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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

膀胱に暴行され続けて

 白状してしまうが、オレは小学3年ぐらいまでは月に2~3度は寝小便をしていた。
 で、もちろん、それは治ったのだが、20代の中盤ぐらいに、その当時付き合っていた女のマンションに泊まっていて、朝起きてみたら酒も飲んでないのに思いっきり小便を漏らしていた時は恥ずかしくて死ぬかと思った。

 ま、ということで幼少の頃からオレの膀胱は少し聞かん坊だったのだが、20代の後半になってからはその上、オレの膀胱は他人より小さいってことがわかった。いや、それまでも学校や公衆トイレで自分の隣に立って小便してる奴は、やたら小便をドバドバ出すなとは思っていた。オレの膀胱から続く尿道が三級河川だとしたら、周りで小便をしている奴らのソレは最上川や軽く決壊している荒川のような勢いなのである。その上、オレの膀胱はあまり長時間小便を溜めてはおけず、当時オレは週に何度か高田馬場にある出版社に車で片道1時間半ぐらいかけて通っていたのだが、特に行きの時には途中の中野にある小さな公園の公衆トイレ、そこで1回用を足さねばならなかった。
 その後、30代になったオレは、今度は紀行本の取材のためにアジア諸国を回ることになったが、そこでしばしば心から苦しむようになった。なぜなら乗船率300%のベトナムのポンポン船、あるいは乗車率400%以上のインドの糞ボロい列車、そういう狂暴なモノに10時間以上も乗り続けなければならないケースがあり、そうなると身動きすら出来ないので、とにかく1回も小便が出来ないのだ。いゃあ~、あれはホントに苦しかった。今、思い出しても脂汗が出てくる。

 そして、50を過ぎて1~2年が経つと、冬場になると膀胱が固くなって更に縮んでしまい、夜中に何度もトイレに起きるようになった。その具体的な回数だが、最初の1年は2~3回だったのだが、次の年になるとそれが4~6回に増え、その次の年の冬には遂には10回近く起きてしまうことも出てきた。で、こうなってくると昼間でもメタメタ眠くなってきて生活に支障が出てきたので、テレビのCS放送で宣伝しているサントリーの「ノコギリヤシ+セサミンE」というサプリメントを飲んでみることにした。このサプリは中高年男性のスッキリ感をサポートするらしく、つまり、それはどういうことかと言えば、縮んで小さくなっている膀胱を少し膨らませてくれるというのである。が、1セットに90粒入った30日分で5000円以上するので、最初はどうしようか少し迷ったが、この当時はお試しで初めの1セットは無料になるというので取り寄せることにした。
 で、どうなったのかと言うと、夜中に平均5~6回行ってたトイレが1~2回で済むようになったのだ。1カ月後、サントリーから電話があり、どうしようか考えていたが、相手の『50代で一晩10回も用を足されるというのは、どう考えても、ええ、普通じゃないというか……ええ』という言葉に何故かカチン!ときてしまい、反射的に「もう、要らない!」と言って電話を切ってしまったのである。
 で、翌日から再び夜中の尿意に困り始めたオレは、今度は近所の大型薬局に行って「ユリナール」という錠剤を購入。効能はノコギリヤシとほぼ同じで、これを飲めば膀胱が少し膨らんで小便を溜める機能が改善されるとのこと。そんで実際に飲もうとしたんだけど、これって昼5錠、夜5錠の1日10錠も飲まなきゃならなくて、しかも、錠剤が割とデカくて、ハッキリ言っちゃうと毎日10錠も飲まなきゃならないって、ちょっとキツいんですわ。結局、オレは寝る前に自分でも分からないが1錠少ない4錠だけを飲むようになり、5~6回行くトイレが2~3回になった。

 で、冬の昼間は大丈夫かというと、これもその日の体調次第。何年か前に同い年の佐保田のおっさんという土建屋の社長と一緒に長野の温泉に行ったのだが、このおっさんもオレと同じくダメな膀胱を持っているのである。だもんで、もう高速道路に乗ったら必ず各インターチェンジで止まって、そこの公衆トイレで小便をするのは当り前のこと。高速を下りても途中でコンビニが見える度にソコのトイレに順番に飛び込み、日帰り温泉に着いても、まずは真っ先にトイレに飛んでく始末。オレは正直に白状するが、そこの濁り湯に浸かってる間も当然のごとく小便がしたくなって、その中で2回ほど放流してしまったが、多分あの日の佐保田のおっさんも1~2回は垂れ流していたと思う(笑)。

