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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

うどんのディスニーランド香川(後編)

 何回か香川県を訪れた後、今度は計8日間で30軒以上の讃岐うどん屋を1人で回ろうと決意したオレ。
 仕事でもないのに何でそんな計画を立てたのかというと、とにかく次々と出てくる旨い讃岐うどん店、それに対して(よしっ、これでようやく旨いうどん屋が殆ど出揃ったな!)という目星というか整理をつけておきたかったのだ。そう、根っからの食道楽のオレは、(おいおい……一体旨いうどん屋は何軒あるんだよ!?)という気持ちのままでは夜もロクロク眠れたもんじゃなかったのである。

 で、その30軒以上の讃岐うどん屋をどういう方法でピックアップしたかというと、前回オレは香川県高松市にある本屋で貴重な書籍を発見したのだ。その本には『さぬきうどん全店制覇攻略本』というタイトルが付いていて、なんと香川県にあるうどん屋700軒以上の簡単な紹介がズラリと載っていたのである。
 オレは、その本を迷わず購入した後、その1ページ1ページを真剣に読み込み、計30軒のうどん屋さんをピックアップ。また、それに加えて、香川県に出かける1週間前くらいからツイッターを利用して、香川近辺に住んでる人たちに向かって旨いうどん屋を教えて欲しいというツイートを送っていた。その結果、十数名の人たちから計20軒近くの旨いと言われているうどん屋がピックアップされ、中でも香川県の西部に住んでいる赤目くんという人からは面白い情報も多数届いた。

 つーことで、50軒以上のチェックすべき讃岐うどん屋の情報を用意したオレは、早速気合を入れて香川県までの750キロを約8時間かけて車で走破し、同県に入ってから次々とうどんを食いまくった。
 そして、2日目。泊まっている高松市のビジネスホテルを朝早くから出発したオレは、例の赤目くんが教えてくれた「木田酒店」という名の讃岐うどん屋に突撃。が、正直それほど旨くなかったなぁ~と思って店を出たオレは、続いてソコから1キロも離れてない「日の出製麺所」といううどん屋の駐車場に車を滑り込ませた。ちなみに、このうどん屋は営業時間が昼の11時半~12時半と、たった1時間しかないということなので、オレは慌てて車から降りて店に向かおうとしたところ、7~8メートルほど離れた場所からモノ凄い形相をした2人組の男が、まさに黒澤映画に出てくる刑事のような勢いでコチラに突進してきたのである。

「あ、あの……い、い、板谷さんですよねぇ?」
 目の前まで来て、そんな声をかけてくるメガネ&ボザボザ髪の方の男。
「えっ………ああ、そうだけど」
「ガハッハッハッハッハッハッハッ!! あのっ、自分は昔、パチンコ雑誌社宛に板谷さんの本を送るとサインしてくれるというフェアーがありまして、ガハッハッ、ガハッハッハッハッハッハッ!! 俺、板谷さんの本は10冊以上持ってたんで、あの……ガハッハッハッハッハッハッハッ!! それ全部送ったら、1カ月後にその全部にサインが入って、ガッハッハッ、ガハッハッハッハッハッハッハッ!! 送り返されてきたんですよっ。ガハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」

 (何だ、このキチ○イ………)と思った。そして、オレの頭は次の瞬間から、とにかくコイツから1秒でも早くバックレる方法を考えていた。

「ええっ………キミが赤目くんなのっ!?」
 日の出製麺所店内で並んで腰掛けて少し話すと、そのメガネ&ボザ髪男は自分のコードネームは赤目だと言う。
「じゃあ、本名は?」
「本名は、ゴウダですぅ~。ガハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」
 うわっ、嫌な名前だと思った。四国や九州の「郷田」という名字の男は、オレだけかもしれないが何か乱暴な奴というか、とにかく脂っこい性格の困った奴というイメージがあった。さっきから休み無しに放たれるこの会話&笑いだけでも充分普通じゃないのに、このきっと最悪な性格の男に捕まってしまうと、今回のせっかくの讃岐うどん制覇計画が台無しになると思った。

