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ゲッツ板谷のスケルトン忠臣蔵

再生! オフクロの焼肉のタレ

 オレのオフクロは忙しい割には頑張って料理を作っていたが、正直言うと料理はあまり上手くなかった。 
 が、今思い返してみると、1つだけ美味しい料理があった。焼肉のタレである。それにはちゃんとした理由がある。 
 オレが中学生の頃から仕事で忙しかったオフクロは、とにかく子供であるオレたち兄弟を困らせないためにも、いつも炊飯器の中には沢山の白米があり、そして、冷蔵庫の中にも沢山の豚肉が入っていた。そう、つまり、腹が減ったら豚肉を焼いて、それと白米を食べろということなのだ。 

 で、オレたち兄弟は言われた通りにしていたのだが、そうやって何度も焼肉を作っているうちに、そのタレに飽きてきたのである。当時、焼肉のタレで主要なものと言ったったらエバラ焼き肉のタレぐらいしかなく、まぁ、エバラはエバラで旨いのだが、その味を週4、週5と味わっていると流石に飽きてくるのだ。で、オレたち兄弟はその事をオフクロに不満として言ったところ、彼女は家でちょっとした暇が出来る度に自ら工夫して、焼肉のタレを作り始めたのである。 
 が、最初のうちは、ただ醤油臭いタレが出てきて、オレたちはそのタレにはソッポを向いて、仕方なくエバラのタレをつけて焼肉を食べていた。ところが、オフクロはそんな失敗が何度あっても決して諦めずに、週に1~2度のペースで焼肉のタレを作り続けた。で、オレもそんなオフクロに「旨い焼肉のタレには梨をすったものが入ってるらしいよ」とか、どこかで開いてきた知識を与え、そして、タレ作りを始めた3ヵ月後ぐらいに遂に絶妙に旨いタレをオフクロは完成させたのである。 
 そのタレは、ニンニクの刺激と梨の甘さが効いており、とにかくオレたち兄弟は家ではそのタレ無しでは焼肉は食わなくなった。それほど圧倒的に旨いタレだった。そして、そのタレはその後もオフクロによって何十年も作り続けられ、が、彼女が亡くなった17年前にオレたち兄弟の前から消滅してしまったのである。 

 それ以来、オレは何であの焼肉のタレのレシピをオフクロから教えてもらわなかったんだと、あの味を思い出すたびに唇を噛んできた。つーことで今回、当時の微かな記憶、そして、自分の舌を頼りに、あのオフクロの絶妙な焼肉のタレを復活させることにトライすることにした。 
 まずオレは、タレに使われたと思われる野菜と果物を購入。また、各調味料も揃えた。 


梨とニンニクは確実。あと玉ネギ、リンゴ、生姜も用意してみた 


調味料は醤油、ごま油、みりん、ハチミツ、ゴマ、黒コショウなどを用意 

 オレの確かな記憶にあるのは、オフクロがこのタレを作った今から45年ぐらい前には、まだ日本の一般的な家庭にはオイスターソースや豆板醤ぐらいは何とか出回っていたものの、その他のマー油、鶏油(チーユ)、ネギ油、麻辣油(マーラーユ)、棒棒鶏ソース、XO醤などは出回っていなかった。ましてやウチのオフクロは、そういう調味料を色々試すほどマニアックな人間ではなかったため、食材や調味料は上の写真に写ってる物で充分と考えられる。 
 続いてオレは、揃えた野菜や果物の殆どを前もってすりおろした。もちろん、これはウチのオフクロもそうやって野菜や果物をガシガシすっていた記憶が残っていたからだ。 


いや、この各食材をすりおろすって作業が、また疲れるんだよなぁ~
 
 そして、ここが今回のタレ作りのポイントになるのだが、1人でこの焼肉のタレを作るのだから、1回1回大量のタレを作るわけには経済的にはいかない。よって、少量の調味料を計る小さい計量カップを用意し、 また、1回作った焼肉のタレを保管しておける小さな容器を準備。ちなみに、オレの場合はプリンが入っていた小さなガラス容器を10個以上持っていて、また、その容器はプラスチックの蓋まで付いていたので、それを作ったタレを保管しておく容器にすることにした。 


オレが持っている小さな計量カップとプリンが入っていた容器。蓋付きなので、中に入れたモノを振って思いっきり混ぜることも出来る
 
 さて、ではジャンジャン作っていこう。 
<1発目>醤油大3(大さじ3杯)、おろし梨大1、おろしにんにく大1、おろし生姜小1、ミリン小2
→あんまり美味しくないし、とにかく醤油味が辛い。 

<2発目>醤油大2、おろし梨大1、おろしにんにく小2、おろし生姜小1、みりん小2、おろしリンゴ小2、ハチミツ小1
→1番目よりは全然いい。が、何かが色々足りない。 

<3発目>醤油大2、おろし梨大2、おろしにんにく小2、おろし生姜小1、みりん小2、ハチミツ小2、おろし玉ねぎ大1、ゴマ小1 
→おろしリンゴを抜いたのが失敗か? が、おろし玉ねぎ、ゴマを入れたらオフクロの味にグンと近づいた。 

<4発目>醤油大2、おろし梨大2、おろしにんにく小2、おろし生姜小1、みりん小2、おろしリンゴ小2、ハチミツ小2、おろし玉ねぎ大1、ゴマ小1、あらびきコショー小1 
→80%以上近づいた。でも、やっぱり何かが足りない。 

<5発目>醤油大2、おろし梨大2、おろしにんにく小2、おろし生姜小1、みりん小2、おろしリンゴ小2、ハチミツ小2、おろし玉ねぎ大1、ゴマ小1、あらびきコショー小1、酢小2、花山椒小1、ゴマ油小2
→もう限界。90%以上にはなったと思う。一応、唯一の自己主張として花山椒は勿論入ってなかったけど、今回加えてみた。 


色々なものが散乱する テーブルの上。いや、予想以上に大変な試みになった



大まかなレシピがわかった上で、大量に作ったオフクロの焼肉のタレ。オレにとっては宝物だ

 そして、ようやくタレが完成。早速、豚バラ肉を焼き、それに今回作ったタレをたっぷり付けて食べたところ……、 


うん、旨い!! 点数にすると95点だ
 
 つーことで、5発目のレシピはちゃんと書いてあるんで、真似して作ってみたい人はトライしてね。肉は豚バラが1番合うからね!!

 

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著者略歴

  1. 板谷宏一

    1964年東京生まれ。10代の頃は暴走族やヤクザの予備軍として大忙し。その後、紆余曲折を経てフリーライターに。著書は「板谷バカ三代」「ワルボロ」「妄想シャーマンタンク」など多数。2006年に脳出血を患うも、その後、奇跡的に復帰。現在の趣味は、飼い犬を時々泣きながら怒ることと、女の鼻の穴を舐め ること。近親者には「あの脳出血の時に死ねばよかったのに」とよく言われます。

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