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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

吠えるケイコ(後編)

「な、何だよ、やってもらいたいことって……?」
 自分の仕事部屋で、隣に座っているケイコに再び尋ねてみた。
「うん……。実はね、今、赤坂で和服屋をやってる金持ちのジジイを引っ掛けててね。それで、あと少しで大金を出させるところまでいってんだけど、
そのあと一歩を相手はなかなか踏み出さなくてさぁ。で、アタシは考えたんだけど、まず、アタシがコーちゃんに……」
「ストップ!」
「えっ……!?」

 すこし驚いたような顔になりながら、オレに視線を合わせてくるケイコ。
 そして、オレはそんな視線をガッチリ捕えながら、気がつくと改めて湧いてきた怒りの気持ちを彼女にぶつけ始めていた。
「つまり、またオレにヤクザ役みてーなことをやらせて、自分を助けるために、その和服屋のジジイから金を出させようって算段だベっ?
オレは、そんなことをやらねえよっ!!」
「いや………だ、だからっ、それに協力してくれれば、アタシはいくらでもコーちゃんのオチンチンをっ……」
「もういいよっ。つーか結局おメーって全然変わってねえのなっ! お前、もしウチのオフクロが生きてたとしたら、その前で同じセリフが吐けるんかいっ、おおっ!?」
「っていうか、ヨッちゃん(ウチのオフクロ)は関係ないじゃない! それにタダで協力してくれとは言わないわよっ。そのジジイに金を吐き出させたら、コーちゃんにだって……」
「要らねえっつーーのっ、そんな銭!! オレはなっ……」
   ガチャ!!
「おお、やっぱしいたのか……」

 不意に開いた仕事部屋のドア、そこからキャームの顔がコチラを覗いていた。
「おっ……おい、黙って人の仕事部屋のドアを開けんなよ」
「いや、さっきから下で何回も呼んだのに……って、それより、このババアって、この前、俺がファミレスで文句つけた、確か……ケイコってババアだろっ? 何であのババアが、こんなとこにいるんだよっ」
 そう言って早くも戦闘体制に入っているキャーム。

 つーかっ、どんなタイミングなんだよっ、これは!? てか、最近は1ヶ月に1度くらいしかウチに来なくなったキャームが、何でよりにもよって、ケイコが来てるこんな時に顔を出して来るんだよっ!?
「うるさいわねぇ。アタシはこの家の親戚なんだから、いつ来たっていいじゃないのっ!」
「正確に言うと、親戚ってことを口実にコーちゃんを利用したり、金を出してもらおうとするえげつないババアなわけだろ、おメーは!」
「また、こんな事を言ってるわっ、この黄金虫のメスみたいな体形の男は!」
「るせえよっ、ウソツキ丸。今度は、どんな下らねえウソをつきに来たんだよ! まさか、今度は嵐の松潤と結婚することになった、なんてコクんじゃねえだろうなっ」
「お前っ、アタシの軍隊に殺させてやろうかあああっ!?」
「プハッハッハッ! アタシの軍隊って、どんな軍隊なんだよっ!? ちゃんと進軍ラッパとかを吹く奴もいるのかよっ!?」
「こんガキ、1回殺してやるううううっ!!」

 そう叫んでオレの隣のイスから立ち上がると、キャームに突っかかっていくケイコ。
「上等だよっ!! 貴様こそ、この部屋の窓から叩き出してやるっ!」
 そう言って、ケイコが着ているセーターの襟首を掴むキャーム。
「ちょ、ちょっと2人とも止めろやっ!! この部屋に飾ってあるっ、オレが必死コイて作った『昭和の夜祭り』のフィギュアが壊れるから止めろってんだよおおおおおっ!!」

 1分後------。オレの仕事部屋にあるイス、それにそれぞれ腰掛けて、再び口喧嘩を始めるケイコとキャーム。
「汚いババアなんて、アンタみたいな瞬発力だけで生きてるような男に言われたかないんだよっ!」
「汚いババアを汚ねえって言うことのドコが悪いんだよっ、ええ!?」
「だきゃらっ、汚なかないんだよおおおっ!! ちゃんと整形だってして、顔の皺だって伸ばしてるしっ!!」
「あっ、どうりで印象が前と少し違うと思ったら、そんなことをしてやがったのかっ!」
「アタシはお前と違って年を取ったら取っただけ進化をしているんだよ!!」
「なにが進化だっ、笑わせんじゃねえっ! ツラの表面の皺だけ伸ばして若ぶっても、テメーは鏡を見てみろよっ。何だっ、そのチャウチャウ犬みてーな皺だらけの薄汚い首はっ!? それから、その手の指だって製造してから半年以上経ったソーセージみてえじゃねえかっ!」
「デ、デタラメ言ってんじゃないわよっ!」
「デタラメじゃなくて100%ホントのことを言ってんだよっ!! つーか、ババア。気持ち悪いからっ、俺から少し離れろや! 何だかさっきから、大型犬が生きたまま焼かれてるようなニオイが貴様から漂ってきて気分が悪いんだっつ------の!!」
「もういいっ!! コーちゃん、最後に言っとくけど、この男とは早く縁を切った方がいいわよっ。何だか知らないけど、この男の方こそアンタのお母さんを燃やしたようなニオイがするからっ!」
「なっ…………」

   バターーーンッ!!
数秒後、オレの仕事部屋のドアを思いっきり閉めて帰っていくケイコ。

 

おい、オレって初めて見たぞ。ケイコが負けたのって………。

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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