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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

オレを苦しめる2大疑問

 オレには、未だに解決してない2つの疑問があってね。
 
 まず、その1つ目は『スープや味噌汁を飲む時、全く音を立てちゃいけないの?』って疑問なんだけどさ。いや、オレだって一応常識は持ってますよ。例えば、レストランで大き目な皿に入ったコーンスープやオニオンスープを飲む時は、オレだって極力音を立てないようにしますよ、ね。
 ところが、自宅や旅館なんかで朝食を食べる時は、ケースによっては味噌汁が出てきますよね。で、往々にして、その味噌汁は熱いでしょ? そして、それを飲む時、おメーらはどうする? いくら音を立てちゃいけないって言っても、その味噌汁椀をそのまま口元に持ってって、それを傾けて中の味噌汁を口の中に流し込んだらどうなりますか? 当然、味噌汁が高温の場合「うわっ、アチチチッ!!」ってなって、口の中の味噌汁を吐き出しちゃったり、場合によっては持っていた味噌汁椀を落としちゃって、更に現場をパニックにさせちゃうでしょ。
 だから、オレはそうならない為にも、熱い味噌汁が入った味噌汁椀を口元に付けて、それを飲む際には、“冷まし飲み”って言うんですか? 味噌汁と一緒に大量の空気も吸い込む為に、唇を震わせるんですよ。で、そうするとどうしたって「ズズズッ……ズズズズ」って音が出ちゃいますよね。でも、それは仕方がないことなんですよ。だって、だらしがないことだけど、唇や口の中を火傷するよりは全然いいんですから。だから、オレは味噌汁や熱々の茶碗蒸しなんかを口にする時は、ズズズズッ……って音を立ててたんですね。そしたら、それをあからさまに注意してくる友達がいてさ。だから、オレは言ってやったんですわっ。
「見た目が悪いからって、バッターボックスの中にヘルメットをかぶらないで入るプロ野球 選手がいるかよっ!?」
 そしたら、その友達は「何を言ってるのか全くわからないけど、とにかく音を立てて汁モノをすする奴は人間として失格!」とまで言い切りやがってさ。いや、コッチも負けずに言い返してやりましたよっ。「じゃあ、テメーは熱々の味噌汁を音を立てずに、どうやって飲むんじゃい!? 今、熱々のインスタント味噌汁を作ってやるから、それをオレの目の前で飲んでみろ!!」って。そしたら、ソイツも引っ込みがつかなくなったのか、「よしっ、飲んでやるから作ってくれよ!」なんて凄んできてね。
 で、フリーズドライのインスタントの味噌汁にメチャメチャ熱い湯をかけたモノを差し出してみたら、口をつける前にとにかくと何度も息をフーフー吹きかけて冷ましてさ。それからおっかなびっくりしたような顔で、何とか音を立てずに味噌汁を飲みやがってさ。だかり、イマイチ納得出来なかったんだけどね。
 
 ところがある日、その友達から次のようなことを聞いてさ。 
「ある日、俳優のムロツヨシが同じく俳優仲間の小泉孝太郎の家に遊びに行ったら、その孝太郎のお父さんの元総理大臣小泉純一郎と家の中で飯を食べることになったらしいんだけどさ。ムロツヨシが音を立ててスープだか味噌汁を飲んでたら、小泉純一郎が『君、恥をかくから、そういう飲み方は止めなさい』って言ってきて、以来ムロツヨシは音を立ててスープや味噌汁を飲むことを止めたらしいぞ」 
 その話を聞いたオレは、特に小泉純一郎が好きだとか、尊敬してるってわけでもないのだが、自分もこれからは一切音を立ててスープや味噌汁を飲むのを止めようと思ってね。えっ、 
理由? ……わからない。でも、その話を聞いた時、とにかくごく自然に(ああ、自分も音を立てて飲むのは止めよう)と思いました。

 つーことで、1つ目の疑問は数週間で解決しちゃってさ。残る2つ目の疑問は『ある作家が好きになったら、当然のごとく、その作家の全著作を読まなくてはならないのか?』ってもの なんだけどね。いや、何でこんな疑問が湧き上がったかって言うとさ。今、オレは埼玉県の富士見市ってところに住んでいるんだけどね。マンションの割と近いところに塚ポンっていう、 7年前から串カツ居酒屋を経営してる奴の店があってさ。塚ポンは元はといえばオレの本の読者なんだけど、その熱心さが度を超えててね。もう30年以上前からオレの著作物を隈なく読んでて、しかも、その各場面でオレがどんなギャグを吐いたかまで、一字一句間違えなく全て丸暗記しててさ。で、偶然街中で会って親しくなった塚ポンの店はオレがファンのプロ野球チーム、埼玉西武ライオンズのドーム球場からもそんなに離れてなかったからね。ライオンスを応援しにドームで行った帰りに、串カツを食べに頻繁に塚ポンの店に寄るようになってさ。んで、去年に離婚なんかを機にオレは長年住んでた立川から引っ越そうと思ったんだけど、特に住みたい街もなかったんで、なら頻繁に通ってる塚ポンの店の近くのマンションに引っ越しちゃえってことで、一応埼玉県民になったわけなんスよ。 
 んで、その引っ越しの2~3年前に、オレは塚ポンから彼の店の常連だった竹ちゃんを紹介されてさ。しかも、竹ちゃんも埼玉西武ライオンズの熱烈なファンだったし、オレと同じく離婚経験者ってことで、モノ凄い勢いで仲が良くなっちゃってね。だから サラリーマンの竹ちゃんとは土曜、もしくは日曜日に塚ポンの店や、時には2人で車に乗って各地のB級グルメ店を頻繁に回ったりしてさ。とにかくホモのカップルと間違われるような勢いで遊び始めたんスよ。
 
