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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

1番人間にダメなもの

 今年で付き合いが43年目に突入したキャームが先日、脳梗塞になった。
 すみやかに近くの病院に入ったので大事には至らなかったが、ホントにコイツはギャグのように病気が続いてる。元々は25歳の時に膀胱ガンになり、それからというもの痔瘻(じろう)、腸閉塞、重度の痔、多発性逆流食道炎などを勃発させ、が、ここ暫くは何も起こらないなぁ~と思っていたら、約2年前に右眼にヘルペスの菌が入った。そして、約1年前にその菌を除去する手術を受けたが、その手術はウマくいかず現在、奴の右眼の視力は、ほぼ無いに等しくなってしまった。で、今度はオレとキャームの共通の先輩、野澤さんが紹介してくれた眼医者で来月、キャームは2度目の手術を受けることになっていたのだが、そんなときに脳梗塞になってしまったのである。

 病院のベッドであぐらをかいているキャーム、奴にオレは強い口調で言葉を掛けた。
「とにかくキャーム、お前は脳梗塞をやっちゃったんだから、もうタバコは一生一本も吸えねえからな!」
 「それが昨日、診察を受けた後で屋上に上がって吸っちまったんだけどさ」
「なっ……お前、何やってんだよっ!!」
「その後で、すぐにまた俺の別の診察をした先生にも、そう怒鳴られたよ」
「当たりメーだよっ。あんなにタバコが好きで、1日に5箱も吸ってたオレでさえ、8年前に脳出血をやってからは紙巻きタバコなんて1本も吸ってねえんだぞっ。つーか、脳卒中系の病気をやった奴がタバコを吸うと、マジで再び血管が収縮して2度目の脳梗塞を起こすぜっ。そんで、今度はどっちかの半身が完全に麻痺しちゃって喋れなくなんだぞっ。それでもおメーはいいのかっ!?」
「いや……俺は喋れなくなったら、そんなもん死んだ方がマシだよ」
「おメーは、与太話をするために母親の体内から出てきたような男だもんなぁ~」
 オレはそう言いながらも最近、付き合いを休んでいたキャームの生活を想像してみた。
 てか、元々キャームは4人家族だったが、10年前に父親が他界し、8年前には母親も亡くなった。よって今は2つ歳上のお兄ちゃんと2人で1軒の家に住んでいるのだが、このお兄ちゃんとは、もう何年も前に仲が悪くなったというか、もういないものと思って生活してるため、奴は仕事から帰ってくると、たった1人でTVを観たりしているはずなのである。
 そう、キャームは、そのあまりにも話し好きな性格のため、奴に捕まったら最後、翌日に仕事があろうと8時間でも9時間でも与太話を続けるため、早い話が相手が逃げていくというか、友達ができないのである。だから、奴の生活を改善するためには、とにかく一にも二にもその会話を減らし、とにかく1人にならないように一緒に住んでくれる彼女のような者を作るしかないのだ。

 その後、オレは再びベッドの上にいるキャームと言葉を交わしたが、やっぱり奴は病院を退院してからも再びもとの生活になりそうだったので、この前、野澤さんから聞いた話をキャームにすることにした。
「なぁ、キャーム。西暦2000年にアメリカで発見された、癌や脳卒中といった人間にとって致命傷になる病気を発生させる1番の原因になるモノって何だと思う?」
「そりゃ……タバコだろ?」
「うん。ところが、2001年以降にそのタバコ以上に人間に致命傷を与えるモノがわかったらしいんだけど、それって何だと思う?」
「えっ………。酒?」
「ブゥ~~~!」
「じゃあ……………あ、アメリカのパンケーキ!」
「ブゥ~~~! 食いモノじゃないよ」
「えっ………………癌とか脳卒中になっちゃうものだろ? う~ん………………わかんない、何?」
「答えは『孤独』だよ」
「……………………」
「つまり、1人っきりで家にいて、自分の意見や感想なんかを身近な人に吐き出せない奴が、ストレスや不安が徐々に溜まってきて、そういう重大な病気になっちゃうらしいぜ」
「……………………」


 つーことで、キャームラくん。退院したら、君の場合は逆に相手の話もよく聞くようにして、とにかく彼女を作って下さい。まだソコソコはモテるんだから、お願いしますよ。

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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