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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

カレー大論争

ゲッツ板谷(以下、ゲ)「はい、つーことで始まりました、カレー大論争」
ハッチャキ(以下、ハ)「何ばい、何が始まるとぉ?」
「ガハハハッ、わざとらしいなぁ~。最初っから博多弁とか使っちゃって。いや、今回は今後の日本のカレー事情がどうなっていくのか、キミと徹底的に討論していこうと思ってさ」
「人の家にいきなり遊びに来たかと思えば、カレー事情を討論って……相変わらず自分のペースを全く崩さないねぇ」
「いやぁ~、にしても日本のカレー市場も30年ぐらい前から色々なモノが登場してきたろ」
「例えば?」
「それでもラッパは吹くんじゃい!!」
「………は?」
「いや、あの……例えば、ほら、現在ではどの街に行ってもあるけど、インドやネパールのカレー店、アレがポチポチと出始めてさ。今じゃ、もう食い飽きちゃったけど、御飯代わりにナンをカレーに付けて食べたり、同じ御飯でもインドの炊き込みご飯ビリヤニを出す店なんかも出てきてさ」
「ふむふむ」
「え、何を踏むの?」
「………え?」

「で、続いて流行ったのはタイカレーでさ。パッポンカリーとかグリーンカリーとか、とにかく見た目が新鮮だったよな。カレーの中にタケノコとかアボカドが入ってるのも驚いたし」
「うん、確かに」
「でも、そういう海外のカレーって、日本の家庭にはなかなか馴染まなくてさ」
「いや、でも日本の家庭に馴染んでたのって、元はインドのカレーをイギリスが少し加工したヤツでしょ?」
「何ちょっと知ってるからって、人の足を引っ張ろうとしてんの?」
「いや、引っ張るも何も、だってコレって討論会でしょ?」
「また、そうやってオレのことをヒットラーとして弾劾裁判にかけようとするのかいっ!?」
「……はぁ?」
「まぁ、いいや。で、日本の国内で定着してるカレーって、市販の固形ルーを使ったポーク、ビーフ、チキン。あとはキーマカレーぐらいなもんだったろ。ところが、今から15年ぐらい前に北海道からスープカレーってのが入ってきたろ?」
「入ってきた、入ってきた。で、そのうちスープカレー用の市販のルーも出てきて、うちの嫁さんなんかも時々作ってたもんな」
「アレは日本が生んだ新種のカレーだったよな」
「俺なんか、今でも時々渋谷の……」
「まぁ、でも、2~3年で、その静かなスープカレーブームも収まっちゃって、今じゃ大きな街でもスープカレー屋は2~3軒しかないけどな」
「……………」
「で、その後、鹿肉とかを入れるジビエカレーなんてのも出てきたけど、それはブームにはならなくて、日本のカレー界は欧風、インド、タイ、スープカレーと、いくつかのカレー界が共存するようになったじゃん」
「つーか、カレーよりラーメン界の方が熱いしね」
「それでもカレーラッパは吹くんじゃい!!」
「……………」
「で、つい4~5年前からですよ。大阪でスパイスカレーブームってのが起こって、去年あたりから東京にもそのスパイスカレーの店ってのがポチポチでてきたろ」
「あ、大久保で営業してる“スパイシーカレー魯珈”みたいな店でしょ?」
「魯珈の話は、するなああああああああ~~~~~っ!!」
「……な、何で?」
「……まだ1回も行ってないから」
「板谷くんにしたら遅いんじゃないの、そういうカレーの話題の店に行くの(笑)」
「それでもラッパは吹くんじゃい!!」
「もういいよっ、それは!」

「お前に言っとくぞ」
「……何?」
「この原稿の各文の冒頭部を見ると、ハゲハゲハゲハゲって、ハゲ続きで気分悪いから、お前は名前を変えろ! 今日から“トンボの涙”にしろ!」
「嫌だよっ、そんな何の面白みのない名前。しかも適当に長いしっ」
「じゃあ、ドベ」
「もう名前の事はいいよっ。話を進めろよ」
「そうだよっ、オレは大阪のスパイスカレーのことを話してたんだよ。てか、ここからが今回の討論会の本題に入っていくんだけどな」
「全然討論なんかしてないけどね」
「生意気言うなっ、最終増量剤!! お前、もう帰れ!」
「帰れって、ココは俺の家なんだよ!」
「じゃあ、ココアをいれてこい。それも飛びきり熱いやつを。貴様の股間にぶっかけてやる!」
「いいから話を進めろよっ。俺、あと1時間もしたら美容室に行かなきゃなんないんだかレア!」
「何だよ、最近は人の髪の毛を集める仕事もしてんのか?」
「髪を切るだけだよっ!!」
「オレが切ってやろうか?」
「いいから話を進めてくれ!」
「え~とぉ、YMO復活の話だっけ?」
「復活しねえよっ、そんなもん! 大阪のスパイスカレーの話だろっ」
「そうそう、話によると元々スパイスカレーってのは、1980年代ぐらいに東京でカシミールカレーってのを食べた常連達が自分らも、そのカシミールカレーを作ろうとしていろいろ研究したり、世界各地のスパイスを追い求めてるうちに、結局は“わけのわからないもの”を作ってな。で、それを元に商売しようとしたんだけど、東京は市場が成熟してるから新しい芽は出にくいってことで、なら大阪だったら、まだ新しくて面白いものが注目される余地があるってことで、そこに何店舗かがオープンして、それが現在のブームにつながってるらしいんだよな」

