MENU

ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

最終戦争VSケイコ!!(前編)

 先々週の水曜の昼過ぎ、部屋で仕事をしているとオレのケータイに突然キャームから電話が掛かってきた。
『で、俺んちの真ん前の駐車場、そこに止めてあった俺の車のフロントガラスに大きなヒビが入っててよぉ。おまけに助手席のドアも石か何かで叩かれたみてえで、3~4箇所が思いっきり凹んでるしなっ』
「け、警察には行ったのかよっ?」
『いや、まだ行ってねえよ……。しかも、被害はそれだけじゃなくてよっ』
「え、まだ何かやられたのかっ?」
『うん。実家のドアにも、外からハンパじゃなく臭い何かの液みたいなものがかけられててよぉ~。今朝、掃除してて2回くらい本気で吐きそうになったわ!』
「うわっ……つーか、一体誰がそんな悪戯をするんだよっ? 誰か心当たりがないの………あっ!」
 不意に止まるオレの言葉。そして次の瞬間、その俺の頭にうかんだ人物のことを喋り始めるキャーム。

『そうなんだよ、俺はコーちゃんの遠縁に当たる、例のケイコってババアの仕業だと思ってるんだけどなっ』
「ま、まさか……。だって、キャームの家だってドコにあるか知らねえだろうよっ?」
 そう言ってはみたものの、完全に自分の言葉が浮いてるのがわかった。
『いや、あのババアは俺の家ぐらい簡単に調べてくるさっ。つーかっ、ホントにあのクソ女だったら、俺は絶対に許せねえからなっ!!』
 で、その後もキャームはケイコの悪口を15分ぐらい喋り続けて、ようやく電話を切った。
(あの女が……でも、彼女なら………いや、考え過ぎだろ)

「コーちゃん!」
「うごわっ!!」
 背後から突然声を掛けられて、思わず短い叫び声を上げるオレ。そして、振り向いてみると、そこには冗談みたいな話だが、あのケイコがホントに立っていたのである。つーか、前回もケイコがオレんちに来た時、キャームも何分か遅れて顔を出したし、この2人って悪魔同士のような不思議な縁で結ばれてるんじゃねえのかっ!?

「つーかっ、前にも言ったけど、チャイムも押さずに勝手に人の家に上がり込んでくるなっつーーの!!」
「あ~ら、いいじゃない。アタシたち親戚同士なんだし」
 そう言いながらも先日、新たに買った2人掛けソファーにドスン!と腰掛けてくるケイコ。
「てか、いきなり訊くけどよっ。お、おメーって、オレの友達のキャームの車に悪戯とかしてねえよなぁ?」
「悪戯? ……ああ、したした」
「おい、やっぱりお前が犯人かいっ!!」

 興奮して、思わずイスから立ち上がるオレ。
「だって、この間、アイツに好きなことを言われたい放題言われて、悔しくてガマンできなかったんだもん!!」
「つーか、どうしてキャームんちの住所がわかったんだよ?」
「ああ、この前、ココに来た時に1階にあった電話帳にアイツの住所が書いてあったから、ソレを書き写しておいたのよっ」
「お前っ……。じゃあ、キャームんちのドアに臭い液をかけたのもお前かいっ!?」
「アイツがそう言ってたの? アハハハ、アレはアタシが住んでるマンションの真ん前で、この間、犬が車に轢かれて死んでてさ。で、管理人の頭のオカしいババアが、その犬をビニール袋に入れてガレージの奥に置いといて2日もしたら、ハンパないニオイが漂っててね。そのビニール袋の中を見たら犬が完全に腐ってて、その下に変な茶色い液が溜まってたから、その液だけを別のビニールに移し取ってさ。それをアイツんちのドアに」
「おぅえええええ~~~~~っ!!」
ケイコの話に、思わずえづいてしまうオレ。

「ダ、ダメだ……。もうオレの手には負えんっ。ケーサツ行こう!」
「はぁ!? ケーサツ? だって、アタシたちは親戚でしょ!? 親戚っていうのは普通は
助け合うものでしょ!? だから、アタシだってコーちゃんに全部ホントのことを言ったんでしょ!!」
「でも、おメーはオレの友達に明らかな嫌がらせをしたんだよ! で、それはもう笑って済まされることじゃないからっ………よしっ、今から一緒にキャームんところに謝りに行こうぜっ、な!」
「オマエ、何を言ってんだああああああああ~~~~~~~~~~っ!!」

 突然、目の瞳孔が開ききった顔でそう叫ぶと、あろうことか、ズボンのポケットから百円ライターを取り出し、それでオレの仕事机の近くの壁に貼ってある紙に火をつけるケイコ。
「うおいいいっ!! テメー、何やってんだよおおおおお~~~~~っ!!」
急に燃え広がる、その紙に目をやりながらオレは無我夢中で叫ぶしかなかった。

 

(つづく)

 

バックナンバー

著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

閉じる