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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

板谷家レジェンド

 ウチのケンちゃん(親父)が死んでから、早3ヶ月が経とうとしてるんだけどさ。
 いや、さすがにアレだけのキャラだったからね。その人が、もうこの世にいなくなったっていう寂しさが、今ごろになってオレの腹の底にミシミシ広がってきてさ。
 それにしても最近、ハッキリわかったことがあってね。バカっていうのは、それをフォローしてくれる人がいなくなった時に初めて心のドコかで(ヤバいかも!)って感じちゃって、もちろんそのバカは治らないんだけど、とにかく大人しくなんのな。ウチのオフクロが死んでからのケンちゃんやセージのことを冷静に観察してたら、ホントにそのことがよくわかった。

 いや、でもバカの三代目のセージ、奴の“バカならではの不安定感”は今も健在でね。セージは今から3週間前に、以前勤めていた陸送会社に再就職をすることになってさ。しかも、今度は滋賀県にある本社勤務になって、週末だけ嫁の待つ立川の家に帰ってくるんだけどね。
 今まで3回戻ってきたんだけど、とにかく嫁には「まぁ、とりあえず俺は半年ぐらい働いてみるから、それが続いたらお前も東京でのパートを辞めて滋賀に来いよ」っていってたらしいんスよ。そう、さすがにセージも慎重になってきたんですわ。
 で、1回目に東京に帰ってきたセージは、疲れているというか、もう生物として完全に弱っているような顔になっててね。声を掛けても力なく笑うだけだったんだけど、翌週帰ってきたときっスよ。こんどは変に興奮してるような顔になっててね。「兄貴、親父の相続税のこと、税理士の先生に相談した?」なんて唐突に訊いてきやがってさ。「ちゃんと進めてるよ」って答えたんだけど、「ダメだよ、ちゃんとやらなきゃ!」なんて偉そうでね。つーか、つい1ヶ月前までは家で仕事もしないでゴロゴロしてたのに」、再就職した僅か2週間の間に、まるで板谷家のことまで1人で管理してるような気分になってやがってさ。その上、半年ぐらいは様子を見て決めようって言ってた嫁との生活も、もう来月あたりには滋賀の方に引っ越して来い。なんて言ってる始末でね。

 で、ついこの間の3回目に帰ってきた時は、いきなり中学2年になったオレの息子の壊れたチェーンを直すって庭に出てきたんで、オレも息子に「ほら、セージ伯父さんが自転車を直してくれるって言うから、お前も庭に来い」って言ったんスよ。ところが、息子はケータイゲームをやってて、何度庭に出るように言っても「ちょっと待ってよ!」って言うだけで全然出ていかなくてね。そうこうしてる間にセージがチェーンを完全に直しちゃってさ。んで、その後で奴がウチに上がり込んできたら、オレの息子が居間のテーブルでカップ焼きそばを食べててね。それを見たセージは、ウチの息子を怒鳴り始めてさ。結局、息子を泣かせた挙句、自分まで「お前は親に塾にまで行かせてもらってんだからっ、もっとちゃんと勉強しろよ!!」なんて言って泣き始めてね。ところが、つい数ヶ月前まではウチの息子に「あんまり塾、塾なんて言われても勉強する気になれねえよなぁ~」なんて言ってたの。

 そう、要するに、毎週末になるとウチに頭のオカしい指揮者が帰ってくるようなもんでね。とにかく、毎週性格が変わってるんですよ。ま、でも、板谷家のバカもそのくらい地味になってきたんだけどさ。

 で、今回はココからが本題なんだけどね。
 バカの一代目のウチの死んだバアさん。その親は、どのくらいバカだったのか知りたくない?
 でか、ウチのジジババは、その親である曾ジジババのこの家には2人とも養子として入ってきてね。だから、ウチのバアさんの本当の両親のことはオレは殆ど知らないんスよ。でも、この板谷家の曾ジイさんが死んでから、ウチのバアさんは時々そのジイさんの悪口をオレに言ってたんだけど、それを聞くたびに(まさか、そんなバカをする奴が……)って思ってたんだけどさ。先日、ウチの親戚の年寄りから、それが全部ホントのことだったって聞いてビックリしたというより、思わず呆れ返っちゃったんだけどね。
 その曾ジイさんの若い頃って、実は板谷家って東京の郊外にある立川市でも指折りの金持ちだったらしくてさ。てか、今の板谷家ってJR立川駅から1キロくらい離れた、徒歩15分ぐらいのところに建ってんだけどね。曾ジイさんの若い頃は、板谷家の土地って立川駅から今のこの土地までズーッと地続きだったんだって。
 じゃあ、なんでソレがキレイさっぱり失くなっちゃったかって言うとね。曾ジイさんが、その殆どの土地を警察に寄付しちゃったらしいんスよっ。で、表彰されたりしてイイ気になってたらしくてさっ。更に残った土地とかは、麻雀なんかをやって負けが嵩んだら、その土地を切り売りして返済に当ててたんだって。
 呆れるだろっ? それも今から、たかが80年前ぐらいのことっスよ!! そのジイさんが今も生きてたら、それこそ気絶するまでブン殴ってやりますよっ!
 ふぅ………。だからね。それい比べればウチのバアさんやケンちゃん、そして、セージのバカさ加減なんてものはホント可愛いもんでさ。


  しかし、ホントに洒落になんねえよね、ウチの先祖って。部屋の隅に飾ってあった曾ジイさんの写真も思いっ切り捨てたわっ、そんなもん!!

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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