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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

実は超近くにいた天才(まだ間に合うよ!) 

 オレの知人の中でプロの料理人をやっている者は何人かいるが、それ以外の素人の中でダントツに料理の腕が凄い者がいる。
 それがオレの美術の専門学校時代の友人ハッチャキ、その奥さんの泉(いずみ)さんである。元々オレと同い年の泉さんは、福岡県博多区にある会社でコピーライターをやっていた。で、ある日、友人の結婚式に呼ばれて出席すると、その会場に招待も受けていないハッチャキが来ていたのである。ハッチャキは図々しくも、そのまま2次会にも出て、そこで得意の歌を何曲も歌い、おまけに新婦側の友人の泉さんをナンパした。で、数年後、そのまま結婚してしまったのである。
 2人は新居を博多駅から徒歩15分ぐらいのアパートに決め、オレは年に1~2回のペースでソコに遊びに行った。が、その頃のオレは、まだ専業主婦になった泉さんの料理の腕に全く気づいていなかった。なぜなら、福岡には例えばモツ鍋の「やま中」、カレーの「バークレー」「うるしカレー」、水炊きの「長野」、餃子居酒屋の「鉄鍋餃子」「テムジン」、豚骨ラーメンの「一風堂」「元気一杯!!」など、旨い飲食店がゴロゴロあって、ハッチャキ夫婦のアパートで食事をする機会が殆ど無かったのだ。 

 その後、ハッチャキが45歳ぐらいの時に東京で就職するために再び博多から出てきて、更に約2年後に彼の嫁の泉さんと娘のユマちゃんも東京に出てきたのである。で、それからというもの、ハッチャキのマンションに行くと泉さんは特に豪華な食材などは使わないのだが、チャチャッと2~3品の料理を作ってくれることがあって、そこでオレはようやく(あれっ、この人って特に料理本を見て研究をしてる感じでもないし、食材に特にお金をかけているわけじゃないんだけど、実は料理がかなり上手いんじゃないのか……?)と気がついたのである。 
 てか、実はオレに長い間それを気づかせなかった張本人はハッチャキで、コイツはオレとどんな店に行っても「いや、美味しかったよ」としか言わないのである。だから、もちろん泉さんの料理を毎日食っていても、それはハッチャキにとっては普通の食事で、特に彼女の料理の腕がいいとは言わなかった、というより奴はこんだけ長い間泉さんといるのに、泉さんが料理が超得意だということに全く気づいていなかったのだ。 
 で、それからのオレは、ハッチャキのマンションに行く前日にわざと明日の晩遊びに行くから、ハッチャキの家で何か食べるならその食材を買っていくけどと言うと、ハッチャキが近くにいる泉さんにそのことを伝え、決まって何も買ってこなくていいよという答えが返ってくる。んで、その翌日にハッチャキの家に行くと、オレ、ハッチャキ、ハッチャキの娘、そして、泉さんの4人分の夕食がキッチリ用意されていて、それを食べるとホントその辺のレストランに行くより充実した満腹感を味わえるのである。 
 いや、何度も言うけど、泉さんは決して高い具材とかは買わないのである。が、例えば柿に豆腐の白和えをかけたメニューとか、ナスを煮浸しにしてそれを漬けにしたカツオで巻いて、その上から茗荷や大葉をふったものとか、一見地味なんだけど、でも、それまでにオレが1度も食べたことのない料理が出てきて、また、そのどれもが旨いのだ。 

 ちなみに、先日ちょっと泉さんが料理を作っているところを盗み見たら、1回ザッと作るんだけど最後に味見をして、そこで何か足りない調味料とかをササッと加えて最終調整をする。これは泉さんに直接訊いたことなのだが、彼女は外に出て美味しいと思う料理に出会うと、必ずその料理には何と何が入っているのかを観察し、更に家に帰って自分なりに試行錯誤して、かなり近いところまで持っていくと言うのだ。その時に役立つのも、例の最終調整で何を加えるかという彼女の舌の記憶力を最大限に活かした直感なのだろう。 
 いや、これは絶対的に思うのだが、泉さんを調理主任にしたレストランを作ったら、間違いなく繁盛すると思う。 


     泉さん、どうっスか、2~3年後ぐらいに? 

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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