという会なのに、その肝心のキャームが凄いゴネ方をしているということが、オレの電話のやり取りで明らかになっているのである。
「いや、アイツ、実はハンパない照れ屋でさぁ……アハハハ」
 オレはモモコにフォローを入れた後、シンヤくんを含めた3人を駐車場に止めておいた自分の車に乗せ、中央道を使って国立・府中インターへ。そして、午後10時45分。ようやくキャームの家の近くのファミレスに入り、奴のケータイに電話。そして10分後、ようやくオレたちの前に現れるキャーム。



 そして、ここからがとんでもなくクレイジーな展開になっていくのであった。以後、次回。呆気に取られるよ(笑)。

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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