 いや、でも、こんな感じになるのは毎日じゃなくてね。例えば、友達の塚ポンが経営してる串カツ屋に行って、俺は毎回車で行くからアルコールは飲まずにウーロン茶や緑茶を大ジョッキで5杯も6杯も飲むんだけど、リラックスしているせいかまったくトイレに行きたくならないのだ。つーか、どういう気まぐれなんだよっ、オレの膀胱は!?
 てか、このままじゃ60代になる前に、まず車の中で小便を漏らしてしまうだろう。ま、1人の時は後でコッソリと掃除をしとけはいいが、何人もが同乗している時はそうもいかない。で、そうならないためには、冬時に遠方に外出する際には大人のオムツを履くしかないのである。しかし、自分で言っといてなんだが、大人のオムツって………。

 オレは42歳の時に脳出血を患い、2ヵ月も意識と記憶を失ったことがある。で、ある日突然その2つが戻り、さらにその2日後に東映に勤めている菅谷さんという友だちが病院に見舞いに来てくれて、院内にある喫茶店に行こうということになった。が、まだ真っ直ぐに歩けなかったオレは車椅子に乗ることになり、それを菅谷さんに押してもらって喫茶店のテーブルに着いたのである。そして、菅谷さんの話を色々聞いてるうちに急に小便がしたくなった。が、その時のオレはリハビリ用の紙パンツを履かせられていたので、小便をするには、まず菅谷さんにトイレの前まで車椅子を押してってもらい。何とか個室に入ったら紙パンツを脱ぎ、そこでやっとこ小便をしたら、また紙パンツを履き、個室の外まで自分で出てから、菅谷さんを呼んで車椅子に乗せてもらわなければいけなかった。
 本当に面倒くさかったが、リハビリ中の身で小便をするのはそうするしかないのだ。オレはニコニコしながらも、菅谷さんの言葉が一瞬でも止まる、その瞬間を待った。が、その時の菅谷さんは、入院していてズーーーッと面会謝絶になっていたオレと会えて凄く嬉しかったらしく、いくら「あの、ちょっとトイレに……」という言葉を挟もうにも、そういう間がドコにも無かったのである。

(はい、これからオレは静かな死刑を受けます………)
 心の中でそう喋った後、オレは菅谷さんの真正面に座りながら小便を垂れ流した。もちろん、体全体は恥ずかしさのあまり、多分真っ赤に火照っていて、いつ菅谷さんに「小便をしたかったら、ちゃんと言って下さいよ!!」と怒鳴られるかバクバクしていた。ところが、なんとか無事に誰にも気づかれずに小便を出し終え、ホッとしたのも束の間、今度はそれと入れ代わるようにハンパない便意が襲ってきやがったのである。

バビバフッ!!

「うわっ、こ……ごめんなさい」
 オレは思わず放ってしまったオナラのことを菅谷さんに謝り、菅谷さんも瞬時に黙ったかと思うと、今度は「大丈夫ですか、板谷さん?」と言ってから可笑しそうに笑った。
 が、その時にはオレの下半身は尋常じゃないことになっていて、3秒置きぐらいに肛門がゲル状のウンコを花さかじじいのようにパンツの中に放っていた。もちろん、恥ずかしくて顔を上げられなかった。だって、その時のオレは、周囲に何人もの人がいるというのにウンコをブリブリ放っていたのだ。ところが、菅谷さんときたらそんなことは全く意に介さず、再び自分の話を夢中で始めていたのである。そして、それがまた一層の恥ずかしさをオレに与えた。
 はい、話を戻そう。つまり、近い将来、大人用パンツを履くであろうオレは、あの脳出血の時のような恥ずかしさを味わうことになるのだ。そして、そういうことが何度もあると、しまいには友人や知人の前で小便やウンコを漏らしまくっても何とも思わない生き物になってしまうのではないか……。てか、今から言っとくけどオレは将来、必ずこのダメな膀胱が関係した、例えば前立腺の癌になったりするだろう。
 ま、その問題は置いとくとして、何とか自分の膀胱を鍛える手段は無いものか……。いや、鍛えるなんて夢みたいなことは言わないから、せめて膀胱の拡大手術みたいなことは出来ないのか?



 つーか、オレの膀胱っ。これから先、お前がさらにオレを困らせるのは覚悟してるけど、20代の頃から事有るごとにオレを悩ませていたことについては謝れよ! それも、今すぐ!! じゃなかったら、これから火傷覚悟でメタメタ熱い風呂に入るからなっ。何とか言えっ、くぅおのっ野郎!!

 

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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