「はいっ、ちょっと待ったあああっ!」
「何っ?」
「カシミールカレーって、板谷くんが今も1~2カ月に1回は通ってる群馬にあるカレー屋で出されるカレーだろ?」
「そうだよ」
「いや、俺も何回か食べに連れてってもらって、確かにあのカシミールカレーってのは相当に旨いよ。多分、今まで俺が食べたことにあるカレーの中でも1、2位を争う旨さだよ」
「で?」
「で?って………いや、だからさ。前々から思ってたけど、どうしてあのカシミールカレーが大好きな人たちはインドのカシミール地方に行かないんだろう? そこに行けば、ひょっとすると更に美味しい本場の……」
「このバカチンぎゃあああああああああああああああ~~~~~~~~~っ!!!」
「な、何だよっ、突然!?」
「あのなぁ~、オレは何度も言ってるけど、カシミールカレーを作ったのって日本人なの! カシミール地方に行ってもカシミールカレーなんて呼ばれるものは無いの!!」
「に、日本人が作ったって……誰よ、それ!?」
「今も銀座と上野に2店舗あるけど、インドカレー屋の“デリー”って店の経営者だよ」
「じゃあ、あの群馬の前橋にあるカレー屋のカシミールカレーっていうのは……」
「そのデリーで働いてた人が作った店が、あの前橋と高崎にある店だよ。……オレもその事を30年近くも知らなかったけど、2年前に知り合った青梅でニューギニア料理兼、蕎麦屋兼、インドカレー屋兼、コーヒーショップをやってるアポさんて人が、そのことを教えてくれたんだわ。ちなみに、そのアポさんも自分でカシミールカレーを研究してて、今ではかなり近い味のカレーを出せるようになってんだよな」
「………ち、ちょっと今、展開が急過ぎて言葉も出ないよ」
「さらにオレとカシミールカレーの間には深い繋がりのようなものがあってよ。オレ、自分ではカシミールカレーを教えてもらったのって、23歳ぐらいの時に友達だった銀角さんに連れられて彼の地元だった前橋のカレー屋に行ってさ。で、ソコで初めてカシミールカレーを食べて、その時に一緒にいた漫画家のサイバラと『何じゃい、このクソ旨いカレーはあああっ!?』って驚いたと思ってたんだよな」
「思ってたぁ?」

「でも、実はオレ、17歳の高校2年の時に既にこのカシミールカレーを食べててさ」
「はぁ? ……ど、どういうこと!?」
「いや、その日、高校の友だちから“俺の地元に旨いカレー屋があるから食いに行こうぜ”って誘われたのが実は、あの上野の『デリー』だったんだよ」
「ええっ!」
「しかもよ、オレ、その時に凄く辛いカシミールカレーを2~3口食べたら、急に左の脇腹に差し込みが走ってさ。気がついたら失神してて、その当時、上野にデリーの左端には3畳ぐらいの和室があって、そこで起こされたんだよ」
「ガハハハハハハッ!! なんだよ、今じゃ激辛なんて何でもないとか言ってるけど、高校生の時は辛い物食べて気絶してたんじゃねえかっ。ガハハハハハハハハハッ!!」
「テメー、もう1回笑ったら、そこの窓から下に突き落とすからな!!」
「ああ……ゴメン、ゴメン」
「で、話を大きく戻すとよ。その伝説のカシミールカレーを食べてた常連たちが全国に散らばって、何とか自分たちもそのカシミールカレーを作ろうと模索を始めてさ」
「あっ、じゃあ、あの、ほらっ、福岡にある『うるしカレー』にもカシミールカレーに凄く良く似たカレーがあるじゃん。あのカレーも……」
「ま、当人たちじゃないから何とも言えないけど、多分、デリーのカシミールカレーを追いかけてた人なんじゃねえのかなぁ……。だって、あのカシミールカレーって真似でもしなきゃ絶対出せない味だもん。福岡にある“やま中”の味噌味のモツ鍋と同じく、真似しようとしなければ味が独特で絶対同じようなものは出来ないよ。ね、蟻月さん!」
「うわっ、板谷くん。今、もの凄いこと言ったよ(笑)」

「で、さらに話を進めるとさ。カシミールカレーを目指してた常連たちが大阪に集まってきてさ。その子供や友達なんかが多種のスパイスをブレンドしながら、何種類かの傑作カレーを作ってさ。1種類じゃなんだから、2~3種類のカレーを1つの皿に盛って、ついでにそこに美味しいサラダ、ヨーグルト、お新香なんかも乗せちゃったのがスパイスカレーらしいんだよな、どうも」
「ほぅほぅ」
「ところが、結論から言っちゃうと、このスパイスカレーは東京じゃそんなに流行らないだろうな」
「え、何で?」
「だって、その自分たちが作った何種類かのカレーの殆どが美味しくなくちゃいけないんだよ。ほら、1つの皿の上に遊園地のように色々なルーや御飯や野菜なんかを配置するから、1つでもあんまり美味しくないカレーがあったら、それがその皿全体にモロに影響しちゃうだろ。だからスパイスカレーを成功させるには、単にカレーが好きってだけじゃなく、もの凄いセンスが必要で、日本人の中にそこまでのセンスがある奴って一体何人いると思う?」
「だよねぇ……」
「ちなみに、オレ的には今まで食べたスパイスカレーでダントツに、その総合力に圧倒されたのは京都にある『ムジャラ』って店だな。で、そのムジャラに時々通って、でも、独自に4年間だけ研究を続けた、埼玉県は越谷市にある『モクロミ』って店が東京では1番旨いと思うよ。2店とも店長がハンパなくカレー作りの才能があるから」
「何だ、もう結論は出てんじゃねえか」
「あと、カレーのスパイスの種類は1種類しか無いけど、神奈川県は相模原市にあるカレーハウス『マボロシ』もスパイスカレーの一流店です」
「てか、今回の俺は、文章に例えると句読点のようなもんじゃねえかよ。また板谷に利用されたっ、悔しいいい~~~~~っ!!」

 

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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