 で、ある日のことですよ。その晩もオレと竹ちゃんで塚ポンの串カツ居酒屋で酒を飲んでたら、オレたちのテーブルに店主の塚ポンがやってきたと思ったら、急に竹ちゃんに次のようなことを訊いてきたんですわ。
「ちなみに、竹下さん(竹ちゃん)、板谷さんの本は何冊ぐらい読んでるんですか?」
と、竹ちゃんの顔色がサッと変わってね。
「いや、それだけ板谷さんと仲良くなってるわけだから、当然殆どの本は読んでいるんですよねぇ?」 
「いや……じ、実は読んだのは『板谷バカ三代』シリーズの3冊目の『とことん板谷バカ三代』……そ、それだけで」
「えええっ、……!! 竹下さん、それがホントなら近いうち熱烈な板谷ファンに刺されますよっ」
「な、何言ってんだよっ、塚ポン。オレはアイドルでも何でもない、ただのオッサンなんだし、そんなことあるわけ……」
「いや、板谷さんは黙って下さいっ。………竹下さん。アナタは、実は板谷さんにはそんなに興味が無いんですか?」
「いっ……いや、ありますよ。こんなに遊んでて楽しい人は……」
「じゃあ、何で本を読まない!? 読んだら今の板谷さんの魅力が更に何倍にもなるんですよっ。そして、そんな板谷さんをほぼ独占している自分に思わず勲章を捧げたくなりますよ!!」
 って、止めてくれ、塚ポン! てか、もう少しオレのことを遠くから冷静に見ろっつーの!! 確かにオレの文章を気に入ってくれるのは嬉しいけど、かと言って誰もがそれと同じ気持ち 
になるなんて思うなよ。

 てか、よく考えろ、オレも。じゃあ、お前が好きな作家って誰だよっ? え~とぉ………ナンシー関、開高健、東海林さだお、天久聖一。んとぉ、それから………あ、もちろん西原理恵子、吉本ばなな、三浦しをん。で、その人たち全部の本をオレは読んでるのか? いや、全然読んでない。殆ど全作持ってるって言ったら、ナンシー関と東海林さだおぐらいで………。じゃあ、それ以外の人は殆ど興味が無いかと言えば、全然そんなことはない。西原のねーさん、天久さんとはプライベートでも付き合いがあるし、吉本ばななさんにも肝心なところでは色々力を借してもらってる。だから、みんな好きだ。だから今でも付き合ってる。
 そう、だから竹ちゃんがオレの本を1~2冊しか読んでいなくても、それ以外の実際の付き合いで楽しいと思ってくれて、そこで仲良くなっていくというのは決しておかしいことじゃない。それところか、ただでさえ現在のオレの友達の中で、オレが物書きになる前から付き合ってるのは、既に西原のねーさん、キョージュ、ハッチャキの3人ぐらいになってしまっている。で、その中に何年ぶりかでオレの職業は殆ど関係なく、生のオレとの付き合いが楽しいと言って友達としての付き合いが続いてる竹ちゃんは、むしろ貴重な存在なのだ。
 だが、よく考えてみると 塚ボンの気持ちもわかる。自分がある作家のファンになって、その著作の総てを読み漁り、しかも、その中に出てくるギャグも殆ど丸暗記さえしている。しかも、その作家が週に何度も自分の居酒屋に顔を出してくるばかりか、初めての引っ越し先をナント、自分の店の近くのマンションにしたのだ。しかも、自分とグルメ旅行会みたいなイベントを最低でも月1回は実施しているのだ。そう、その作家とそんな鉄壁な関係を築いたというのに、自分がその関係を取り持ってやった常連の1人といつの間にか、その作家がメタメタ仲良くなり、最近では土・日は仕事で休めない自分を差し置いて週末には日帰りのグルメ旅に毎週のように出掛けるようになっている。なのに、なのにだ! その常連はその作家の本を殆ど読んでいないのだ。これはけしからん!! 何なら、その常連を出入り禁止にしても構わないとさえ思ってきた。ああ、あの作家は自分のことが気に入って、この街に引っ越してきたのに、これじゃあモロに泥棒じゃねえかっ。ちくしょう、悔しい!! よしっ、今度あの常連の酒の中にトリカブトを入れてやるっ!!
 

 はい、これ以上書くとホントに頭がオカしい奴だと思われるので止めときます。が、最後に『ある作家が好きにになったら、当然のごとく、その作家の全著作を読まなくてはならないのか?』って疑問の答えを書くと、読まなくても全然構わないと思います。だって、オレだってそうだからね。今月は以上です。キャップ。 
 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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