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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

AVビデオの原作大会

 前にも書いたことがあるけど、オレは20代の頃に一時期あるライター集団に在籍してたことがある。
 が、まともな仕事をしたこともなく、ただ週に2~3度、都内にあるその事務所に顔を出してたんだけど、ある日、事務所に行くと、40代後半ぐらいの年の津川(仮名)って人に和室の6畳間に呼ばれた。で、その中に入ってみると、オレ以外に若手のライター志望者が2人いて、津川さんはいつになく真剣な表情で、次のような話を振ってきたのである。
「お前ら、明日までにAVビデオのシナリオを1本ずつ書いてこい。で、俺がメーカーの人にそれを見せて、相手が気に入れば、お前らにギャラを払うから、とにかく頑張れ!」
 が、当然のごとく、まともな文章を書いたこともなかったオレは、シナリオなんてものは書けるわけもなく、ただ寝る前に自分がAVビデオの監督だったら、どんな作品を撮るかな?ってことだけは10分ぐらい考えた。

 翌日。津川に和室に呼ばれるオレたち3名。
「はい、新村(仮名)。じゃあ、お前のシナリオから読ませてくれ」
 そう言われると、まるで皇族の晩餐会にインスタントラーメンでも出すかのように、微かに震えながら懐から小汚い原稿用紙の束を差し出す新村。そして、5分後……。
「おい、獣姦の相手がワニって、そんなもんどうやって撮るんだよっ?」
 突然、新村を怒鳴り始める津川。
「しかも、万一撮れたって、雌ワニをバックで……って、そんなもん誰が興奮するんだっ!! お前はバカかっ? あ~あ、お前のシナリオを読んでる時間、損しちまったよっ!!」
 そう吐き捨てたかと思うと、手にしていた原稿用紙の束を下に叩きつける津川。そして、青くなりながら、彼に何度も頭を下げる新村。
「はいっ、じゃあ次、北畠(仮名)、シナリオ見せろ」
「しゃあああっ!!」
 北畠の気合の入った返事に津川もビクッ!となり、新村に至っては拾い上げた原稿用紙をそのまま落としていた。
「ち、ちなみに、お前のペンネームと、あと作品のタイトルは?」
 北畠の前に右手を突き出しながら、シナリオを読む前にそんなことを訊く津川。
「ペンネームは『樹液ちゃん』で、タイトルは“愛の四十雀”ですっ」
「………………と、とにかく、シナリオを見せてみろ」
 そう言いながら北畠から原稿用紙の束を受け取る津川。そして、10分後……。
「おい、さっきからかなり読んでるのに、この主人公の2人は、まだキスさえ始めてねえけど、濡れ場はいつ出て来るんだよっ?」
 手元の原稿用紙から顔を上げたかと思うと、そんな質問を北畠に津川。
「いや、その2人がSEXをするのは最後の2ページだけです」
「はぁ~?」
 呆気に取られる津川。その小太りの顔が、よりサモア系の人種のように見えた。
「お前、さっきから黙って読んでりゃ、変な根暗なカップルがず----ッと富士山の中に巨大水族館を作るだの、作らないだの言ってて、その2人が最後にチョットだけSEXするだけなのかよ!?」
「そうなんです。つまり、ボクはAV界でも、こんなヌーベルバーク風な作品があってもいいと思ったんですよ」
「バカ野郎!! ヌーベルバークだかエンゲルバークだか知らねえけど、これがビデオになったら最初の10分で皆、電源を切るわっ!」
「えっ、どうしてですか?」
「何一つ面白くねえからだよぉぉぉっ!! はいっ、お前もダメ!」

 そんなセリフを吐くと、新村の時と同じく、北畠の原稿用紙の束も畳に叩きつける津川。そして、その視線が今度はオレの方に向いた。
「はい、じゃあ、板谷見せろ」
「あっ………書いてきてません」
「……………。お前、物書きになる気あんのか?」
「いや、実は昨夜、弟が短大の入試に受かったんで、家族でパーティーを……」
「言い訳してんじゃねえよっ。でいうか、ココは中学や高校じゃねえんだぞ!」
「でも、頭の中には、ちゃんと書いてありますからっ!」
 新村や北畠のように怒られたくはなかった。だからオレは、少し反ギレ状態で言葉を返していた。
「じゃあ、まず、お前のペンネームは何にしたんだよっ?」
「シャ……シャネル板田です」
「シャネル板田って………。で、お前が考えたっていうAV作品のタイトルを言ってみろよ、おお!」
「タイトルは……………」
「ほらっ、みろ。全然考えてねえじゃねえかよ!」
「考えたよっ。タイトルは、ロッ……ロシアンフェラチオの夜だよっ!!」
「ロシアンフェラチオ………」
 オレが反ギレ状態で放った言葉を受け、何故かデッドボールを食らったような顔になる津川。ところが、スグに表情を変え、
「いいっ! いいじゃん、ロシアンフェラチオ!!」
「えっ………そっ、そうっスかぁ?」
「で、どんな内容なんだ? 口で説明してみろ」
「いや……だから、若い女が2人いるマンションに凶悪犯が忍び込んでですねぇ。彼女らを監禁した凶悪犯が、ナイフを見せびらかしながら言うんですよ」
「な、なんて?」
「今からお前らは順番に5ストロークずつオレのチンコをフェラチオし、オレをイカせた方の女だけは助けてやる、って」
「いいっ!! 凄くいいっ!! そっ、それで?」
 さっきとは打って変わって、モロにエロ話を聞かせられてる中学生のような表情になってる津川。
「で、女たちのフェラチオ合戦が始まって、15分ぐらいに髪の長い辺見マリのような顔をした女の方が、自分の口に凶悪犯のスペルマを放出させるんスよ」
「はいっ、採用!! もう、その時点で採用!! 板谷、その話をすぐ書け! 今、書け!」
「い、いや、今日はこれから次の野球の試合のグラウンドを予約しに行く係ですから、今日は無理ですよっ」
「じゃあ、いつなら仕上げられるんだよっ?」
「土・日はオレ、地元でのバイトがあるんで、まぁ、来週の月曜とか火曜とか」
「わかったっ。とにかく、1日でも早く仕上げろ。ロシアンフェラチオ、イケるよっ、絶対イケるっ!! 自信を持てっ」
 が、自信を持つも何も、オレは面倒臭かったので当然のごとく、いつになっても1行も書かず、そのうちそのライター集団にも行かなくなって、結局はロシアンフェラチオはお蔵入りとなってしまいました。


 つーか、30年振りに今度ソレ書こうかなぁ~(笑)

 

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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