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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

ポンコツとしての自覚

 先日、後輩が経営してる串カツ屋に行ったら、ソコにウチの親父の弟にウリ2つの人相を持った客がいて心からビックリした。
 オレは、こっそりケータイでその客の写真を撮った。そして、家に帰って改めてその写真を見たが、ウチの親父の弟は現在70代後半なのに対して、その写真に写っている男は40代の半ばぐらいなのだが、やっぱりソックリなのである。
 で、あまりにも似ていたので、オレは名古屋にいる弟のセージにもその写真を見せようと思って、奴の嫁のミカに電話したのだ、そう、セージは朝から晩までハードに働いているので、奴と連絡を取るには現在セージの会社でパートとして働いているミカに連絡するのが1番なのである。
 案の定、ケータイに出たミカは「セーちゃんは今、仮眠中だよ」と言ってきたので、オレは後でオレのツイッターページに親父の弟とソックリの男の写真をアップするので、セージにそれを見せて、後で感想をツイートしてくれと伝えた。それから3時間後、セージからの伝言を聞いたミカからのツイートがオレのツイッターに流れたのだが、次のような内容だった。
『セージ君が本人同士対面させて、どっちが本物かタイマン張らせよーってさっ(^o^)/』
 (はぁ~?)である。てか、オレは「ホントにメチャメチャ似てるね! 世の中にはソックリな人間が3人いるっていうけど、それって本当かもね」といった答えが欲しかったのだ。ところが、セージは本人同士を対面させて、しかもどっちが本物かを本人同士のタイマンで決めようと言うのだ。いや、本物はウチの親父の弟の方なのだ。なのにその叔父さんが自分とソックリの顔をした、自分より30歳も若い男となんでケンカをしなきゃならねえのっ? てか、ケンカなら多分その若い男の方が勝つから、じゃあ本物はその男ってことになるわけでさ。

 そう、今年で48になるセージのコメントには、相変わらず意味もオチもないのである。オレは改めて(バカな奴だなぁ……)と思った。と同時に、このバカの根深さには、やはり血が関係してるとも思ったら、今から15年前のことを思い出したのである。
 その時は、オレは映画の撮影現場にいた。中野裕之さん監修、ピエール瀧監督の『県道スター』という15分もののショートムービーで、オレは主役に抜擢されていたのだ。で、それを撮っている時、監督のピエールに「ゲッツさんって意外とポンコツですね(笑)」と言われたのである。
 その時は、寝不足でセリフとかを殆ど覚えられなかったから、そう言われたと思っていた。そう、オレは自分のことは、もちろん頭はイイとは思ってなかったが、板谷家には親父のケンちゃん、弟のセージという明らかなポンコツ星人がいて、そういう奴らのことを割と冷静に文章にしている自分は、少なくともポンコツではないと心の中では思っていたのだ、が、今になって考えてみると、そのピエールの言葉が甦ってくる場面が多々あるのだ。

 いや、今から11年前にオレは脳出血という病気で2ヶ月間も病院で意識を失ったままだったので、その時の障害のようなものが今も多少は残っている。用があって、仕事部屋から出た途端、その用を忘れることが週に1~2度はある。また、人と会話をしていて、その途中でクシャミをしたり、ちょっとソコのリモコンを取ってくれと言われて取ってやったりした後、自分がそれまで何を話していたかを完全に忘れてしまうことも結構ある。が、仲間にそんな話をすると「それは年齢のせいだよ。人間50を過ぎればそういうことも多々あるって」と言われることが多いのだ。で、オレはその度に(何だ、年のせいなのかぁ~)と安心していたのだが、数年前から、いや、オレが時々ボケたことをするのは障害や年齢のせいだけじゃないと思えてきたのだ。

・モノを食いに行く時に、その店が臨時休業というケースがやたらと多いのだが、未だにあらかじめ電話で確認をするってことが全く出来ない。
・息子の学校面談に行っても、1人だけ上履きやスリッパを持っていかず、靴下のまま講堂に並ぶハメになるケースが多々ある。
・人と話していて、言われた時はボ--っとしてしまって気がつかないのだが、家に帰ってその意味を考えると段々相手のことが許せなくなってくることが多い。
・電話をしてても相手の話が段々わからなくなってきて、わかってもないのにただ笑って誤魔化していることが多い。
・未だにパソコンで文字を打ってデータとして出版社に送ることも出来ない。
・ケータイも普通の操作は何とかわかるが、ちょっと難しくなってくると途端に何も出来なくなる。
・飛行機のチケットの取り方が未だにわからない。
・先日、ようやく切符の替わりになるSuicaというものを知った。
・TVも少し前までは録画とか出来たのだが、新しいのを買ってから途端にそういうことが全く出来なくなった。
・オフクロが死んでからというもの、それまで当たり前のようにやってもらっていたことをすべて自分でやらなくてはならなくなり、未だに青色吐息でコナしている始末。

 ……とまぁ、これ以外にも色々あるが、つまり、こういうことが出来ない奴のことを世間では何と言うのかというと、ポンコツと表現するのである。


 これからは同類項として、セージにもっと優しくしようと思う……。

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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