「いやぁ~、今朝早くからボクたちは木田酒店の前で、ガハッハッハッハッハッハッ!! ズーッと板谷さんのことを張ってて、ガハッハッ、ガハッハッハッハッハッハッ!! あれっ、今の板谷さんじゃないか!?って追いかけたら、この店の駐車場で止まったんですよっ、ガハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」
「なぁ、どうでもいいけど、君ってどうして最初からフルスロットルっていうか、そんなに急いで喋ってくんのっ?」
 オレは、店内に響き渡るその大声を少しでも弱めるため、そんな質問を放ってみた。すると、その喋りが5秒近く止まった後、次のような答えが落ち着きを払った声で返ってきたのである。
「いや……喋らないと皆いなくなっちゃうんですよ」
「……はぁ?」
「いや、こうして喋り続けても大抵がいなくなっちゃうんですけど、それでも喋った方が長い時間一緒にいてくれるんです」

(なっ……なんて正直な奴なんだ………)

 結局、その一言でオレは心を見事に打ち抜かれてしまい、その郷田ならぬ、合田くんと仲良しになるのだが、彼のことを紹介してくとこのコラム100本分ぐらいになってしまうので、それは近々1冊の本にするということで話を先に進めると、とにかくオレはその旅行で計32軒のうどん屋を回り、ようやく讃岐うどん界の大まかな勢力図というか、人気図のようなモノを頭の中に描けるようになった。

 が、それでもまだまだ探索が必要だと感じたオレは、その年だけでも計6回香川を訪れ、前出の合田くんをガイドに勢力的にうどん屋巡りを断行。また、その際に四国の名所巡りも予定に挟み込み、ちなみに香川に来る途中の淡路島では毎回全長100メートルもある巨大仏の世界平和大観音を鑑賞。そして、香川県の小豆島にある、これまた小豆島観音という全長約60メートルの巨大仏も鑑賞。さらに、愛媛県では道後温泉でひとっ風呂を浴び、今治市にある「登泉堂」ではカキ氷屋、「重松飯店」では名物の焼豚玉子飯を完食。
 また、徳島市内では名物の徳島ラーメンを食べ比べ、大歩危・小歩危に広がる大自然を鑑賞し、また、その近くにあった「かずら橋」(木のツルだけで作られた橋)」をギャーギャー言いながら渡ったりした。そして、1番最近では高知県の桂浜や闘犬センターを訪れ、その近くにあるひろめ市場の「安兵衛」で屋台餃子、「明神
丸」では激旨のかつおのたたきを食べ、さらにさらにその近くにある「英屋」という高級郷土料理屋では、さらに旨いかつおのたたきを満喫したのである。

 が、もう1度言うが、そういう名物の中でもやはり香川の讃岐うどんは断トツに奥が深かった。
 そう、うどんを食うだけでも満足する店が沢山あるのに、それに加えて店の場所がとんでもない山の中にある店舗も多く、各店イチ押しのうどんの種類は更に増え続け、笑っちゃうようなキャラの店主もゴロゴロいるのだ。オレにとっては、そういう1軒1軒が正にディスニーランドにあるアトラクションと同じなのである。要するに、香川県という日本一小さな県に700以上のうどんアトラクションが散らばっているのだ。こんなドキドキ、ワクワクする遊園地は他にはない。
 おっと、ドキドキ、ワクワクする遊園地と言ってしまったが、香川県にもう15回ぐらい来て、ようやくハッキリわかったことがある。そう、このコラムの前編に書いた「どうして香川県の讃岐うどんは、こんなに断トツに旨いのか?」という問いの答えである。

 それは、こんなにも多くのライバル店が同県内で凌ぎを削っているため、少しでもマズいうどんを出す店を作ろうものなら秒殺で潰れてしまうのだ。だから大抵の店の店主は、うどん作りのテクニックを毎日のように磨き、と同時に、その店の名物うどんを何にするかを日々考えているのである。
 そう、香川にあるディスニーランドは、表向きはポコポコした低い山が沢山あるノンビリとしたところなのだが、ことうどんに関しては正に真剣勝負の場所なのだ。ま、だからいつまで経っても飽きないんだけどね、このディスニーランドは(笑)。

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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