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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

吠えるケイコ(前編)

「コーちゃん、久しぶりぃ~(笑)」
 先日、部屋で原稿を書いていたら、いきなり背後からそんな声を掛けられた。で、ビックリして振り向いてみると、そこには満面の笑みで直舌のケイコが立っていたのである。
 ちなみに、オレとは遠縁に当たるこのオバちゃんは、とにかく思ったことすべてをストレートに口に出してしまうのだ。
 よって、「毒舌」を通り越して「直舌」と呼ばれているのだが、彼女は実年齢よりも10歳以上若く見え、その上、昔の夏木マリのような美人なのだ。

 で、血がつながってないのをいいことにして、毎回このオバちゃんは、オレのことを誘惑してきて、熟女好きなオレはその度に誘いに乗りそうになるのだが、結局は彼女の直舌にいつも恥をかかされて、最終的にはケンカ別れで終わってしまうのである。しかも、確か4年前にウチに来たケイコは既に50代の後半になっていて、急にフケたというか、とにかく以前のような熟女としての魅力もあまりなくなっていた。

 ところが、である……。その時、オレの背後で笑っていたケイコは、もう60代になったというのに大分若返ったというか、以前のような妖しい色気を濃厚に発散していたのである。
「あっ……そう言えば前にココに来た時、アンタは高倉健さんと結婚するって言ってたけど、あっ……アレはどうしたんだよっ?」
 そう、前回来た時にケイコは「北海道で知り合った高倉健に結婚を申し込まれてるのよ」と言ってきて、また、その際にオレに頼みたいことがあると言い寄ってきたのだ。が、その最中にオレとケイコがいたファミレスに偶然にもオレの友だちのキャームが現れ、いきなりケイコとキャームの超強烈な口ゲンカが始まってしまい、オレはソレを必死で止めていた際にケイコに向かって「もうお前は色気も何もない、ただの小汚いババアなんだよ!」という本音を吐いてしまったのだ。そして、その数日後、ケイコから届いた手紙には次のような一言が書いてあった。

『いつかアンタを潰す!!』

 で、その直舌のケイコが、いつの間にか色っぽさを充電してオレの背後に立っていたのである……。
「ああ、健ちゃんとは、とっくに別れちゃったわよぉ~」
「えっ、わ、別れたって……」
「だって、もう流木以下でしょ、あの人は。アハッハッハッ!!」
「おいっ……(つーか、健さんのファンに殺されるぞっ、お前)」

「ところで、コーちゃん。どう、アタシって若くなったでしょ?」
 そう言って、まるで明らかに自信に満ちた表情を見せるケイコ。
「あっ……ああ。ビ、ビックリしたよ……。てか、化粧でも変えたのっ?」
「整形したのよ」
 そう言って、まるで勝ち誇ったような笑みを浮かべるケイコ。

「せ、整形っ?」
「そう、口元とか目元の細かい皺なんかを全部取っちゃって、あとオデコの皮膚もぐっと上にあげて顔全体に張りを与えてもらったのよ、……どぉ、30代くらいに見えるでしょ?」
 そう言って顔全体をキリッとさせると、ようやくケイコはオレの隣のイスに腰を下ろした。

「つーか、それだけ自分の顔を弄って、一体いくらかかったんだよっ?」
「う~ん………あと、背中の脂肪も取ってもらったから、全部で……300万ぐらいかなぁ~」
「おいっ、よくそんな金があったなぁ!」
 気がつくと、そんなツッコミをケイコに入れていた。すると……、

「コーちゃんて、熟女パブって行ったことあるぅ?」
「えっ……熟女パブ!? そ、そんなとこには行ったことねえよ」
「実はアタシ、1年前から都内のそういうところで働いてて、今は月に100万以上稼ぐようになったんだぁ~」
「つ、月に100万以上!?……そ、そりゃ凄いじゃん」
「ていうか、今の熟女パブって大体がバツ1、バツ2の子持ち女が働いててね。で、アタシはバツ6じゃない。だから、わざと寂しいふりをして、金持ちそうなオヤジにジャンジャカ金を吐き出させてるのよ。………ところで、コーちゃん♥」

 急に濡れたような眼差しになりながら、オレの左手を握ってくるケイコ。
「なっ……何だよっ?」
「ヨッちゃん(ウチのオフクロ)も死んじゃったし、これからはアタシがコーちゃんのお母さんになってあげるねぇ~♡」
「え、はっ……母親にぃ!?」
「それも時々、SEX付きの♡」

 そう言うと、オレの左手を握っていた右手を股間の方にスライドさせてくるケイコ。
(もういいや。やっちゃおう、この女と!!)
 そう、オレはようやく自分の心に決心をつけていた。オレだって、せいぜい後20年くらいしか生きられないんだから、これからは下らないプライドや我慢は捨てて、自分に正直に生きようと思ったのだ。

「じ、じゃあ、くっ……口でやってくれよ」
「ようやく素直な子になれたわねぇ、うふふふ。………あ、もちろんタップリ舐めてあげるけど、ちょっとその前に1つやってもらいたいことがあるんだけど」
「や、やってもらいたいこと?」
 

 この時点まで、オレは完全にケイコの性格を忘れていた。そして案の定、彼女が今回も猛犬のように吠えてきたのである……。
 とりあえず先に言っとく。死んじゃえっ、オレ!

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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